高卒就職問題と最低賃金の関係
高卒就職問題研究のtransactorlabです。高卒就職市場における待遇相場情報の欠乏の問題の解消、そしてそれを通じて若年層の待遇が改善されることを求めて研究と提言を続けております。
こちらのHPで現在公開中の高卒求人の相場情報を無償公開しています。就活中の高校生、支援の先生、求人事業者の方々、どうぞご覧下さい。https://transactorlab.wixsite.com/my-site-1/blog
今回はこのような内容です。
・最低賃金30円アップ しかし国際的に見ると全然ダメ
・高卒就職市場の現在
・求人票の山 4分の1が見る価値すらなし
・「月給」に対する最低賃金判定ラインの矛盾
・最賃法違反逃れ ~休憩時間のトリック~
最低賃金30円アップ しかし国際的に見ると全然ダメ
2021年10月から全国的に最低賃金が30円程度アップのニュースをご存じでしょうか。過去最大の上げ幅です。
おおむね歓迎なんですが、まだまだです。国際的に見れば日本の最低賃金は全然低い。この狭く交通網の発達した国なのに都道府県ごとに細かく分かれているのもヘン。ヘンというかダメです。神奈川県と山梨県では県境を境に174円も違う。東京都八王子市と埼玉県新座市なんて道路一本で時給が85円変わる。
なんでなの? 法律もそうだし、それ以前の思想哲学がダメなんですよ。
興味ある方はどうぞこちらをご覧ください。(タイトル画像はこちらから拝借いたしました)
https://toyokeizai.net/articles/-/437170 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン氏
高卒就職市場の現在
高卒就職市場は平成27年ごろから求人倍率3倍前後の超売り手市場となっているにもかかわらず、初任給平均額は最低賃金をわずかに上回る程度の低い状態が続いています。ハローワークWEBサービス上で公開される求人票のうち、充足できるのはわずか1割程度、9割近くは売れ残ります。これほど人材獲得競争が激化しているのに最低賃金ラインギリギリの低待遇の求人票が3割から4割ある・・・これが現在の高卒就職市場の現状です。
私は自作のプログラムを使って高卒就職情報WEB提供サービス上で公開される全国の高卒求人の悉皆調査をしています。その結果見えてきたのが上記の状況です。大ざっぱに言うと、とにかく安い。もう少し詳しく見ると、全国で約10万件の求人票のうち、「まあまあ」以上の評価ができるものが半分、あとの半分は「生徒には絶対すすめられない」、さらにその半分は「見る価値すらなし」といった感じです。
求人票の山 4分の1が見る価値すらなし
劣悪な待遇の求人に生徒が応募することはまずあり得ないので実害はありません。紙と手間のムダを増やしてくれているのと、全体の賃金平均を下げてくれている程度です。ハローワークの厳正なる最賃チェックを通過してきている以上、法律上セーフではあります。知り合いのハローワーク職員の方によれば「基準をクリアしていれば、求人事業者の自由は保証しなければならない」のだそうで・・・。
「見る価値すらなし」求人票の一例を紹介します。福岡県のある建設会社の事務職の求人です。福岡県の最低賃金は時給842円で全国平均902円より60円ほど安い地域です。
福岡県 建設業A社 事務職正社員 基本給145,000円 月給145,000円 月平均労働日数22.8日 年間休日数92日 就業時間8:00~17:20 休憩時間120分 通勤手当上限10,000円実費支給 賞与 新規学卒者16万円、2年目から29万円~41万円
以下は福岡県高卒求人3166件の平均値です。これと比較しただけで箸にも棒にもかからないとすぐ分かるのですが、この平均値はおそらく私と私のホームページを見た人しか知りません。厚労省のシステムが相場情報を提供していないからです。
高卒求人相場 福岡県2021年8月 transactorlab調べ 全求人件数3166件の平均値 基本給158,367円 月給174,176円 月平均労働日数21.6日 年間休日数105日
上のグラフの縦軸が年間休日数、横軸が月給。赤い点がA社の求人票です。A社の方はおそらく相場をご存知ない。求人倍率が3倍近い人材獲得難の状況ですので、給料・休日数ともに平均以上でなければ応募者はまずないです。
私が学校で生徒にすすめられる求人票か否かを判断する基準はこうです。
その求人票記載の基本給 > 最低賃金×8×その求人票記載の月平均労働日数 かつ 年間休日数が105日以上(週休2日)であること
最低賃金×8は、私が思う最低日給。これにその求人票記載の月平均労働日数をかけると、その労働日数に対する私が思う最低ラインとなるので、その求人票がいいか悪いかの判断に使えるわけです。
福岡県の最低賃金は842円、A社の月平均労働日数は22.8日ですので、右辺は153,508円となります。A社の月給145,000円。基準より約7500円少ない。よってA社の求人票を生徒に勧めることはしません。
しかし、A社の求人票はたしかに福岡県○○公共職業安定所(ハローワーク○○)の厳正なるチェックを経て正式に許認可されたものです。つまり、法律上は全くセーフ。このギャップは何なんでしょうか?
