空 第8話

〈 病院 〉


「肺炎です。血液の状態が良くないのと、脱水症状があるので、しばらく入院になります。」
そうお医者さんが言った。私はお母さんに背負われながら聞いていた。
私は病院も嫌いだ。異様にひんやりして、空気が重くて、少し暗くて好きじゃない。しかもこの病院は大きくて古い。そこら中に背の高い松が生えていて、面白くない。松は一年中変わらないからつまらない。
車椅子で病室へ連れていかれる頃には夜になっていた。暗い長い廊下を進んで静かな個室に寝かされた。お母さんは私を寝かすとすぐに帰った。朦朧とした中でも、電気を消して音を立てないように静かに病室のドアを閉めて帰っていく母親が見えた。いつまで入院なのか聞きたかったが、思うように声が出せず、聞くことができなかった。
暗く物音ひとつしない病室。私は目を閉じた。


私の病室は病棟の入り口近くのナースステーションの前の個室だった。

そこしか空いていなかったらしい。 

何時間眠っていたのだろうか。視界は明るいが、うまく定まらない。虚な目で動けないでいた。
「あら、起きた?よく眠っていたね。」
お母さんが私の顔を覗き込んだ。
「もうすぐお夕飯だよ。きっと美味しいお粥だよ。」
「朝じゃ無いの?夕焼け?」
私は呼吸を少し整えてから、西日の入る窓を見ながら言った。
「うん。話しかけても全然だったよ。それにしても熱が下がらないね。少し食べてまた寝てなさいね。」
お母さんは読みかけの小説に栞を挟みながら行った。
今日は何とつまらない日なんだろう。1日の中で起きていた時間が1時間も無い、そんな日になりそうだ。
食欲は全く無かったが、お母さんは構わず私の口にお粥を次々流し込んでくる。嫌だとかいうのも面倒なので、とにかくさっさと飲み込んで、布団を被り、目を閉じた。

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