高卒就職問題~本当に変えるべきは古臭い常識なのです~(3)
高卒就職問題研究のtransactorlabです。高卒就職問題改善のために研究と提言を行っております。
「本当に変えるべきは古くさい常識なのです」シリーズの3本目は、高卒就職問題にはどういうものがあるのかを概観したいと思います。
高卒就職問題のうち一般的に認められていること
(1)高卒就職者の早期離職率が高いこと
(2)早期離職対策として複数応募制が導入されたが広がらず、早期離職率抑制策としての効果が見られないこと
私が研究を進める過程で見えてきたこと
(3)求人倍率高騰に対して求人待遇上昇が極めて緩やかだ
(4)高卒就職市場には待遇相場を表す客観的な情報が不足している
(5)高卒初任給と地域別最低賃金が互いに足を引っ張り合っている
(6)人口減少と若年層の所得が伸びないことは国家経済の破綻を招く
(7)やはり情報不足が一番の壁
(8)教員にもある古い常識「高卒だとこれぐらいじゃないの」
(1)と(2)の詳細は前回の記事をご覧ください。それ以前にも詳しく書いたものがあります。
求人倍率高騰に対して求人待遇上昇が極めて緩やかなこと
まずはこのグラフをご覧ください。
これは大卒の求人倍率(折れ線)と初任給(棒 グレーが男子 オレンジが女子)の推移を重ねたものです。求人倍率が景気動向の影響を強く受けていることがよく分かります。初任給は平成25年以降、上がり幅がそれ以前より若干大きくなっています。これは求人倍率の上昇が続き、人材獲得競争が激しくなったためだと思われます。
次のグラフは高卒です。大卒と比べて初任給の安さが際立ちます。平成元年の高卒初任給平均は男子12万円女子11.8万円だったのですね。平成5年といえばバブル景気の最後の年ですが、その年に高卒男子初任給平均が15万円近くになり、それ以降ほぼ横ばいの状態が続きました。一方、高卒求人倍率は平成23年に底を打った後に急騰、平成31年(令和元年)には3倍を超えました。その後も3倍前後の高止まり状態が続いております。
このグラフをからも高卒は求人倍率高騰のわりに初任給の上がり方が緩いことがわかります。需要と供給の原理の影響が大卒市場に比べて弱いと言えます。
次にご覧いただくグラフは、年度ごとの高校卒業者人口および進路希望に求人倍率の推移を重ねたものです。
縦棒が卒業者全数、上のオレンジ部分が就職希望者、青が非就職(主に進学)、折れ線が求人倍率(右側が倍率)を表しています。
人数は平成3,4年に約180万人と最大を記録しました。昭和末期からこの平成一ケタのころの私大入試では競争倍率15倍と20倍なんてのは珍しくありませんでした。それぐらいの同学年の人数が多かったのです。激烈なイス取りゲームの時代だったと言えるでしょう。その世代は現在の50歳前後になります。
もう一点、注目していただきたいのは進学と就職の割合の変化、およびそれぞれの総数の変化です。最大を記録した平成3年、総数約180万人のうち約33%(約60万人)いた就職希望者が令和元年では、総数約115万人のうち約22%(約20万人)まで減っています。
すごい減り方です。この進学率の向上(就職率の低下)の理由としては、親の平均所得の向上、3人以上の子どもを持つ家庭の減少、一人っ子の増加などが相まって少ない子どもを進学させる経済力をもつ家庭が増えたためだと言われております。大学・短大・専門学校の新設や定員増が盛んに行われ、入試が急激に易化していくのはこの少し後のことです。
時代の変化とともに高卒就職が低下し、少子化も相まって就職者の実数は大きく減りました。このこと自体の良し悪しについての議論はいたしましせん。問題は、高卒就職希望者が率および人数ともに大きく減ったことにともない稀少価値が上がったはずなのに初任給の上がり幅がとても小さいという点です。
これが私がいつも主張している「高卒就職市場の不健全さ」です。
就職者が不利益を被る状態が続いているということであります。
高卒就職市場は縮小し続けているためでしょう、この問題への注目度は正直高くはありません。しかし、高卒初任給は全ての労働者の賃金体系のベースですので、ここの低さは全体の足を引っ張ります。
また、高卒初任給は地域別最低賃金算出における重要要素のひとつです。よって、高卒初任給が不自然な上がりにくさは地域別最低賃金に対しても抑制的に働くのです。
この「高卒就職市場の不健全さ」の原因が何なのか、私はずっと考え続けてきました。そして見えてきたのが「待遇相場に関する情報があまりにも少ない」という事実です。
お読みいただきありがとうございます。
高卒就職の待遇相場って何?と思われた方は私のホームページや前の記事をご覧下さい。点々グラフを見ていただければたちどころにご理解いただけると思います。こういう情報を厚労省は出す責任があるのですよ。
続きはまた次回。