空 第25話
〈 晴れ 〉
ひいおばあちゃんのお家には、沢山の人が集まっていた。親戚と近所の人が一緒に支度をしていた。
とても不思議な気持ちになった。みんな、それほど辛そうな顔をしていなかった。小学校1年生の時の、夏休みにクラスメイトが交通事故で亡くなった時の様子とはまるで違っていた。誰も泣いていないし、むしろ、みんなひいおばあちゃんを褒めていた。
「よく頑張って生きたよね。100歳まで生きててもらいたかったけど、大往生だったね。最後の最後まで、元気な人だったね。」
叔父さんの声が聞こえてきた。
「誰がお婆さんをお迎えに来たのかね、やっぱり爺さんかな。」
お家の人の落ち着いた声が聞こえた。
「ウチの母さんとも仲良かったからね、いまごウチの母さんもお茶の用意でもしてるんじゃなかろうかね。」
手を動かしながら和やかに話すご近所の老婆の声が聞こえてきた。
近くでは親戚の子供たちが庭で走り回っていた。先程、元気が良すぎて知らないおじさんから叱られたばかりなのに、また鬼ごっこを始めたようだった。
次の日、葬儀が始まると皆神妙になったが、やはり和やかだった。不思議と暖かい気持ちになった。
「お母さん、どうしてみんなそんなに悲しそうじゃ無いの?クラスの子のお葬式の時とは全然違うよ。」
私はお母さんの耳に囁いた。
「そうね。お母さんより早く子供が死んでしまうのはとても辛い悲しい事なんだよ。だからクラスの子のお葬式の時は、誰もが辛くてとても悲しかったのよ。」
死ぬなんて恐ろしい事を無闇に言ってはいけないような気がして、小声で言ったのに、お母さんはそう普通に答えた。
「じゃあ、ひいおばあちゃんが死んでしまった事は悲しく無いの?みんなひいおばあちゃんを褒めてるみたい。」
私も今度は恐る恐る、囁かずに普段通りに話した。
「悲しいけど、人はいつか死んでしまうのよ。これだけ長く立派に生き抜いたんだから、お疲れ様でした、よく頑張ったねって褒めてあげよう。向こうでも楽しんでねって送り出してあげよう。」
お母さんはそう言うと、私の方をポンと軽く叩いた。
「そんなもんかな。」
私はまだ腑に落ちなかった。その様子を見たお母さんは続けた。
「大事なことは、忘れないでいてあげること。いつでも空から見てるって思って。」
「空からいつも見てる?」
「これはこのおばあちゃんに限らず、お母さんが死んでも空からあなたを見てるし、あなたを可愛がっているあのおじいさんだって死んでしまったら空から毎日見守っているでしょうね。そう思うのよ。」
そうか。空から見てるのか。じゃ、私も皆んなに面白いもの、素敵なものを見せてあげなくちゃ。
「うん。私もそう思うことにする。」
私は焼香をする人を眺めながら、秀夫のことを考えた。
葬儀も終わり、お坊さんも帰った。お家の中では、皆んながひいおばあちゃんの思い出話をしたり、おばあちゃんが向こうでも楽しくしてるだろうと談笑していた。
私は外へ出て、コスモスの咲いた花壇の側の椅子に腰を下ろした。
私が考えた秀夫は、隔離病院で懸命に生きて、長生きをしていて、まだ生きていることにした。
秀夫はまだ隔離病院にはいるが、お庭で菊や盆栽を育てて、小さな縁側からそれを眺めている。隣で寝転ぶ白い猫を撫でながら。
きっとそうだ、そうであってほしいと思った。
そして、そんな秀夫の姿を、今頃空から眺めて涙しているのかなと、そんなひいおばあちゃんの姿も想像した。
見上げた空は、きりっと澄んだ秋晴れだった。