
栄町共同書店◉本を読むサル読まぬサル #03
◉2024年11月7日(木)
売上カードを補充後、店番のKさんに教えられた「茶わき」で休憩。店の前に着いて気づいたのだけど、この店は1年ほど前に入ったことがあり、さらには10年くらい前にも入ったことがあるのだが、その後、探しても何故か見つからず、栄町市場っていうのは異界だな、迷宮だなと思っていた。
カウンター席で珈琲を飲んでいたら、流しのところに珍しいガラス器があって、「それ、何ですか?」と訊ねたところ、わざわざ奥原硝子に注文して作らせた酒器だというからビックリ。発注した理由にも、ちょっと感動してしまった。ママさん、粋ですねえ。
◉11月8日(金)
10月に売れた本は以下のとおり。
柴田元幸・小島敬太編訳『中国・アメリカ 謎SF』(白水社、2021) 500円
伊東潤『琉球警察』(角川春樹事務所、2021) 400円
白井聡『国体論 菊と星条旗』(集英社新書、2018) 200円
國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(新潮文庫、2022) 300円
斎藤環『生き延びるためのラカン』(ちくま文庫、2012) 200円
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫、1982) 200円
スティーヴン・キング『悪霊の島』上下(文春文庫、2016) 500円
野村修『ベンヤミンの生涯』(平凡社ライブラリー、1993) 300円
柄谷行人『政治と思想 1960-2011』(平凡社ライブラリー、2012) 400円
新垣譲『東京の沖縄人』(ボーダーインク、2003) 200円
売上金をまとめると3,200円。棚の賃貸料が4,000円だから、差し引き800円の赤字。もちろん、これは単純計算。交通費、人件費、広報費などなど、他の経費を乗せていくと、額はもっと大きくなる。
でも、わたしがやっていることは商いではなく遊び。なので、これはこれで、まあまあ良い数字のようにも思える。だってオープンしてたったの1か月、正味20日間しか営業していないのに、店ともいえない店の、商品ともよべない商品が「売れた」わけだから。
ここ20年ほどの体感からいうと、古本屋さんに本をひきとってもらう場合、良心的な店だと、段ボール1箱が平均2,500〜3,000円くらいだったんですよ。今回、10冊で3,200円だから、その意味でも、まあまあ良い数字(逆に、あれやこれやの手間だとか時間だとかを考えると、まがりなりにも商売が成り立っている古本屋って立派だな、と感心してしまう)。
ちょっと思ったのは、自分の蔵書をヤフオクやメルカリで売ったとして、そして箱店主と同程度の利益(とはいえないけどね、全然)を得たとして、じゃあそれが楽しいかというと、どうも違う気がするんだよなあ。
共同書店って、あたりまえの話なんだけど、物理的に存在する空間でしょう? だから、基本的に物事がダイレクトに操作できる。仮想的な空間にありがちなもどかしさが無い。そういう単純なことが、いちばん大きいのかもしれない。
で、この3,200円也を何に使うかというと、飲み食いするときに使います。栄町に還流するわけ。わたしにとって箱店主というのは、そういうゲーム。
◉11月10日(日)
こども向け新聞「ワラビー」にこんな記事。
本「読まない」6割超え
1カ月に本を一冊も「読まない」と答えた人の割合が62.6%に上ることが、文化庁が9月に公表した2023年度の国語世論調査で分かりました。18年度の前回調査から15.3㌽増で過去最多になりました。本は電子書籍をふくみ、雑誌・漫画はのぞいています。
文化庁の元データはこちら(令和5年度「国語に関する世論調査」の結果について)。
5年前から15%も増加したのなら、5年後にはさらに15%増えてもおかしくない。2028年には、本を読まない日本国民が75%超になるかもしれないね。
10年から30年ほどの短いスパンで見ると、日本国民の認知能力、つまり記憶、知覚、注意、言語理解、判断・推論……などの力はぐんと低下するだろうし(その代わり、どんな能力が発達するんだろう)、人類史的な長いスパンで見ると、グーテンベルク以来、知的活動における地殻変動が進行中ととらえることもできる。
この点にかんして、いまは「中世」ですよね、と思っている。
◉11月19日(火)
11月13日、谷川俊太郎が亡くなったそう。享年92。
以前、杉並区に住んでいたので、たまに街中で見かけることがあった。高齢の「詩人」がひとり静かに珈琲を飲んでいる。そんな姿を、日常生活の一部として、ふつうの「風景」として眺めることができたのは、得がたい体験だったと思う。
そういったこと含め、詩と写真を組み合わせた『東京バラード、それから』(幻戯書房、2011)という詩集を好ましく感じていた。
◉11月20日(水)
