空 第3話
〈 明日から夏休み 〉
私は学校があまり好きでは無かった。同じ席に座っていることがそもそも苦痛だった。毎朝母親に、
「今日は学校行きたくない。」
と言うことが日課になっていた。
最初はどうして学校へ行きたく無いのか聞いてくれたが、今では何も聞かれなくなった。もう慣れたのだろう。
「今日は修了式、明日から学校が休みなんだから、頑張って行っておいで。」
母はこう言うと、私にランドセルを背負わせた。今日はあまりゴネずに家を出る事にした。
教室の自分の席に座り、ふと思った。
急に私が学校へ来なくなったらどうなるのだろうか。
秀夫の学校の友人は、急に来なくなった秀夫のことを先生に尋ねただろうか。
目の前を急にボールが飛んで行った。
「何ボーッとしてるんだよ。」
教室の入り口近くで何人かの男の子と女の子こちらを見ている。
どうやら私にボールを取ってと言いたいらしい。
私は普通にボールを投げてあげたつもりだったが、まだ半分秀夫の世界に入っていたので、テキパキと動けていなかったのかもしれない。皆んな少し疎ましそうな表情だった。
「あいついつも何考えてんだ?」
「謎だよね。」
「俺、こいつの前の席だからたまに聞こえるんだけど、急に笑ったりするんだよ。本当変な人。」
何人かのヒソヒソ話が聞こえてきてしまったが、でもそんな事はどうでも良くなった。
何を考えているか話す事はできるけど、きっと皆んなには興味のない事だろう。私は皆んなにあまり好かれていないようだ。でも秀夫の絶望的な状況を思えば大したことはない。クラスメイトから疎まれることなど、小さな事だ。
そして、学校について早々、早く下校時刻にならないかな、などと思いながら、ランドセルから読みかけの本を取り出した。
学校からの帰り道では、ずっとスキップしていたい気分だった。このお休み中、何をしようか考える事で頭がいっぱいになっていた。
それにしてもお日様が眩しかった。通り過ぎる家々の瓦がピカピカ光って見えた。いつもの夕方の帰り道とは風景が全然違った。終了式の日は下校が昼前となるため、いつもの夕方の景観とは当然違うって明るい。明日からの開放される毎日を思うと一際眩しく感じたのかも知れない。
ピカピカしたその瓦を眺めているうちに、屋根の上で寝転んで夏休みの計画を考えた方がいいアイデアが浮かぶしれない、そして少し長く屋根に居るなら、今日はタオルを持って屋根に上がらないとな、などと考えながら帰り道を急いだ。