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紛失忘却断絶シナプス

よく、怒られる。

生誕から現在に至るまで、おそらく他人の5倍ぐらいの頻度で怒られている気がする。

こう聞くと「メンタル弱いんかな」とか「自己肯定感の低下」とかそんなことを心配してくれる女神のような人が極、極稀にいる。しかし心配には及ばない。

あまり大きな声では言えないのだが、

その説教や小言をそもそも聞いていない。


むしろ叱ってる側が暖簾に腕押し状態で、「実に面白い」と心の福山雅治が顔を出す。叱責されたことは覚えているが、説教の内容については驚くほど記憶がない。説教タイムだけ消し飛ばす能力があるのかもしれない。私のスタンドはキング・クリムゾンでほぼ確定だろう。

そしてなぜそんなに怒られているかというと、そこには極めて深刻な「失くし魔」問題がある。

幼少期よりありとあらゆるものを、失くし、落とし、忘れてきた。

カサ、プールセット、体育館シューズ、といった学校定番の忘れ物は全て秒速でクリアし、通知簿の担任記入欄には「忘れ物が多い」「落ち着きがない」と義務教育9年間使い回しかのように毎回書かれていた。先生の負担を少しでも減らすエコフレンドリーな生徒の鏡である。あともう一つ、「協調性に欠ける」も皆勤だったがそれはさておき。

小学校の夏休み前にロッカーの荷物を全て持って帰らされた。お道具箱、鍵盤ハーモニカ、その他諸々。中でも朝顔の鉢植えには特に思い入れがある。

小学校低学年だったか、自分の背丈とほぼ変わらないような長さの支柱が刺してあるプラスチックの鉢植え。燦々と輝く太陽の下、遠い道のりをせっせと朝顔を持って歩く。

ふと下を見ると、靴紐が解けていた。鉢植えを置き、紐を結び直し再び歩き出す。そして、帰宅と同時に衝撃の事実に気が付く。

        午後3時40分。朝顔、紛失。

靴紐を結ぶ時に地面に置いたのはわかっている。しかし、帰路のどの地点で靴紐を結び直したかは一切覚えていない。とりあえず重たいランドセルを置こう、そう思い鍵を取り出し家に入った時点で朝顔は頭から瞬時に消え失せ呑気に冷蔵庫を漁っていた。

尚、三日後に「学校の近くの橋間さんという方が鉢を届けてくれました」と小学校から電話が入り「こんなクソデカいもんどうやって失くすんや!!」と親に鬼の形相で怒られた。橋間さんその節は大変お世話になりました。

成長したら少しはマシになるだろうと思っていたが、悪化する一方だ。定期券なんか何回落としたことか。定期を落とした旨を駅員さんに伝え、身分確認証を見せ、定期を受け取り、その身分確認証をカウンターに置いてくる。この繰り返しで一体どれほどの時を無駄にしてきたのだろう。

紛失物の大きさ部門でいえばおそらく朝顔が過去最高記録だが、紛失速度で考えると、先日あまりに酷すぎて自分で自分に絶望したことがある。

端的に言うと、マクドナルドとスターバックスにて、レシートを数秒で紛失した。

店に入り、絶対に疲れているだろうに決して疲れを見せないプロフェッショナルに満ち溢れたお姉さんに「店内利用です。これと、これをお願いします。支払いはカードでお願いします」と伝える。相手に聞かれるより前に先回りして言うことでできるだけ会話のラリー数を減らす妙技を惜しげもなく披露する。

にこやかなお姉さんから「◯◯番でお呼びいたしますね〜」もしくは「隣のカウンターでお受け取りください」とのお言葉を頂戴する。そして手渡されるレシート。

マクドにしろスタバにしろ、商品提供スピードは皆様ご存知の通り神速で、その間にちょっとでもスマホを触ろうとするインターネットジャンキーなぞ秒で返り討ちにされる次第だ。

しかし、その神速の間に。受け取ったレシートは消失した。距離にしてたった数メートル、時間にしてもわずか1,2分。

「財布?無いな。ポケット?ここも無い。リュックのサイドか!あ、昨日もらったティッシュここに入れっぱなしやった。へー、新しいジムできるんやー。ん?何探してたっけ??」と一人で起承転を繰り返した。結局どこにしまい込んだのかは分からずじまいで、あの日からずっと、受け渡し口の店員さんの引き攣った顔と視線が忘れられない。いっそ叱るなりしてくれ。苦笑いを視線に込めるな。もう二度とあの店舗に足を踏み入れることはないだろう。

モノだけじゃない、記憶もよく失くす。

冷凍食品を電子レンジに入れて「何Wで何分やっけ」とゴミ箱を漁る。言うことを聞かないボタンを連打し「おかず」「牛乳」「ご飯」と便利そうな項目を見つけ「お、これでええやん」となったら、はて。何をチンしようとしていたのか。

電子レンジを開け確認すると冷凍の唐揚げ。
「唐揚げって項目なくない?」
「あ、そうか、何Wとか手動で設定すればいいんやわ」

「……何Wで何分やっけ」ゴミ箱を漁る。
「えーと、唐揚げ一個で500W30秒か」
「唐揚げ何個入れてたっけ、?」
電子レンジを開ける(3回目)。
「あ、そうか弁当用やから6個ね」
「6個の場合は何Wで何分なんや??6倍か?
6倍ってことは、、3000Wで180秒、、?

もう抜け出せない。落ち着いて考えれば3000Wなぞブレーカーを一発でダウンさせる電力であることは明らかなのに。電子レンジの前で座り込み何分経っているんだ。我が家の人間はつくづく電子レンジと相性が悪いらしい。

この失くしやすさ、忘れっぽさで今までどうやって生活していたのか甚だ不思議である。おそらく周りに甘やかされ、迷惑をかけ続けてきたのだろう。

しかし、世の中そんなに甘やかしてくれる人ばかりではない。春からは一社会人としてサステナブルに御社貴社へ貢献を第一志望しないといけないのに。

あーあ、入社したらPDCAとか言われるんかな。

Plan(計画)
Do(実行)
Check(評価)
Action(改善) だっけ。

私のPDCAなんて

Plan(計画)
Delay(遅刻)
Cancel(ドタキャン)
Apologize(謝罪) なのに。

酷い。あまりにも酷い。
一瞬で思いついてしまった自分が憎い。

今後は甘やかされず、自立して、いわゆる「ちゃんとした」生活を送って、社会の一員として身を粉にして働くことになるのだろう。この紛失具合からして粉になるのは周辺の人のメンタルだと思われるが心配には及ばない。私は自分さえ良ければそれで良い。

この奔放さで会社に新しい風を、いや爆風を吹き込んできたいと思う。

BIGWAVE起こしてやるよ、着いてきなジャパン。


※追伸
どなたか、「持ち物全てにAirtagを付ける」以外の失くし魔問題解決法があればご一報願います。

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