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「涙の夜 in エジプトー続・詐欺師からの大脱出ー」アフリカ大陸縦断の旅~エジプト編⑫~
※前回の物語はこちらから!!!
2018年8月16日、午後7時半頃。詐欺師ムーディのアジトにて、彼らの言いなりに行動するしかなかった私たち。完全な支配と、強固な主従関係。そこから必死に抜け出そうと、私たちはムーディから携帯電話を借り、宿のオーナーに助けを求めました。一方のムーディは私たちが電話をしたその履歴から、宿の情報を調べることを目的としていました。手に入れた情報から私たちを追い回し、全財産を奪い取ろうという算段だったのです。
後ろ盾オーナーの私たち VS 後ろ盾情報社会の詐欺師ムーディ
そして繋がった電話。オーナーの口からは、「暴れろ!」の一言。戸惑った私たちでしたが、生きるためにオーナーの言葉を信じました。そして、決行された暴力と暴言。その一瞬の出来事は、見事にムーディを恐れさせました。私たちは、そこから逃げ出すことに成功したのです。
「走れ!」「逃げるぞ!!!」
誰もいない真っ暗な路地に、響き渡る私たちの声。ここがどこかも分からない、助けてくれる人なんていない。自分の命は自分で守るしかない。私たちは、真っ直ぐに走り続けました。ただひたすらに遠くへ。
どれほどの時間逃げていたのか、私たちはいつの間にか大きな道路に辿り着いていました。目の前を通り過ぎる、大量の車。道行く人の話し声。それらを照らすように、設置された街灯。その光景は、暗闇の世界から脱出してきた私たちに束の間の安心を与えました。
しかし、未だ消えない恐怖心。
私たちから金を奪い去った時の、あの刺すような目線が、背後から迫ってきている気がしてなりませんでした。
「(まだ逃げ切っていないかもしれない。)」
そう考えた私たちは、急いで止まっていたタクシーに声をかけ、それに飛び乗りました。
車窓から見える車の群れ。通り過ぎる白いボロボロの自家用車。
「(あいつが乗っているかもしれない。追いかけてきたんだ。)」
勝手に膨らむ妄想は、さらに私たちの恐怖心を掻き立てました。
「(もはや全ての車が私たちを狙っている。)」
訳の分からない感覚に陥った私たちは、なぜか突然タクシーを降りました。
もちろんそこは知らない場所。なるべく人通りの多い道を選び、目的地もないままに走り続けました。徐々に増えていく街の明かり。飲食店に集まる家族。酒場から聞こえてくる、楽しげな声。追いかけっこをする子供たち。どこか懐かしい日常の風景。それらは、次第に私たちの心を落ち着かせていきました。
「(これだけ移動したらもう大丈夫なはず。)」
大勢の人が行き交う中で、私たちは初めて後ろを振り返りました。そこに、ムーディの姿はありませんでした。
「(やっと解放される。)」
張り詰めた緊張の糸は、一気に緩み始めました。そして同時に、恐怖や不安によって押さえつけられていた様々な感情が湧き出てきました。自らの判断と調べることを嫌った愚かさが、この悲劇を招いたという事実。情けなさ、悔しさ、怒り、苦しみ、恥ずかしさ、苛立ち。数え切れない負の感情が私を襲いました。制御不可能な精神状態。
気付けば、私の目から涙が流れていました。
そして、私たちは何とか駅を見つけ出し、ほんの会話もないままに宿へと向かいました。
「オーナーには迷惑かけたな。」
「そうやな。心配して待ってくれてるか。」
「謝って、早く無事を報告しよう。」
そして開けた宿の扉。
「お前たち何してるんだ!ばかか!お前らは頭が悪い!話するからそこで座ってろ!」
耳に飛び込んできた、まさかの罵声。
「(大丈夫か、とかじゃないん?まず無事を安心してくれよー。)」
オーナーは私たちの心情を察する様子もなく、話を続けました。
「ピラミッドで観光客が詐欺被害にあうなんて、たくさんの旅人を見てきたけどお前らが初めてだ。バックパッカーだろ?そのぐらい知っておけ。調べたら最初に出てくるぞ。どうせ調子に乗ってついて行ったんだろ?ふざけんな!迷惑かけやがって!まじでお前らには呆れるわ。大体、お前らはな・・・・・・」
この後、オーナーの説教は1時間ほど続きました。
「でオーナー、お金を取り返すことはできないんでしょうか?」
「そのことだが、もうすでに警察に話してある。大体の犯人グループも特定している。明日警察に行って、奪われた分を取り返してこい!」