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「念願のカロ族ー部族愛が芽生えた1日ー」アフリカ大陸縦断の旅〜エチオピア編⑫〜

 2018年8月25日19時、カロ族訪問の拠点となる街、トゥルミに到着。そして、晩飯購入のために開いた財布。ここでようやく、ほとんど現金が残っていないことに気付いた私たち。テーブルには見た目雑巾、味ゲロの晩御飯、インジェラ。私は初めて食べるそれを無味無臭に感じるほど、ATMがない今の極貧状況に焦っていました。「(ジョン、なんとかしてください。)」この私たちの想いを、ジョンは全て受け止めてくれたのでした。こうしてジョンからお金を借りることになった私たちは、翌朝6時半、バイクを2台レンタルし、カロ族の村へ。
 砂の道路を移動すること1時間、朝飯のため休憩所に立ち寄った私たち。当然、メニューはインジェラ一択。「昨日食べれたから大丈夫。」そう自分に言い聞かせながら、1口目。最悪にも、口いっぱいに広がる胃酸の味。隣には、中々2口目にいかない私を気にかけてくれる、優しいジョンの姿「(不味いと感じれるということは、精神が安定しているということ。)」こう思いながら水をがぶ飲みし、精神と舌をリセットさせた私は、ジョンを心配させたくない一心でインジェラを口に掻き込みました。
 時刻は午前8時過ぎ、自然の中を再びバイクで走る私たちは、すでにインジェラのことなど忘れ、近づくカロ族に胸を躍らせていました。


 休憩所を出てから20分が経過した頃、ようやく辺りの景色が変わってきました。それまで走っていた、山々に囲まれた太い1本の砂地道路。ここからは、その山の中へと入っていくようでした。雑木林の中、ほとんど未舗装の細いクネクネ道を通過。ほとんど変わらないその風景。徒歩でも通りにくそうな、ガタガタの獣道。もちろん看板などありません。それでもジョンは速度を落とすことなく、バイクを走らせていました。

「なんで道分かるん?何度も来る場所じゃないと思うけど。」

「1週間に1回は仕事でこの辺りに来るからね。道に迷うことはないよ。」

 だから私たちのガイドを引き受けてくれたのか、と安心すると共に、さらに深まるジョンへの信用。しかし、容赦無く続く悪路。景色を楽しむ余裕などなく、振り落とされないように両腕でバイクの荷台を力一杯掴み、お尻の痛さに耐え続けていました。

 そして、さらに1時間が経とうとした頃、突然開けた場所に出ました。先ほどまで私たちを囲んでいた自然の景色とは打って変わって、立ち込める生活のニオイ。ある程度まで舗装された道路。意図的に置かれている木々。それらを素材に作られたであろう家々。遠くに見える家畜。耳馴染みのない大きな声。ジョンに聞かずとも、私はこの場所が念願の地であると確信していました。

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!着いた、やっとここに来られた!」

「カロ族に会える!!!」

 私たちは、ようやくゴルチョ村に足を踏み入れたのでした。興奮が収まらない私を乗せたジョンは、バイクを加速させて、さらに奥へと進んで行きました。


 そこから数百メートル進み、バイクが停車。目の前に流れる、全長760kmのオモ川。この川を挟んだ向こう側にケニアが見えました。このオモ川下流域はユネスコ世界遺産に登録されており、カロ族を含む多くのアフリカ原住民が暮らしています。しかし、現在は経済発展に伴うダム建設などで、彼らの生活環境が変わりつつあるとのこと。

「(オモ川が、原住民にとって水源になってるんやなぁ。)」

 そんなカロ族の暮らしを想像していた私の後ろから、訛った小さな声が聞こえてきました。

「ふぉと〜、ふぉと〜、、」

 振り向けば、私たちを取り囲むたくさんのカロ族。彼らにとって、観光客は大きな収入源。想像してはいましたが、やはり撮影代を稼ぐため、私たちに言い寄って来ました。

「おお!本物のカロ族!やっと出会えた!、、でも、ちと怖いな。。」

 初対面の興奮も束の間。というのも、前情報によれば、この辺りの原住民には、エチオピア政府さえも把握できていない集落が多々あるようで、政府管理外原住民もいるとのこと。ガイドなしでは観光客がどんな扱いを受けるかわからない、そしてちらほら見える猟銃。

「(いくらジョンがいるとは言っても、写真撮影断ったら、激情されるかも。武器なんて近づけられたら、どうしよう。)」

 しかし、写真撮影に気乗りしない私たち。

「(だって、ペイントないやん!!!笑)」

 そうです。カロ族最大の特徴と言えば、顔や体に様々な白のペイントが施されていること。派手な装飾品や、カラフルな服で、目の前の彼らがカロ族であるということは分かりましたが、やっぱり白の彼らと写真を撮りたい。

「とりあえず村の中に入って、色々見学させてもらおうか。」

 困惑している私たちを察して、ジョンが先頭を行ってくれました。

 いざ、カロ族の暮らしに潜入。白のペイントを施すカロ族を、そこら中で確認。私たちのゲリラ訪問に、慌てて対応している様子。カロ族の白ペイントは性別で異なっており、男性は顔と体、女性は顔だけ。そして、この白は、石灰をペースト状にしたもので、日本では馴染みのあるチョークと似通った物質とのこと。


