Web3.0 会計基準等の開発状況に応じた注記(会計方針について)

Ⅰ 背景/経緯

<はじめに>
暗号資産を始めとするWeb3.0の領域においては、変化が非常に速く、新サービスの発生から衰退までは数か月というケースも珍しくありません。
暗号資産に携わる方々にとっては、出ては消えるサービスのキャッチアップに加えて、会計基準等の整備が追い付いていない状況もあり、日々頭を悩ませていることでしょう。

本稿では、上場企業の経理の方々向けに、暗号資産に関する有価証券報告書上の取扱いについて、会計方針の変更や遡及適用の観点から考察しています。

「会計方針の変更」とは、
従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいう。

「遡及適用」とは、
新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することをいう。

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項

<通常:〇⇒〇(マルからマル)>
「会計方針の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針への変更であり、「〇⇒〇(マルからマル)への変更」と表現されます。

<Web3.0の場合:未公表⇒〇>
しかし、Web3.0においては、経済的実体と合致する会計基準等が未整備なケースも多いため、事後的に会計基準等が公表された場合には「未公表⇒〇(マル)」となります。
この点、「会計方針の変更」に該当するか否か、過年度の遡及適用の要否と併せて問い合わせが多い点です。

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する 会計基準」に基づいて筆者が作成

Ⅱ 論点①:「会計方針の変更」に該当するか

事後的な会計基準等の公表および適用に伴い、従来の会計処理に変更が生じた場合、「会計方針の変更」に該当するか否かを検討します。

前提①

前提1:会計基準等が適用される以前においては、明確な会計基準等が存在しない。
前提2:会計基準等の適用に伴い採用する会計処理を変更する。
前提3:会計基準等が適用される以前における会計処理は適切であり「誤謬」は存在しない。

「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう。
① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
② 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
③ 会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項

検討①

新たな会計基準等の設定については、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」として取り扱うことが定められています。

会計基準等の改正に伴う会計方針の変更
会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合や、従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなる場合など、会計基準等の改正に伴って会計方針の変更を行うことをいう。会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれる。 なお、会計基準等に早期適用の取扱いが定められており、これを適用する場合も、会計 基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。

「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第5項

結論①

したがって、事後的な会計基準等の公表および適用に伴い、従来の会計処理に変更が生じた場合「会計方針の変更」に該当します。

Ⅲ 論点➁:遡及適用の要否

前提➁

前提①と同じ

検討➁

新たな会計基準等の設定については、根拠条文第6項により遡及適用することとなります。ただし、経過的措置等が定められることもあるため、実務的には経過措置を採用することも十分想定されます。

「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合」会計基準等に特定の経過的な取扱い(適用開始時に遡及適用を行わないことを定めた取扱いなどをいう)が定められていない場合には、新たな会計方針を過去の 期間のすべてに遡及適用をすることになります。なお、会計基準等に特定の経過的な取扱いが定められている場合には、その経過的な取扱いに従います。

「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項

結論➁

したがって、事後的な会計基準等の公表および適用に伴い、従来の会計処理に変更が生じた場合、「遡及適用」が必要になる可能性があります。

Ⅳ その他:定義等

関連する会計基準等を以下に集約しています。

  1. 「重要な会計方針の変更」
    「会計方針の変更」に該当する場合には、財務諸表全体に対する重要性に応じて注記の要否を検討します。

会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合(第 5 項(1)参照)で、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときは、当期において、次の事項を注記する。なお、(3)から(7)については、(5)ただし書きに該当する場合を除き、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一であるときには、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。
(1) 会計基準等の名称
(2) 会計方針の変更の内容
(3) 経過的な取扱いに従って会計処理を行った場合、その旨及び当該経過的な取扱いの概要
(4) 経過的な取扱いが将来に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨及び将来への影響。ただし、将来への影響が不明又はこれを合理的に見積ることが困難である場合には、その旨
(5) 表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び 1 株当たり情報に対する影響額。ただし、経過的な取扱いに従って会計処理を行った場合並びに前項(1)又は(2)に該当する場合で、表示する過去の財務諸表について遡及適用を行っていないときには、表示期間の各該当期間において、実務上算定が可能な、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び 1 株当たり情報に対する影響額
(6) 表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額。ただし、前項(1)に該当する場合は、累積的影響額を反映させた期におけるその金額。前項(2)に該当する場合は、その旨
(7) 原則的な取扱いが実務上不可能な場合(前項参照)には、その理由、会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項

2.「未適用の会計基準等」
新たな会計基準等が公表された場合には、未適用であっても注記の要否を検討します。

既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合には、次の事項を注記します。なお、連結財務諸表で注記を行っている場合は、個別財務諸表での注記を要しません。
(1) 新しい会計基準等の名称及び概要
(2) 適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述
(3) 新しい会計基準等の適用による影響に関する記述

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第22-2項

3.「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」
会計基準等が存在しない場合や、新たなサービスが生じた場合には、採用した会計処理について注記する可能性があります。ただし、筆者の知る限りWeb3.0関連で当注記を行っている事例は見たことがありません。

4-2. 重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにある。この開示目的は、会計処理の対象となる会計事象や取引(以下「会計事象等」という。)に関連する会計基準等(適用指針第 5 項の会計基準等をいう。以下同じ。)の定めが明らかでない場合に、会計処理の原則及び手続を採用するときも同じである。
4-3. 前項において関連する会計基準等の定めが明らかでない場合とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいう。

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4-2項、第4-3項

4.「追加情報」
会計処理の変更の影響が大きく、財務諸表全体として言及する箇所が存在しない場合には、追加情報としての記載の要否を検討する可能性があります。

追加情報
「会計方針あるいは貸借対照表又は損益計算書等に注記すべきものとして規則等で具体的に規定しているもの以外の注記による情報をいい、利害関係人が企業集団又は会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる情報である。」

Ⅴ まとめ

<変化する検討事項、変化する重要性>
上述のように、ひとえに会計方針に関する注記といっても、会計基準等の開発状況に応じて検討事項が変わります。
また、市場環境や企業の状況によっても、会計方針の変更によるインパクトが変わるため、注記の要否や開示情報における取り扱いも調整が必要になります。

<全体感を持った検討>
特に、有価証券報告書等の開示情報においては、比較年度を開示することもあり、時系列での整理や他の注記事項を含めた全体感を持った検討が必要になります。

「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する 会計基準」に基づいて筆者が作成

<サポートしています>
社内外での合意形成や、全体感を持った検討など、お困りの方がいましたら、私どもでサポートいたします。
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以上


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