「いざ、上陸。砂の国 エジプト」アフリカ大陸縦断の旅~エジプト編①~
「本能は、後年のために蓄積された過去の経験と知識の本質であろう」
これは、かの有名な新聞「ニューヨークタイムズ」に掲載された、アメリカ出身の企業家「ヘンリー・フォード」が残した言葉です。大学時代、人間の本能と知性を考えるようになった私の中で、未だ忘れられない言葉として存在しています。
「身につけてきた知性と経験の崩壊を繰り返すその先で、人間の先天的本能に辿り着くことができる。」このように考えていた私にとって、このヘンリー・フォードの言葉は、アフリカ大陸縦断の旅を通して、心に留めておくべきものだったのです。
2018年8月14日午前11時、アフリカ大陸縦断の旅、第1カ国目のエジプトに向かうため、関西国際空港から日本を旅立ちました。まず1つ目の経由地、マレーシアを目指します。しかしここで早速、大きな問題が発生。私たちの荷物が重すぎたのです。機内の持ち込みの規定重量を、2人合わせて約10㎏超過していました。飛行機の時間も迫っていたこともあり、仕方なく5千円ほどの追加料金を払い、荷物を預けることになってしまいました。
こうして7時間後、マレーシアに到着。預けた荷物を取るため、マレーシアに入国しました。(荷物を預けなければ、入国せず、そのまま乗り換えることができます。)そして、次の経由地、タイに行くため、私たちはすぐにマレーシアから出国の手続きをしなければなりませんでした。「もう荷物ごときで、お金を取られる訳にはいかない。預けた荷物が無事に返ってくる保証はない。」そう思っていた私たちは荷物を量る前に、人目のつかない場所にテントや寝袋など、重たい荷物を隠しました。また、着ることのできる服を全て身につけて、さらに荷物の重さを減らしました。
この結果、無事に計量をクリア。すぐに隠した荷物を取り、飛行機に乗り込みました。そして2時間後、タイに到着。いよいよ次は、目的地であるエジプトへの飛行機です。同じ要領で荷物の計量をクリアし、飛行機に乗ること9時間。日本を出てからおよそ24時間後、ようやくエジプト、カイロ空港に辿り着きました。
8月15日朝4時、薄暗く、人の少ないカイロ空港。空港でエジプトのビザを取得し、ATMでエジプトポンドを引き出しました。目的地はカイロ市内にあるゲストハウス。タクシーは危険という先入観と出費を抑えたかった私たちは、何時間かかるか想像もつかない道程を歩くことに決めました。
大きな銃を抱える空港警備隊の前を恐る恐る通りながら、歩くこと15分。1台の車が私たちの前に止まりました。「タクシーか?いや違うな。着いて早々にトラブルに巻き込まれるかもしれない。」そう考えた私たちは、車の前を通り過ぎようとしました。すると、車内からクルクル髪のおじさんが、私たちを追いながら、何やら声をかけてきました。どうやら車に乗るようにと言っている様子。「いやいや怖すぎる。タクシーでもない普通の自家用車。ヒッチハイクをしていた訳でもない。そんな見知らぬ外国人を乗せるか?」
一気に高まる私たちの警戒心をよそに、朝4時のテンションとは思えない陽気なおじさんは、私たちを半ば強引に車へ誘導してきました。押し負けた私たちは、仕方なく車に乗りました。空気の張り詰める車内。「怪しい。怪しすぎる。空港以外はすべて砂地。誰かの迎えでもない限り、ここに来る用はないはず。しかし、空港にいたということはやはり・・・。」
通じない言語でひたすらに話しかけてくるおじさん。大音量で音楽が流れる車内。水や食べ物を私たちに無料で差し出してくれました。しかし、その陽気さはますます私たちは震えさせました。そして、そのまま1時間ほど経ち、私たちは目的地周辺に到着していました。
「さあ、どれほどの請求額か。」身構える私たち。するとおじさんは、「200ポンド(約1400円)でいいよ。」と笑顔で言いました。「ん?安いな。いや、待て。これは相場より高いのかもしれない。」そして値切り交渉がスタートし、最終的に私たちは100ポンド(約700円)を支払うことになりました。車で1時間の道程を歩こうとしていた私たちにとって、700円の出費はあまりにも安いものでした。襲われたわけでも、盗まれたわけでもない。「エジプトは意外と楽勝なんじゃないか。」この時、私たちの不安や恐怖は、あっさりと取り除かれたのでした。
ここから、ゲストハウスの場所を人に尋ねて回りました。道行く人々のほとんどに「Welcome to Egypt(エジプトにようこそ)」と声をかけられながら歩くこと1時間、やっと目的のゲストハウスに辿り着きました。
部屋の予約をしていなかった私たち。さらに早朝の訪れにも関わらず、日本語ペラペラのエジプト人オーナー、土佐さんは、私たちを部屋に案内してくれました。彼は、エジプトに来た日本人が何か事件に巻き込まれないようにと、ゲストハウスハウスを経営しているとのことでした。
ここまで安い賃金で、私たちを車で送ってくれた謎のおじさん。地図を開いてまで道を案内してくれた街の人々。好意的に声をかけてくれるエジプトの若者達。
私たちは思いました。「アフリカが危ない場所なんて、行ったことのない人の先入観だ。何も恐れや不安を抱くことはない。アフリカ大陸縦断もこの調子でいけば余裕なんじゃないか。」
しかし、この時、私たちはまだ何も知らなかったのです。
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