全員男やん。笑


 そして、白ペイントが準備できたカロ族の皆さんと、感動の写真撮影を済ませ、家の中を覗かせてもらうことに。家の材料は主に木であり、屋根には藁のような植物がのせられていました。そして、耐久性を保つため、家造りの重要な部分には竹を使用しているとのこと。木を並べた壁のおかげで、家の中は通気性がよく、床は砂地の他に、座り心地を良くする何かが敷かれていました。そこには、プラスチックの大きな容器やガラス細工の食器、ペットボトルなどの現代文明が置かれていました。

「(完全に都市部から流入されたやんな?どうやってここまで運んだんやろう?)」

 ジョンによれば、彼らは昔、ここより奥地のジャングルで暮らしていたらとのこと。しかし、現在ではカロ族もエチオピア政府のサポートを受けて、オモ川沿いに今のような集落をつくり、さらに水や生活物資はゴルチョ村まで車で運ばれてくるようになったとのこと。 

「(なるほど。政府の管理外と思って、最初ビビりすぎてたんか。政府も原住民の存在を考えて政策してるんやな。)」

 カロ族の現代文明との関わり方を少し知ることができた私は、ますます彼らの暮らしに興味が湧いていました。

「ご飯振る舞ってくれるみたいだから、そっちに行こうか。」

「(おぉ!カロ族のご飯!何でてくるんやろ。)」

 ドキドキしながらジョンに着いていくと、先ほど見たガラス細工の皿に何やらパンのようなものと、汁物が。

「(まさか、ここでもインジェラか?でも、ちょっと違うような、、。)」

 根性の1口目。勢いよく食べたものの、無味無臭に近い植物の味。しかし、インジェラよりは進みます。このパンは、メイズやソルガムからできており、彼らは主にそれらの穀物類を育てているとのこと。また、朝飯にはこのメイズと牛のミルクを混ぜた、ヨーグルトのようなものを飲み、時には、晩飯に家畜をいただくこともあるとのことでした。

 朝飯をご馳走になり、再度村を散策。大きな屋根のある休憩場所、その日陰で寝ている、ヤギや牛などの家畜。穀物を湿気から守り、貯蔵するための高床式倉庫。全て木を材料に、人の手で作られた建物。

「ほんまに自然の中で暮らしてるんや。穀物と牧畜で暮らしていることは分かったけど、それ以外は食べへんってこと?生活物資も毎日届くわけじゃないと思うから、それ以外はどうやって賄ってるん?」

 この私の質問に、ジョンは丁寧に答えてくれました。

「穀物と牧畜、その他にも漁をしてるよ。オモ川で魚をとって、それを食材にすることが多いんだ。それと、生活物資のことだけど、彼らはマーケットに行くんだよ。ディメカやトゥルミを通ってきたけど、あそこで定期的にマーケットが開かれているんだ。車に乗って行くこともあるみたいだけど、人によっては数日かけて歩いて行くこともあるみたい。」

「なるほど、やっぱり川が近いと生活用水で利用できると同時に、食材が獲れる場所でもあるんか。にしてもディメカやトゥルミまで歩き?100kmぐらいあるんじゃない?でも、収入と生活のこと考えたら、その選択肢にもなるんかな。」

「僕は絶対歩きたくないね。」

 笑いながらそう言って、ジョンは私たちを別の場所へと案内しました。

「カロ族特製のビールだ!君たちのために作ったみたいだよ。」

「ええ!ありがたい、めっちゃありがたいけど、体壊さん?」

 目の前には、植物をすり潰した直後であろう残骸。そして、何が入っているのか見えない土器のようなもの。

「いいから、飲んでみな!最高だぜ!」

 的なジェスチャーをしてくるカロ族。

 とりあえずニオイチェックからスタート。恐る恐る、土器に鼻を近づける私。それを見て、カロ族が笑っていました。

「(おぉ!完全にビールの香り!いけるいける!)」

 中身がよく見えないので、香りだけを信用した私は、土器を傾けてビールと呼ばれるそれを口に流し込みました。そして訪れる、最悪の舌触り。すり潰した植物が口内に広がり、謎の液体が喉に刺さります。再度、土器を傾けようとしましたが、無意識の抵抗により、2口目に到達することはできませんでした。

「美味しかったよ!ありがとう!最高最高!」

 と、精一杯の苦笑い。それを見て、また笑顔になるカロ族。彼らのフレンドリーさに私の微妙なリアクションが救われました。

「そろそろ、戻ろうか。」

 ジョンは私たちに帰ることを告げました。

「もう少しおりたいけど、あかん?」

「僕は別に大丈夫だけど、カロ族はほとんどいなくなってしまうんだよ。」

 ジョンによれば、電気がないこの場所では、太陽が出ている間に行動しなければならず、お昼の彼らは忙しいとのことでした。彼らはそれぞれ、農業や牧畜、漁やマーケットなど、するべき仕事に向かうため、村から出てしまうのです。

「それは仕方ないね。帰る準備しようか。」

 まだまだ知りたいことがたくさんあり、名残惜しいと感じつつも、私たちはカロ族にお礼を言って、しっかり金銭を支払い(撮影費1枚5ブル、ペイント10ブル、入村料200ブル)ゴルチョ村を後にしました。

「(カロ族、素敵な人やったな。自然の中で最高の暮らし。会いに来てよかった。原住民大好きやわ。)」

 部族に対して高まる熱量を自分の中に感じていた私。

 炎天下のお昼すぎ、ジョンの運転するバイクに乗りながら、絶対にまた来ようと心に決めた私は、ゴルチョ村が見えなくなるまで後ろを振り返っていました。

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