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かんがえこと-5 10.7

10.2(火)晴

となりの部屋に新しい人が入った様子。野菜を切る音がきこえてきて、こんなにひびいていたのかと思う。今までの私のかすれた鼻歌は。

ゆうべチラシを完成させてよふかししたので、寝坊する。コーンフレークを流し込んで、急いで家を出る。

空がきれいで、気持ち良い。早くしないと終わってしまうよ、とだれかが言う。何がかはわからないけれど。何をしていても、はじまっていないうちにも、終わりについてかんがえるのはいつものこと。生まれたということは死に向かうことだから。


今日店に来た文具メーカーの担当女子が、シックな革カバーにMDノートなど差していて、たいそうときめいた。やはり「文具メーカーの人」がどんなものを愛用しているかというのはとても気になるし、自分と好みが似ていればなおさらのこと。反対に、「文具メーカーの人」なのにわりとその辺にあっただろうジムノックなんかを使っていたりすると、なんというかやはりさみしくもある。いやジムノックは事務においては定番で良いものであるけれども、その先にあるこだわりのようなもののこと。

本に携わる人はどうだろう。出版社や取次とか書店とかにかかわらず、本を読まないとか、好きじゃないという人はいないと思うのだけど。いち店員のひとりごと。


10.3(水)晴

スマートフォンの操作に気をとられすぎて、外猫チェックを怠ってしまった。外猫たちの居ずまいによって、季節の変化や平和の温度を知る。今日は平和だっただろうか。


午前は健康診断へ行く。こんなときにもスマートフォンを手放さない人々は、なにかの依存度的なものも調べてもらった方が良いかもしれない。

絶食をやぶりに、後輩と通りがかりの居酒屋で海鮮丼をたべる。ふくれたおなかで職場までの3キロほどの道のりをてくてく歩く。


店に戻ってからはとめどないお客のながれ。先週からのこのドトウのような忙しさは、期の変わり目、だからなのか。意識がとおのく。心も流されていきそう。でも、どんなに追われていても、ひたすらメールは自分の言葉で一通ずつ打つ。どんなに忙しくても、それはせめて温度のある仕事をしたいから。


10.4(木)くもり

早番だったけれど朝は余裕があったので、ちゃんと朝食をたべる。今食べたものと同じものを弁当箱につめる。

外猫たちは軒先で3匹身を寄せ合っている。

クリーニングを始めた酒屋、はいつのまにか看板がクリーニング屋になっている。


ほしいもの。瞬発力。アドリブセンス。楽器をやっていた時もアドリブセンスはかけらも見いだせなかった。会話はアドリブ。インプロヴィゼイション。


きのうの文房具にこだわりを持たない文房具人についてかんがえている。つまり、文房具人、ではない。まずなんというか、熱量を感じない。必死に売ろうとしている人ほど、だれのために売ろうとしているのか。たぶん、私には、自分のため、に見える。ものとして売っているだけで、なにか想いを贈る、というのが、ない。そこが本とは違うところでもあり、でもやはり文房具にしても「商品」であり「作品」でもあるストーリーのあるもの、温度のあるものを売りたい。ただ消費されるためのものばかりを売っていると、そういうものに、飢えている。いち店員のひとりごと今週2回目。


仕事のあとは双子のライオン堂へ行く。本棚を見ていても、お話していても、いつもいろんな発見にあふれている。


10.5(金)

「それでも家を買いました」 ”海老名はゼッタイにイヤー!” の強い印象からの、取引先の人が家を買うとのはなし。リアルはつまらないほど現実的な選択がおこなわれていて。学校が、通勤が、治安が。金が。代わりに家を買ってもらうことはできないから当然のことだけれども。


熱量のはなし。消費されるだけのものを売って自分も消耗する仕事のなかで、いちばん熱量にふれたかったのは、たぶん自分。

やっぱり人に会いに行くのはきんちょうするけれども、うれしい言葉をもらったり、受け入れてもらえると気づけたら、このような人間も根底では人にふれたいと思ってるんだなと。ただいっぱいつながりたいとかではなくて、ちゃんと深いところで。それを私の場合は、なにかを届けることで、実現する。


吉田篤弘の読書会へ招待された。まだ本を手に入れられていなかったので、金曜夜の繁華街を横目に、雨のなかを夢中で本屋へ走った。本屋は逃げずにそこにいてくれた。


10.6(土)晴

仕事の前に、霞が関のドトール。最近の読書スポット。土曜はすいていて、おちつく。「おるもすと」を読む。


事務所に寄ったら、だれもいないはずの室内に物音がして、ふりかえったら、犬がいた。

ケージの中からこちらを見ている。手を差し出したら、ぺろんとなめられた。体温。ふさふさの毛。いきものは、良い。純粋なまなざし。


余白についてかんがえていた。余白のあるものがすきだ。ないようで、存在しているもの。


10.7(日)暑い

お世話になっているカフェに向かったけれど、開いていないようだったので駅前のチェーンのカフェに入る。すごい人。みんな「カフェに来に」来ている。ドーナツを食べて本をよむ。


そのあと蔵前のH.A.Bに行く。本を3冊買う。積ん読の標高は増すばかりだけれど、直接おすすめしてもらった本はすぐに読みたいと思う。

仕事の話をきいて、私も休み関係ないくらい没頭するようにやろう、と思って、家に帰ってからはテレビはつけず、本をよんだり、選書をかんがえたり、地図をかいたり、した。

地図!一年ほど前に、あかん、地図たまらん、地図かくで!と思いつつ、全くできずにいた、地図を、かいた。先日行った高崎の地図。まぁさいしょはこんなもんやろ、な出来。


そういえば今日、台東区の路地裏で、なかなかお目にかからない、缶ビールの自販機を見かけた。ちゃんと動いていた。昼間だけれどお酒入れていこうかと思うくらいきんちょうしていたけれど、いつもそこにいてくれる、って良いなぁと。幸せな気分で、下町を少し歩いた。

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