そのうち棚出しするつもりだった谷川俊太郎の詩集『女に』(集英社、2012)を、この機会に並べようと思ったものの、どこにあるのか、探しても見つからない。「逝去のタイミングだし、これはきっと売れるだろう」というさもしい根性を、本に見透かされたのだろうか。
「ポリタスTV」の音声を流しながら、せっせと値付け。
◉11月21日(木)
栄町共同書店へ。まずは売れ行きの確認。予想どおり、ほぼ動いていない。
店番のKさんが「0円のやつ、たしか1冊……」と言うので、見てみると、スタジオジブリの広報誌「熱風」が1冊消えている。
つづいて搬入。今回は本の並びを一新。9割方、入れ替える。「売れ筋」っぽいものを並べると、さてどうなるか。人気作家の本、著名人の本、ベストセラーなど。
さらにアイキャッチとして「かわいさ」や「やわらかさ」を演出すべく、木彫りの猿はやめにして、愛らしい「おさるのジョージ」を3体置いてみた。
矢部太郎『大家さんと僕』『大家さんと僕 これから』(新潮社、2017/2019) 2冊で900円
村上健志『フルーツポンチ 村上健志の俳句修行』(春陽堂書店、2021) 800円
樹木希林『心底惚れた 樹木希林の異性懇談』(中央公論新社、2019) 500円黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社、2023) 700円
又吉直樹『火花』(文藝春秋、2015) 200円
岸惠子『私の人生 ア・ラ・カルト』(講談社、2005) 400円
加藤シゲアキ『ピンクとグレー』(角川文庫、2014) 200円
志村けん『変なおじさん 完全版』(新潮文庫、2002) 100円
杏『杏のふむふむ』(ちくま文庫、2015) 200円
ポール・ニューマン、品川亮・岩田佳代子訳『ポール・ニューマン語る ありふれた男の驚くべき人生』(早川書房、2023) 1,500円知名定男『うたまーい 昭和沖縄歌謡を語る』(岩波書店、2006) 1,200円
藤井誠二『誰も書かなかった 玉城デニーの青春 もう一つの沖縄戦後史』(光文社、2022) 800円
加来慶祐『我喜屋優 甲子園の歴史を動かした男』(竹書房、2023) 700円
佐野眞一『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(集英社インターナショナル、2008) 400円
池上永一『海神の島』(中央公論新社、2020) 500円
ジェフリー・ディーヴァー、池田真紀子訳『ネヴァー・ゲーム』上下(文春文庫、2023) 600円
藤本タツキ『ルックバック』(集英社、2021) 200円
ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫、2021) 200円
星野源『そして生活はつづく』(文春文庫、2013) 200円
角田光代『さがしもの』(新潮文庫、2008) 200円
林真理子『最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない!』(文春文庫、2019) 200円
原田マハ『独立記念日』(PHP文芸文庫、2012) 200円
外山滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫、1986) 200円
「熱風」2024年7月号(スタジオジブリ、2024) 0円
いま考えているのは、だいたい1か月ペースで、ざっくりしたテーマを決めようかな、ということ。今回は「売れそうな本」。このさきも「ミステリ」とか「身体と精神」、「歴史と哲学」とか、そういった感じで。
昼ご飯は栄町のミャンマー支援食堂「ロイヤルミャンマー」で。エビチャーハンの定食セット1,100円。代金1,000円の内、200円はミャンマー支援のために使うそう。テーブルに「ミャンマー語挨拶」が記されている。
ミンガラーバー(こんにちは)
チェズーバー(ありがとうございます)
サーロッカウディ(美味しい)
ターター(バイバイ)
◉11月22日(金)
運営スタッフの呼びかけで某会議へ。わたし含め、中高年男性しか参加していないっていうのは、ちょっと問題な気がしますねえ。多様性ゼロ。石破内閣か。
ただし、そうなってしまう理由はよくわかります。要するに「おじさん」はヒマなんですよ!(ちなみにいうと、運営スタッフのみなさんは30代くらいなので、誤解無きよう)
それはともかく、某企画が動きだすことになり、まあ、それを通して、共同書店の活動が、すこしでも注目されれば、と思います。
ところで、昨日搬入した本のうち、知名定男大先生の自伝がさっそく売れているではありませんか。買った方、あなたはお目が高いですねえ。
というのも、20年近く前に出たこの本、古本で見かけることも少なく、流通していたとしても2,000〜3,000円くらいで販売されている印象なのですよ。わたしは1,200円で出していたから、お買い得だったわけ。
共同書店を後にして「生活の柄」に入ろうとしたけれど、金曜夜はお客さんがいっぱい。それは他の店も変わらない。栄町はやめにして桜坂方面へ向かう。 (O)