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vol.2 AIデータ処理技術と東レエンジの物流ソリューションの話

東レエンジニアリングは、AIデータ処理技術により、出荷から配送までを効率化する物流管理システム「TONOPS®ロジスティックス」(トノプス ロジスティックス)を開発、販売しています。効率的な出荷作業手順の提示や誤出荷防止に向けた確認、効率的な配送ルートの編成を行うこのソリューション。鍵になるのがAIデータ処理技術です。いったいどんなことを、どうやって行っているのか、当社のAIデータ処理に詳しい社員に、めちゃめちゃ簡単に説明してもらいました!

今回の【説明する人】
米元 雅裕さん
東レエンジニアリング
TRENGDシステム技術本部 専務取締役
システム技術本部長
入社以来、システム設計開発に従事。生産管理システム、組版ソフト、多店舗管理システムなどの設計開発を行う。2017年に大学と、2018年にはベンチャー企業とAI共同開発を開始し、自社システムにAI機能を搭載。データサイエンティスト、AI人材育成にも取り組む傍ら、自身でも馬と人を認識・識別するAIプログラミングを行う。
趣味は料理、ワイン、そして宇宙のことを考えること。
(上記の情報は取材当時のものです)

今回の【聞き手】
広報N。事業、製品、いろいろと勉強中。夏はフェス通い。


AIは人がやっていることをプログラムに置き換えてくれる

ーーー今日は、AIのデータ処理がどんなふうに役立っているのか、どんなソリューションになっているのか、ということをお聞きしたいと思います。
 
米元:大きいテーマだねえ。
 
ーーーですよね。なので、東レエンジの物流ソリューションを中心にお話しいただけたらと…。あの、しかもわかりやすく…。
 
米元:(笑)。じゃあ、DX(デジタルトランスフォーメーション)って何ってことから話しますか。
 
ーーーはいっ! お願いしますっ!
 
米元:DXは世の中にいろんな説明がありますが、まあ簡単に言うと、デジタル技術を使って業務プロセスを変換しようというものなんですよね。例えば、業務で、A、B、Cというプロセスがあったとするならば、デジタル技術によって、Bをやめて、AからいきなりCにいくような、そんなイメージ。業務自体を短縮することを目指すのがDXです。
 
ーーーデジタル技術というところで重要なのがAIですね?
 
米元:そう。デジタル技術はいろいろあるわけですけど、あとで詳しく話す当社の物流ソリューションに欠かせないのが人工知能。つまりAIです。
 
じゃあ、AIって何やってるの?ということですが、簡単に言うと、人がやっていることをプログラムに置き換えている。それも一瞬で。人が手間と時間をかけてやっていることを瞬く間に処理してしまう。それによって、先ほどの例で言うと、AからCのプロセスにスキップすることが可能になったりするんです。

ーーーよく聞くディープラーニングとは何でしょう。
 
米元:もともとAIというのは画像処理が中心だったんです。これはこの前のnoteの記事でも説明していたよね。https://note.com/treng657/n/n42d8469d2218
ところが数年前、深層学習、つまりディープラーニングが出てきた。これは人の脳の働きを模した、ニューラルネットワークという機械学習の手法の一つです。これが出てきて、画像処理の精度が格段に上がったし、自然言語処理の精度もぐんと上がりました。
 
ーーー自然言語処理というのはどういうものですか?
 
米元:AIに質問したら答えが返ってきますよね。質問の内容を理解するのが自然言語処理です。質問の意図や内容を理解して、それに必要なアンサーを一瞬で引っ張り出してくる。人が答えを出すためには、いろんな文献調べたりして相当時間がかかるけど、自然言語処理の働きでAIには一瞬の作業です。生成AIってありますよね。ChatGPT。あれは自然言語処理の進化形です。
 
ーーー先ほど、AIって人がやっていることをプログラムに置き換えているっておっしゃっていましたけど、そうなると人以上のことはできないってことになりますか?
 
米元:基本的にはそうですね。でも、人と違ってAIは忘れない。そして、ものすごい知識量です。人間一人に入っている知識量なんてわずかですけど、AIは違います。さらに、処理スピードが速い。人はやっぱりね、忘れるし、思い出すのに時間かかったりするしね(笑)。

物流システムは長年人の勘に頼っていた

ーーーそもそもなんですが、東レエンジはなぜAIを使った物流ソリューションの開発を始めたんですか? エンジニアリング会社なのに、なぜなんだろうと疑問でした。
 
米元:ある時、食品を扱うお客様から相談があったのがきっかけです。そのお客様企業では、セントラルキッチンで調理したものを各店舗に毎日配送していたんですが、高額な物流費をなんとか削減できないかと言われたんですね。あと、配送ルートを考える業務を効率化できないかということも。当時、どの店舗にどういう順番で行くのが最適かは人が都度考えていたんです。ベテラン社員さんしか作成できなかったんです。ところが、その人がもうすぐ定年だって言うんです。
 
ーーーそれは大変です。でも、若い人に託せなかったんですか?
 
