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「想定外の無一文。」アフリカ大陸縦断の旅〜エチオピア編⑪〜
2018年8月25日17時、緑に囲まれた何もない場所、カイヤファールに到着した私たち。ジョンが何とか次のバスを手配してくれたことで、私たちはいくつかの山を超えて、次の経由地であるディメカへと向かいました。家畜の群れや〜族と呼ばれる人々が行き交う街。近くに感じるカロ族に胸が高鳴る私たち。「次の経由地のトゥルミまで残り30km。今日中にそこへ行けば、明日の朝にカロ族の住むゴルチョ村へ行ける。」しかし、日が暮れ始めた辺鄙な場所、という条件は移動の可能性を低くしていきました。そして、日没までヒッチハイクで粘ると決めてから30分が経過した頃、1台の車が通りかかりました。中から出てきた陽気な運転手は、私たちの事情を深く聞きことなく、トゥルミまで乗せて行くと言ってくれました。そこから1時間ほど経過した19時頃、ようやくカロ族訪問の拠点となる場所、トゥルミに到着しました。
ジョンの案内のもと、晩御飯を食べに行くことにした私たち。「ここまで来れたのは、ジョンのおかげ。せめて晩御飯だけでも奢らせて欲しい。」そう思いながら、汚いイスに座り、例のごとく注文するインジェラ。そして、開いた財布。
「全然金ないやん!やばい、どうしよう、、。」
財布の中身は200ブル(当時約800円)。インジェラと今晩の宿泊費のお支払いで破綻する程度。
「(どうする。いや、どうもできん。この場所にATMがあるはずない。ましてやカードで支払いなんて、、、。)」
思い返せば、エチオピア入国したアディスアベバの空港でお金を引き出して以降、財布の中身を一切確認しないままここまで来ていたのでした。移動費、宿泊費、食費。そして、エチオピアで感じた恐怖と快感、もはや自分さえも信用できなくなっていた精神状態。上手くいかないバスの乗り換えと長時間の移動。人種差別と愛の告白。肉体と精神の疲労が、思考の範囲を極端に制限していたことに間違えありませんでした。
「(今晩の宿泊費。そして、今いるトゥルミからゴルチョ村まで70km。この移動のためにはバイクを2台借りなければならない。着いてからも、村への入村料、カロ族に支払う撮影代。さらに当然、コンソまで戻るあの過酷な移動が待ってる。)」
街灯のない真っ暗な中、汚れた白のプラスチックのテーブルに置かれた3人分のインジェラ。疲れた体を少しでも癒すはずが、イスの背にもたれる余裕はありませんでした。金銭面の解決策を見出すことができないまま、私は夢中で無味無臭の初インジェラを頬張っていたのでした。
「(ここからATMのある場所まで引き返す時間と体力は残ってない。かと言って、無一文でカロ族に会えるんか?いや、無理や。ジョンか、ジョンに頼むしかない。こうなったらトコトンお世話になろう。)」
「ジョン、、、申し訳ない。今財布を見たら、カロ族に会いに行ける費用が残っていない。コンソに着いたら返すことを約束するから、それまでお金貸してください。お願いします。」
「あぁ、そうか、、、。」
「何も問題ない。足りない分は貸すから、安心して。君たちがカロ族に会うのを楽しみにしていることは知っているからね。」
じょょょょょょーーーーん、、。。。!!!!!
またしてもジョンの器の大きさに助けられた私たち。ガイドとしてついて来てほしいと街中で偶然声をかけたあの瞬間から、ジョンへの感謝が募るばかりでした。
こうして、金銭面の心配をすることなく行動できるようになった私たちは、明朝の出発に備えて、それぞれの宿に向かいました。廃墟のような宿。鍵のかからない部屋、手入れされていないベッド。水圧の弱い、冷たい水のシャワー。それでもジョンの優しさを思い返していた私たちは、暖かく眠りに就きました。
2018年8月26日午前6時。長距離移動の疲労が完全に回復されていないまま、眠たい目を擦って起床。荷物をまとめて宿を出ると、門の前ですでにジョンが待ってくれていました。大きな道路に出て、バイクのレンタルショップまで徒歩5分。止まっているバイクは、全て砂まみれのボロボロ原付。「まさかこれ2人乗りで70kmの道のりを!?」と思いましたが、案の定、選択の余地無し。雑魚原付を2台レンタルし、ジョンが600ブル(当時約2400円)を支払ってくれました。
そして起床からほんの30分後、朝日と共に、念願のカロ族へ。ジョンと私、バイク屋の兄ちゃんとぴょんすの組み合わせで出発。私たちが国際免許不携帯ということで、なぜかバイク屋の兄ちゃんが私たちのカロ族訪問に借り出されたのでした。
エチオピアとケニアの国境にあるゴルチョ村。そこに向けてただひたすらバイクを走らせました。半舗装道路のせいで、足元は砂まみれ。本当に何もない自然や砂地を通り過ぎること1時間。屋根のある建物が見えて来ました。
「とりあえずこれで半分ぐらい来た。ここで朝ごはん食べて行こう。」
「分かった。ここで少し休憩ね!」
「(どうせまたあいつしかメニューないんやろ。またあいつやろ。)」
そして、予想通りテーブルの上に置かれたインジェラ。
「(見た目雑巾、味ゲロやもんなぁ。でも昨日の晩は全部食べれたから大丈夫やろ。舌も慣れたはず。)」
そして、1口目。口の中に広がる強烈な酸味。激味激臭。咄嗟に噛むことをやめて、飲み込みました。
「(ふぅ。。。絶対誰かの胃酸に1年漬け込んでるやん。)」
中々2口目にいかない私を見て、ジョンが不思議そうに言いました。
「昨日はガツガツ食べてたじゃないか!もしかしてお腹減ってなかった?」
「ううんたべるたべるだいじょうぶ大丈夫。」
「(ジョン、気遣わせてすまない。昨日は肉体と精神が限界を迎えて、さらに金ないことに気付いてから、味も香りも分からん状態で食べてたんよ。まぁでもこれが不味いと感じるということは、良い精神状態ってことや!)」
そう思いながら水をがぶ飲みし、精神と舌をリセットさせた私たち。ジョンを心配させたくない一心で、インジェラを口に掻き込み、そそくさと休憩場所から出て行きました。
時刻は8時過ぎ、私たちは再びゴルチョ村へとバイクを走らせました。
もうインジェラなんてどうでもいいや。
後1時間でカロ族に会える。
胸を躍らせながらバイクの後ろに跨り、私は眩しい太陽と広がる山々を見上げていました。