小説「対抗運動」第7章1 キューバの生産協同組合
拝啓、おいさん頑張ってますか?舞です。
キューバに来てもう一週間になります。ハバナ郊外の有機農家を何軒か訪問しましたが、なんと言っても暑いです。えへへ。
日本と違って、畑の畝は一つずつ木の枠で囲まれ、それぞれに違った作物が栽培されています。スコールの時は畑の中に小川ができたかと思う位やから、畝の土が流されないようにしてあるのだと思います。それとも、高さを保って、苗が水をかぶってしまうことを防いでいるのかな。日本の田植えでも、水が深すぎてイネの苗が隠れてしまうと、窒息するからダメだと、高知の棚田トラストの人に教えてもらった。野菜の緑が、日本のものより明るくてキレイです。
日系人の農家で少し作業を手伝ったら、住居に招かれて、庭になっていたやしの実をご馳走してくれました。蛮刀で実の端を切り落として穴を空け、そこにストローをさして汁を飲むのです。ちょっとサトウキビの汁に似た風味でおいしかった!実は重いよ。汁はたっぷり入ってて、飲んでも飲んでもなかなか減らないくらい。
少しずついろんな作物を植えるのは、収穫期が重ならないように工夫しているのです。なんせ暑いから、長くは保存して置けない。収穫したらすぐ売らないと腐ってしまうのです。
80年代にマグロのプロジェクトがあって、日本からマグロ船が10隻以上派遣されて、同行したスタッフがキューバの人に事業を教えたそうなのですが、残念ながら今は1隻も操業していないそうです。マグロは捕れるのですが、水揚げした後保存しておく設備の普及が伴わなかったのだそうです。すぐ売らざるをえないのと、巨大市場である日本から遠いので、価格競争についていけなかった、ということらしい。
おいさん、ソ連の崩壊によってもたらされた経済危機を乗り越えるために、キューバで農地改革が行なわれたことは知っとった?革命後、アメリカ資本の強大な影響下から逃れるために行なわれた農地改革は、土地の国有化やったけど、今度のは、協同組合化だったんよ。UBPC(協同組合基礎単位)といって、農地を協同組合へ永代貸与する改革をやった。
政治的配慮でキューバの砂糖を高く買っていたソ連の崩壊によって、キューバの貿易収入は半減したし、革命以来のアメリカの経済封鎖政策は一段と強まっていたから、日常の生活用品だけやなしに、農業に必要な化学肥料や農薬も全く輸入できなくなってしもたんよ。農業の生産性は急激にダウンして大ピンチになり、この改革がこころみられたんや。
同時に、117種類の事業の民営化が認められたんやけど、その中には一定量の農作物を売ることも入っとったし、農作物自由市場の設置も認められた。さらには、このUBPC以外にも、CPA(農業生産組合=小農民が土地を持ち寄り共同耕作を行なう)やCCS(生産農家組合=信用・役務協同組合)もできたんやけど、生産性がどんどん上がるようになったんよ。有機農業への転換が成功した成果もあって、キューバでは一人の餓死者も出んかったんやと。
おいさんらが対抗運動で目指しとるんは、生産―消費協同組合やったね?資本主義への対抗運動やったね。キューバは、社会主義の弊害を生産協同組合への転換で切り抜けようとしとるみたいや。
続く
執筆:飛彈ゴロウ、2003年9月29日