表参道とHI-Cアップルのあの夏 その1

  どうしてだろう?
  夏のことを思い出そうとすると、色々と考えても、最後には必ず中学2年の日々に思いが行きつく。
 あの夏は、そんなに特別だった?  ちょっと真剣に思い出してみることにする。たしかに、他の年とは違っていたような気がしてもいる。
 部活で仲良くなった比呂ちゃんと私は、なぜそう思ったのかよくわからないけれど、
「そうだ! 夏期講習に行こう!」
 とひらめいた。公立中に通っていて、高校受験は気になるけれど、まだ先のこと。受験システムさえ理解していなかったと思う。                                   ただ私たちは、このまま頑張っても部活でレギュラーを勝ち取れないんじゃないか、ということが薄々わかってきていた。                                          それなら勉強に力を入れよう! と単純に思ったのかもしれない。今からもう、45年以上も前のことだ。                        それで。                                        夏期講習と言ったら、代々木ゼミナール。当時は、ほとんど一人勝ちの予備校だった。子供が多くて、夏期講習となると、とてもじゃないけれど本校舎ではまかないきれず、あちこちの学校や施設を借りて開講していた。              私たちが指定されたのは、國學院大学。渋谷からバスに揺られて、十数分の所にあった。                                           「レギュラーになれないなら、勉強頑張ろう!」                                  なんて言っていたくせして、すぐに化けの皮がはがれた。                                  私たちの楽しみは、開講してまもなく夏期講習ではなく、終了後の時間になった。なにしろ、あこがれの表参道はすぐそば。中学2年生にとっては、なんとも魅力的なロケーションだった。                                    比呂ちゃんには3つ年上のお姉ちゃんがいたので、ちょっと大人びた情報も彼女から色々仕入れていた。その年の春ごろだったか、「東京バザール」というのがあるから行ってみよう、と比呂ちゃんに誘われた。                             明治神宮のイチョウ並木で開催されていたたくさんのテントが並び、パリのマルシェのようなイベント。今では、あちこちで見かけるけれど、当時はなんておしゃれなんだろう、と感激した。                           そういうわけで青山界隈は、他の場所より思い入れが強かったのだろうと思う。                                           実際。                                           あの頃は、東京で一、二を争う人気のエリアだったはず。なぜなら、その年の6月、表参道を舞台にした「あこがれ共同隊」というドラマが始まって、さらにヒートアップしていったからだ。                               主演の郷ひろみの大ファンだった私は、ちょっとリーゼント気味のヘアスタイルで、シリアスな役どころの彼に夢中。毎週楽しみに見ていた。                          VHS登場は、それから数年待たなくてはいけないので、とにかくリアルタイムで見逃さないように気をつけていた。金曜日の午後8時から。ちょっと油断すると夕食の時間にかかってしまいかねない時間帯だった。
https://youtu.be/jEsMrJMpCls

主題歌は、山田パンダ歌う「風の街」。これがまた大好きだった。作曲は、吉田拓郎。後になって気づくのだけど、私は拓郎節にめっぽう弱くって、たとえ本人が歌っていなくても「やさしい悪魔」(キャンディーズ)、「風になりたい」(川村ゆうこ)、「あゝ青春」(中村雅俊)など、拓郎作と知らない段階で好きになってしまう。この時も、知らずに好きになり、よく口ずさんていた。今も。                                                          そんな表参道に、しょっちゅう行けるのである。                        授業が終わるころには、気もそぞろ。今日は、どこに寄り道しようか、とすでに心は表参道へ飛んでいた。                                   あの頃の表参道のキディランドと言ったら・・・。他にあんなようなお店はなかったので、行くだけでもう胸がときめいた。見たこともないアメリカやイギリスのノートやペンを売っていて、どれもこれも欲しかったけれど、中学生の少ないお小遣いでは、それは叶わぬ夢だった。




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