米元:そんな簡単にいかないんですよ。実際、伝授しようとしていたんですが、ノウハウは担当者の頭の中にしかなく伝承するのに時間がかかる、しかも教えてもすぐやめちゃう、と。それの繰り返しで、大変困っておられた。その頃、当社はすでにAI開発を行っていたので、では、なんとか力になれる方法を考えましょうということになったのです。

ーーーお客様の現場の困りごとを解決するために始めたんですね。
 
米元:そうです。この食品会社さんからのご相談で、物流で困っている企業が多いことがわかりました。そこは私たちが力になれるところだと確信したんです。
 
当社はAIの開発だけを行う企業じゃなくて、お客様の現場の困りごとを解決する製品やソリューションを提供している企業。検査装置だってそうですよね。結局はお客様が困っていることを助けている。現場を知って、お客様課題を知るのはとても重要ですね。

AIソリューション開発は結構泥臭い

ーーーそこでAIデータ処理技術というのが必要になってくるわけですよね。先ほどの、AIは一瞬で処理できる、みたいな話を伺うと、開発もスムーズだったのではと思いました。
 
米元:いやいや(笑)。AI開発は結構地道で泥臭い作業なんです。例えば、ルートのプランですが、先ほども言いましたけど、現場ではベテランのノウハウに頼っていた。AIを開発するためには、その方の頭の中にあるプランをヒアリングして組み立てていくわけですけど、それが大変。そして、受注予測をして、受注量からトラックの積載量を考えて、トラックがなるべく空いたまま走らないようにルート考えて、なんて、人がやったって難しい。先ほどお話しした食品会社さん以外でも同じです。その会社が長年行ってきたやり方みたいなものがありますからね。

ーーーそうなんですね。思ったより、アナログ作業なんですね。
 
米元:最初はそうですよ。担当者にじっくりヒアリングして、ああでもない、こうでもないという地道なやりとりの末にプログラムが出来上がる。たぶん、ご想像より地味な作業ですよ(笑)。しかもね、プログラミングがうまくいったとして、その後、AIが画期的な、斬新なルートを提案したりすると、今度はお客様の現場でそれが受け入れられなかったりするんですよね。それが最適なはずはない、と。そうなると、お客様の頭の中に近づける、チューニング作業が必要になっていきます。
 
ーーーええー?! せっかくAIを導入したのにと思ってしまいますが、結局使うのはお客様だから、お客様にとって使いやすいものでなくてはならないってことなんですね。
 
米元:そうですね。AIってそれだけでなんでもできてしまうイメージがあると思いますが、結局は人が使うものなので、泥臭い側面もあるんですよね。

人口が減っていくと今後、物流ソリューションニーズはもっと高まる

米元:物流業界は2024年問題に直面していますよね。ドライバーの時間外労働が制限されることで、運転時間が短くなり、何も対策を講じなければ2030年度には34%の輸送力が不足すると言われています。
 
ーーー東レエンジの物流ソリューション「TONOPS®︎ロジスティックス」は解決策の一つになりますね。

米元:そうですね。先ほどお話ししたように、AIがルートの最適化を行って、そのお客様の状況に合わせた配送ルートの提案を高精度に行うので、そこでうんと作業を省力化できる。あと、AI画像認識によって、在庫管理や誤出荷防止を行ってくれる。入出庫作業って意外と大変で、従来、お客様の現場では、例えば、10キロの小麦粉の袋が入ってきたら、品種とロットナンバーと重量と賞味期限と、という感じで人が入力していたんですが、「TONOPS®︎ロジスティックス」はそこをAI文字認識と画像認識の組み合わせで一瞬でやってくれる。


物流業務イメージ

ーーーAI技術の組み合わせでソリューションが成り立っているんですね。ところで、物流現場ではベテラン担当者のスキル継承が難しいという話がありましたが、米元さんのようなAIのプロフェッショナルが若い人にスキル継承するのもやはり難しいですか?
 
米元:我々はAIを専門に開発する会社じゃないので、結局はAIを使ってどんな課題を解決するかということが重要。課題の解決に興味があって、何か新しいことをやってみるのが好きであれば、AI人材はどんどん育つと思いますよ。私も、入社した頃はAIなんてなかったわけで、ただ新しいこととか、答えが簡単に出ないようなことが好きだったからやれたのだと思う。
 
AIってオープンソースだから興味と根気があればいろいろできちゃうんですよ。私も競馬で馬と騎手を認識するプログラムを作ったりして遊びましたけど、好奇心があればいろいろなことを思いつくんだと思います。

米元さんがつくった、馬と騎手を見分けるAIプログラム。
興味津々でプログラミングしたそう。

ーーー今日のお話、AIソリューション開発は割と泥臭いっていうのが印象的でした。泥臭く開発するけど、AIは社会の大きな課題を解決できる。なんだかAIに少し人間味を感じてしまいます(笑)。ありがとうございました!