「vs ザンビアーズチルドレン」アフリカ大陸縦断の旅〜ザンビア編③〜
2018年9月13日午前4時過ぎ、徹底的に五感を刺激してくる最悪のバスに乗車した私たちは、タンザニアとザンビアの国境から、ザンビアの首都ルサカまでへと出発しました。乗り始めた数時間は何とかこの環境に抵抗しようとしていた私でしたが、いつの間にかの諦念。体の痛みに耐えながら、18時間後。ようやくルサカに到着した私たちは、近くの宿にチェックインし、体を休めていたのでした。
バス移動の間、ろくに食料を口にしていなかったので、さすがに腹を空かせた私たち。しかし、すでに時刻は夜の10時を回っており、近所の飯屋を検索してみましたが、こんな時間に開いてるはずもありませんでした。それでもダメ元で宿のオーナーに聞いてみたところ、ここからタクシーで5分程度の距離にファストフードの露店があるとのこと。
「バスで何も食べてなかったので、それはありがたい。」
「いいな?ちゃんとタクシーを使うんだぞ。それと買い終わったらすぐに乗れるように、露店の前でタクシーを止めておくんだ。分かったな?」
タクシーで5分やったら歩いても行ける距離やん、と思っていたことがバレたのか、門の前まで付いてきたオーナーは、私たちがタクシーに乗るまでを見届けました。
「そんな危ないんですかねー。」
「まぁこんな安いタクシー代ケチったせいで、何かに巻き込まれるとかは最悪やしな。」
時間帯的に人気はなく真っ暗ではありましたが、そこに危険が存在するとは思えないほどに清潔感のある街並。そして宿から続いていた太めの路地を抜けて、大通りに出る信号を右折してすぐ、数人の人だかりと弱い光を放つ屋台を発見。
「運転手さん、ここで待っててもらえます?あの屋台で何か買って、すぐ戻って来るんで。」
青信号の横断歩道を渡り、屋台に向かう私たち。おそらく昼間はたくさん人がいるであろうショッピングモールの前、20、いや30名以上の人が散らばっていました。人気店、という訳ではなさそうな雰囲気。
「あれ子供じゃない?」
しかし、時すでに遅し。気が付けば露店の手前で、大勢の子供たちに囲まれていました。
「金をくれ。」「僕に何か買ってくれ。」「私の方が先だ。」
言語は理解できませんが、表情や態度から察するに、このような主張をそれぞれがしているようでした。私たちの鞄や手足を掴み、何か必死の表情で嘆願する彼ら。少年少女とは言えど、凄まじい圧がありました。荷物を守りながら、何とか抵抗してはいましたが、振り払えど振り払えど、次から次に湧き出るガキんちょども。
「(くそったれが。)」
怒鳴りつけてブチギレようにも、ストリートチルドレンをまとめあげる存在なのか、後ろにあるショッピングモール入口の階段から、こちらを睨みつける大人たちの目線が、私たちの強気な姿勢に蓋をしてきました。そして、それに目をやっている隙に、また子供達が集ってくる始末。
「ちょっと、もう、帰ります、これ?」
「あかんな。購入まで辿り着かれへん。」
すると、この状況に気付いた店主がこちらに走ってきました。
「(敵か味方か、どっちや?)」
店主は一直線にちびっ子たちに向かい、怒鳴りつけ、そして追い払いました。
「もう大丈夫。俺が言ったから、もうこいつらは何もしてこない。こんな時間に外に出るのはやめときな。」
「分かりました、ありがとうございます。ここの飯買ってすぐ帰ります。」
店主は無償でホームレスたちに食料を分け与えているらしく、子供たちに怒りながらも、パンやサンドイッチを手渡していました。
「じゃあ、このハンバーガーとホットドッグをお願いします。」
メニュー表を見ることなく、ありそうなファストフードを適当に注文。受け取りを待つ間、未だに先ほどの少年少女は私たちの周囲をウロウロしていましたが、店主の監視のおかげで、それ以上近づいて来ることはありませんでした。しかしまぁ落ち着いて周りを見れば、中々の無法地帯。子供から大人までいるホームレス、怒号や談笑、煙草ではない煙のニオイ。真っ暗な物陰から、獲物を狙う目をした裸足の男性たち。
「そりゃあんなけ口酸っぱく、タクシーで行けって言うはずやわ。」
「普通に治安悪いね。なのに、あんまりその空気感が出てない。」
「1番怖い場所やん。」
辺りを見回すことをやめた私たちは、痩せ細った露店のランプ一点を見つめ、商品の受け取りを待ちました。
そして、緊張感を保った数分後、店主に礼を伝えた私たちは、食い逃げのようにその場を去り、赤信号の横断歩道を渡りました。
「いやぁ本当にありがとうございました!助かりました!」
必要以上に感謝されて苦笑いのタクシー運転手にお辞儀をして、宿に戻ってきた私たち。出迎えてくれたオーナーは、「な?だから言っただろ?」と言う表情。ペコリと一礼し、再度プールに足を浸けながらファストフードを平らげた私たちは、ホットシャワーを満喫し、久しぶりのベッドで熟睡体制に入ったのでした。