「月給」最低賃金判定ラインの矛盾
私は現行の「月給」に対する最低賃金判定ラインは改訂されるべきだと思います。現在の計算式はこうなっています。
【最低賃金の計算方法】
3. 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
https://pc.saiteichingin.info/point/page_point_check.html (厚労省HP)
一見シンプルな計算式に見えますが実はこんな面倒くさい計算をしないといけません。
(月給 × 12か月)÷(年間労働日数 × 1日あたりの労働時間) 同HPより
「1日あたりの労働時間」には休憩時間は含まれない。つまり、休憩時間は給与支払いの対象外だという考え方を反映した形。たとえば、就業時間が8:30~17:00では就業時間は8.5時間ですが、、1時間の休憩が入っていれば労働時間は7.5時間となります。
時給いくらのアルバイトや日払いの仕事ならばこの考え方でもいいでしょう。しかし、正社員で月払いの労働者の給与の判断基準はこれではダメだと私は思います。だって、月給の正社員として雇うということは、その人の人生の大部分を拘束するわけでしょ。これを1時間いくらのアルバイトと同じ基準で判断していいわけがない。少なくとも私は絶対に嫌ですし、自分の子どもにもそんな働き方はさせたくないし、同様に教え子にもさせたくありません。
月給の計算方法はこのように見直すべきです。
基本給 > 最低賃金×8×その求人票記載の月平均労働日数
「月給」ではなく「基本給」が最賃ラインをクリアしていないとダメですよ。
A社の求人票、ハローワークのチェックはクリア、法律上はセーフでしょ。でも、こんな求人票、まともな進路指導教員は絶対にハネますよ。
プリントアウトすらしてもらえないですよ。
最賃法違反逃れ ~休憩時間のトリック~
A社の話に戻ります。例の計算式でチェックしてみましょう。
(月給 × 12か月)÷(年間労働日数 × 1日あたりの労働時間)
(145,000円 × 12ヶ月)÷(273日 × 7.33時間)= 869円
福岡県の最低賃金842円を27円上回っているのでセーフです。
A社の条件が最賃ラインをクリアできているのにはこの「おかしな」計算式の盲点を突いたトリックが効いています。休憩時間を120分と異様に長く設定することで労働時間つまり給与支払い対象の時間を減らすトリックです。最賃法違反逃れのテクニックだとも言えます。
A社の就業時間は8:00~17:20、9時間20分ですが120分もの休憩時間、つまり給料支払対象外の時間が2時間もあるのです。事務員を日中2時間も働かせない会社って、どんな仕事なんでしょうか?その間、その社員はどこで何しているんでしょうか?本当に働かせないんでしょうか?
人を一日雇うということについての定義を見直し、最賃決定に反映させるべし
そういった疑いはさておき、現在の月給の最賃チェックの計算式はおかしいです。だから、上のトリックのようなチェック逃れの横行を許しているわけです。
人ひとりを一日雇用するということはどういうことなのかをしっかり議論し、まっとうな最低日給を決め直すことが必要です。
以上です。おつきあいいただきありがとうございました。
就活高校生と支援の先生がた、大変ですが頑張りましょう!