こころをととのえる
心がとげとげしているとき。なにかが胸を塞いで、深く息を吸えないとき。 開いてみてほしい絵本があります。それはユリー・シュルビッツの『よあけ』です。
「つきが いわにてり、ときに このはをきらめかす。やまが くろぐろと しずもる。」
瀬田貞二が訳した、簡潔で美しいことばたち。選ばれたことばはごく僅かだけれど、そのどれもが完璧で、むしろこのことばでなければならない、という気すらする。
ページをめくるごとに、ねむっていた地球がひっそりとすこしづつ、夜明けに向かって動きだす。 つめたく澄んだ空気の中で聞こえる、自分の息づかい。森の木々がむくむくと起き出すときの、湿った土のにおいまでしてくる。
そこに生まれるのは、自分がたしかにこの世界に生きているという実感だ。
旅をしているのか、描かれているのはおじいさんと孫の二人きり。おじいさんと孫がボートで湖に出ると、その水面に描かれた船跡波がわたしの心にもすーっと切り込みをいれる。
そのひらけたところから、身体にこもった余分な熱が水に流れ出ていく。まるで薄荷のキャンディーを舐めたときみたいに。
二人が乗ったボートを次第に明るく照らしていくのは、まぎれもなく朝の光。心躍る眩しい真昼の日差しでもなく、すこしせつない夕焼けでもない。希望と、はじまりの予感をはらんだ朝の光だ。
「そのとき」。 現れる夜明けの光は、もうとにかく劇的で言葉にならない。何時間だって見ていられる、と思うほどだ。シンプルで、潔く、美しい。絵とことばの調和が完璧な絵本です。
今日は、どんな一日でしたか?
明日の朝になればあなたのまぶたにも、かならず光は降り注ぎます。 だから安心してねむりましょう。
おやすみなさい。
よあけ ユリー・シュルビッツ 作・画 瀬田貞二 訳 1977年6月25日発行 福音館書店
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