「終わりのヒッチハイクと始まりのチャリ旅」アフリカ大陸縦断の旅〜ナミビア編⑧〜
2018年9月17日、トラックは小さな街に停車。用を足すために降車しようとする私たちの前で、運転手と路上で手を挙げていた男性2人が話し合っていました。そして金銭のやり取りがあった後、男性2人は助手席に乗り込んだのでした。荒野だらけの街を繋ぐ移動手段として、日常の1部にヒッチハイクがあることを知った私たち。ケートマンスフープに到着した際の高額請求に怯えながらも、乗車続行を決めたのでした。
相変わらずに眠れない時間を過ごしていた私たちは、狭い寝袋の中で何とか温まろうと体を小さく折りたたんでいました。道が逸れていないか確認するため時折携帯を掴み、悴んだ指で開く地図アプリ。
「後150kmぐらいやな。」
「さすがに寝とく?変なとこ連れて行かれるとかはなさそうじゃない?」
「1本道やし、このスピードでずっと走ってる間は問題ないか。」
「とりあえず体休めとこう。」
荷台に吹き荒れる風とトラックの走行音、タイヤから直に感じる振動は熟睡こそさせてはくれませんでしたが、目を瞑り続けられるようになった私たちは浅い眠りにつきました。
そしてどれほどか時間が経った頃、トラックはまたしても荒野の途中で停車したようでした。
「(また誰か乗せるんか。そうなったら荷台に来るよなぁ。はぁ、余計寝られへんやん。)」
寝ぼけ眼で荷物に位置を確認して端に寄せた私は、盗まれないように今度は深く腰掛けました。
「(枕にして寝転びたいし風受けまくりやろうけど、起きたら荷物無くなってるよりマシか・・。)」
運転席後ろの鉄格子にもたれ、背中に冷たさを感じながら再び目を閉じ用途した時、後ろから運転手の声が聞こえてきました。
「ケートマンスフープのどこに行きたいんだ?」
「えーっと・・・どこでも大丈夫です。」
ぼんやりとした返事に戸惑った彼は、とある方向を指さしました。自然とそこに目をやり、低い鉄格子を掴んで身を乗り出した私たち。
【Keetmanshoop】
トラックのヘッドライトが照らす白いポールの先端、ケートマンスフープの文字が綴られた看板。
「着いてるやん。(あ、お金払わないと。)」
「チャリ旅開幕、やな。(お金どうしよう。)」
おもむろに寝袋を折りたたみ、眠たい目を擦ってバックパックを背負って、自転車を荷台から下ろし始めた私たち。
「君たち本当にこんなところで良いのか?街の中心じゃないぞ。」
「ここからケープタウンまで自転車で行くので、大丈夫です。(なんぼ払ったらいいんやろ。)」
「は?ケープタウン?本当に言ってるのか?」
「はい。(着く前に支払い方決めとけばよかった〜。)」
「信じられないよ。やめておいた方がいい。」
彼の忠告に笑顔でガッツポーズ(ヤバい、お金〜。)」
しかし、彼の前でお財布事情を悟られる訳にはいかず、2人で相談する余地なし。
「(いくら支払えば良いか聞くのは絶対あかん。こっちが支払う気満々みたいに写るのは良くない。でも向こうから先に提示されても困る。値段交渉しても、まだ高いぐらいの金額を言われたらお終いや。ここは先手必勝。やるしかない。)」
ぴょんすが運転手と話している間に後ろを向いた私は、素早く財布を取り出し、1番始めに見えた数字の小さい紙幣を取り出しました。
「ありがとうございました。気をつけて行ってきます。」
頭を下げたまま目線を上げて彼の反応を伺う私。
「(頼む。これで何とか耐えてくれ。)」
すると彼はいくらかを確認することなく、雑に紙幣をポケットに入れました。
「本当に気をつけてな。俺には理解できないけど、頑張れよ。」
そう言って握手を求めてくれた彼の温かい表情に、私は目を合わせることができませんでした。
「あれ、なんぼ渡したん?」
「えっとな、50って書いてたから400円ぐらいかな。」
「マジで?1人200円で400kmぐらい進んでくれたってこと?」
「うん、そうやな。」
チャリ旅の準備と休憩できる場所を求めて、自転車を押しながら歩いていた私たちは、周囲で唯一灯りのついた建物に到着しました。時刻はすでに日付を跨ぎ、確実に営業時間外のガソリンスタンド。そこに光を差し込でいたのは、併設されたレストランのような場所。ガラス越しには、いくつかのテーブルとソファ、そしてキッチンが見えました。
ガチャガチャ・・・
ドアに手をかけた私たちでしたが、残念ながら入ることはできず、声をかけてみたものの、中に人がいる気配はありませんでした。
「マジで寒いって。入らせてくれよー。」
「中見んほうが良かったな。あのキッチンとソファ、意識したらあかんのに食欲と睡眠欲を掻き立ててくる。」
「こんな時間やし、しゃあないわな。ここでちょっと準備してゆっくりするか。」
「せやな。明るいところの方が安心感あるし、荷物も整理しやすいやろ。」
刻一刻と迫ってくるチャリ旅に向けて煩悩を払うべく、私たちはドアを背にして、冷たいアスファルトに座り込んだのでした。