2023年7月31日(月)先勝
2023年7月31日
とてもとても暑い日だった。
その日が特別暑かった訳ではない。東京がそういう場所なだけで。
午前中、生まれつき内反足という疾患を持っている次男の外来に出かけた。
膝から下の短下肢装具という歩行補助具の調整に行かなければならなかったからだ。
その日の15時には羽田空港発の飛行機に乗らないと行けなかったこともあり、いつも以上にバタバタと家を出た。
先生もそれを知って居たので、病院に着くなり素早く対応してくれた。次男の出生直後から3度の手術の執刀をしてくれたとてもお世話になった先生だったので、もうこれから会えなくなるなんて不思議な感じだった。
サバサバとして居て凛とした佇まいの綺麗な先生だった。
すぐに自宅へ戻り、持ち物の最終確認をして空港乗り捨てで予約したカーシェアを自宅近くの駐車場に持ってきて乗り込んだ。
空港行きの連絡バスや電車といった選択肢もあったが、午前中からバタバタとして居たし、男子3人を公共交通機関で一定時間じっとさせて居る自信と体力がなかったからカーシェアを選んだのはいいけど、空港のどこに車を停めればいいのかわからないまま向かってしまった。
勝手なイメージで空港の駐車場内にカーシェア専用の乗り捨てステーションみたいなのがあるのかと勝手に思い込んでいたのだけど、実際は空港から車で20分ほど離れた営業所まで行って、営業所から空港まではワゴンバスで送迎してもらうといった流れだった。
時間にはかなり余裕を持って自宅を出たはずなのに結果的に少しドキドキしてしまうような時間になってしまった。
相変わらずの詰めの甘さだ。
荷物を預けて、お昼ごはんに丸亀製麺を食べに行った。
長男はどんなに暑い日でも熱々うどんを選ぶ生粋のうどん好きなので、丸亀製麺というだけでそれはそれは有難がってくれて大変に助かる。
次男三男もつるつるとした食べ物だと上機嫌で居てくれるので、本当に母思いのいい育ちをしてくれた。
うどんを先に食べ終えた長男が
「トイレに行ってくる!」
とだけ行って店を出て行った。
下二人がまだ食べ終わってなかったから、自分のことを自分でどうにかしてくれるのはとても助かる。
しかし、全員が食べ終わってからも一向に戻ってくる気配がない。
こうなると全く話は別だ。
さて。
彼は一体、どこのトイレに入ったか。
もしこの一番手前のトイレに気が付かないで、よくわからない場所のトイレに行ってしまったとしたら、そしてその帰りに迷子になってしまっていた場合。
非常に厄介だ。
しかもここは空港。
万が一、大きなスーツケースの中に息子が詰め込まれてしまって居たら絶対に見つけられない。
流石にそんなことは無いとしても、最悪乗るはずの飛行機に間に合わない可能性もある。
胸騒ぎがし始めたが、ここは落ち着こう。
一番手前にあった男子トイレのギリギリまで行き、そこそこの声量で名前を呼んでみた。
こういう時に大人が一人しかいないのはとても不便だ。
しかも性別でスペースが分けられているエリアは特に。
「ママー!ちょっと待ってー!う○ちしてる!!」
…よかった。
そして
なんかごめん。
……それにしても遅くはないだろうか。
でも、
本当によかった。
こういう事がある度に、次からは絶対一人で行動させないぞ、と自分に言い聞かすものの、やはり“長男ならなんとかうまいことやるはず”。という信頼に甘えてしまう。
でも、これからはわたしのちょっとした選択のミスに足元を掬われかねない。
わたしはわたしの意思でこの子達の最高管理責任者になる事を選んだ訳だから、“ちゃんと”しなくてはいけない。
自分が後悔しない為に括った腹の他に、括らせてしまった腹が3つもある事を常に自覚しなくてはいけないし、単純に彼等の父親に申し訳ない。
そんな事を考えながらトイレから出てきたスッキリとしたいい顔の長男としっかり手を繋いで、搭乗ゲートへ急いだ。
3人の我が子は飛行機に乗り慣れていることもある上に今回はAIRDoだ。
搭乗した瞬間から勝ち確と思っていい。
ただ一つ心配なのは、3人並び席だった為にどうしても長男だけ1列前の席にならざるを得なかったこと。
でも、
彼に関しては少なくとも20回以上は飛行機に乗ってる。
また、通常通り彼に甘える形になってしまう。
表情一つ変えず一人で前の席につき淡々とベルトを締めるのを横目に確認しながら、6歳と3歳のシートベルトを着けて、肘掛けバーは下ろすか下ろさないかの議論の相手をしなくてはいけなかった。
途中、長男の様子を座席の間から覗いたら、長男の隣に座った男性がまだ1歳になってないだろう赤ちゃんの写真をスマホでずっと眺めて居た。奥さんであろう女性と赤ちゃんが一緒に写った写真や、その人自身(恐らく)と赤ちゃんが写った写真。その光景がとても微笑ましくて、大きなお世話だが今その時にわたしが見ている映像を撮ってその奥さんへ見せてあげたいと思った。
東京からの出張なのか
北海道からの出張の帰りなのか
彼の用事が順調に済んで、愛する人達の待つ家に安全に帰れますように。
空港に着くと父が迎えに来てくれて居た。
たった1度しか見ていない、新しい我が家に帰宅する。
この子達が毎日力いっぱい笑って、何の心配もせず安心して眠れるように
わたしも心の底から楽しもうと思う。
はじまりのはじまり