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英語の音素(母音、子音)について

この記事は、「そっちゃそ発音講座」の受講者向けに公開しているものです。特に非公開にする理由もないので、広く役立ててもらう目的で公開しています。発音講座について気になる人は以下からチェックしてください。


前提

英米の音に違いがある場合はその違いにも言及します。どちらが正解、不正解ということはありません。英米のちゃんぽん発音にしてもOKで、米式で話すなら英式の音を採用してはいけない、なんてことはありません。

母音

以下では、英語で採用されている母音を網羅的に解説しています。/uː/ と /ʊ/、および /iː/ と /ɪ/ はひとつの見出し内でそれぞれまとめて説明したほうが便宜上役立つと判断したため、そのようにしています。

/æ/

前舌面が前面に盛り上がる前舌母音で、俗称「アとエの中間」です。アとエの中間という説明はその通りで、ぞんざいな発音ではないしっかりと発音する日本語のア /a/ と、日本語のエ /e/(正確には[e̞]) のだいたい真ん中にあります。「あ、え、あ、え、あ、え…」と交互に連続的に発音し、その真ん中にある音色を探る練習をするとこの音素を習得できます。

/ɑ/

後舌面が盛り上がる後舌母音のひとつで、日本人の耳からするとおそらく「あ」に聞こえます。前舌母音の日本語のア /a/ とは音色が明らかに異なり、平べったい音ではなくディープな音になります。

/ɑ/ は後舌かつ顎を最大限に落とす広(「ひろ」とよみます)であり、口の中の容積が大きくなります。正確性に欠けますが、「顎を最大限に下げて『お』と言う」と /ɑ/ になります。また注意すべきこととして、口を大きく開くことと口の中の容積を大きくとることは必ずしも一致しません。

英式の場合は /ɑ/ ではなく /ɔ/ になります。いずれにせよ、前舌の /a/ と異なりディープな音色になります。

/ɑ/ の動画解説はこちらから。

/ə/

あいまい母音 /ə/ で、シュワ(schwa)という特別な名称を与えられています。車のギアでいうところのニュートラル(N)であり、何も力が加わっていない状態で音を出します。必ずではありませんが、アクセントが乗らない音節はシュワになることが多いです。逆に、アクセントがシュワに乗ることはまずありません。

あいまい母音シュワの解説動画はこちらから。

/ʌ/

後舌母音のひとつで、country, money などの音に対応します。音色があいまい母音 /ə/ と似ていると感じるかもしれませんが、中舌の /ə/ と後舌の /ʌ/ の違い、および顎の開閉度のわずかな違いがあります。広の /ɑ/ と半広の /ʌ/ の違いは顎の開閉度の違いだけで、それ以外は同じです。/ʌ/ をかまえて顎を落とせば /ɑ/ になります。

/ər/

erの綴りに対応することの多い音です。hooked schwa(鍵付きシュワ、/ɚ/)と呼ばれることもあります。/ər/ は子音である /r/ を母音として用いた音であり、R音性母音(アールおんせいぼいん)という特殊な母音です。/ər/ は文字が2つ書いてありますが、二重母音ではないので注意してください。うなるような音色であり、日本語のラ行子音とは明確に音色が異なるため、ラ行で代用することはできません。また、英語の er の音は巻き舌(roll)ではありません。

/ər/ ではなく、長母音のシュワ /əː/ にしてもokです。日本人的には長母音シュワがやりやすいとされていますが、個人的にはどっちでも変わらないと思います。

R音性母音の動画解説はこちらから。

/iː/ と /ɪ/

/iː/ と /ɪ/ は、英語の「い」っぽい音です。

/iː/ はテンションの張った「い」、/ɪ/ はそれよりもゆるい「い」と覚えて問題ありません。英語の場合 /iː/ と /ɪ/ には意味上の明確な区別があり、たとえば、feel(感じる)とfill(埋める)は /iː/ と /ɪ/ の違いで明確に区別されます。

まず /iː/ についてですが、日本語の「い」も、明瞭に発音しようと試みるとこの /iː/ になります。ただ、実際に運用される日本語の「い」の場合、顎が狭から半狭になる方向、つまり顎が開く側にゆらいで [i̞] になる場合が多いです。「ぞんざいに発音しない日本語の『い』」と同じである、と解釈してください。歯医者さんに「口を『いー』ってしてください」と一度は言われたことがあると思いますが、それが /iː/ です。

次に /ɪ/ についてです。単体で発音されると、こちらもおそらく「い」に聞こえます。/ɪ/ は広めの狭(ひろめのせま)で前舌め(まえじため)という、なんとも微妙な位置の音なのですが、/iː/ を基準にして、顎をちょっと開き、舌の張りをちょっと緩めるだけで、この音色を出せます。

日本語の場合、「ビル」と「ビール」のように母音の尺で意味を区別しますが、英語には母音の尺の違いによる意味の明確な区別がありません。コロンがついている /iː/ のほうが /ɪ/ よりも長い尺で発音されることになっていますが、母音の尺は文脈に支配されるイントネーションでかんたんに変わります。長短の差の他に、音色による区別も明確にできるようにする必要があります。このことは、後述の「う」っぽい音でも同じです。

/uː/ と /ʊ/

/uː/ と /ʊ/ は英語の「う」っぽい音です。/uː/ と /ʊ/ は、前述の /iː/ と /ɪ/ のペアときれいな鏡面対称の関係にあり、/uː/ のカウンターパートが /iː/、/ʊ/ のカウンターパートが /ɪ/ と考えてよいと思います。

実際に運用される日本語の「う」は、unrounded で口をすぼめない /ɯ/ になることが多いですが、英語の /uː/ と /ʊ/ はどちらも口をすぼめる rounded です。rounded と unrounded には音色に明確な違いがあり、口をすぼめない /ɯ/ をそのまま英語の /uː/ や /ʊ/ に当てはめることはできません。

/e/ と /ɛ/

/e/ は日本語の「え」よりも顎を狭め、顎を半狭(「はんせま」と読みます)に持って行って出す音です。半広(はんひろ)の /ɛ/ とは意味上の strict な区別がなく、一般的傾向として、アクセントが乗ると /ɛ/ になります。僕も、/e/ や /ɛ/ の明確な使い分け方をよくわかっていません。

/e/ と /ɛ/ の真ん中に日本語の「え」があります。「え」は /e/ と /ɛ/ と音的に近しいため、辞書で /e/ や /ɛ/ と表記されている音を日本語の「え」にしても音素代用になりますが許容範囲です。

/ɔː/ と /ɑː/

because, allright, authentic などの綴りに対応します。/ɔː/ と /ɑː/ 同士に明確な意味上の区別はなく、たいていの場合互いに置き換えることができます。

二重母音

以下では、英語の二重母音について説明します。二重母音とは、ある音素から別の音素に連続的にスライドさせて発音する音素であり、時間に伴う音の変化があります。

日本語の場合、「ぞうさん」を「ぞーさん」と言ったり、「せんせい」を「せんせえ」あるいは「せんせー」と言ったりするなど、表記上の二重母音が長母音に変わってしまうことがありますが、英語の場合そのような癖はなく、二重母音が長母音になる傾向はありません(弱化してシュワになることはあります)。

二重母音について解説する動画も用意しています。こちらからご覧ください。

/oʊ/

phone などの音です。/o/ から入り、/ʊ/ に着地します。フォン(phone)、オンリー(only)など、カタカナのイメージがこびりついている場合、短母音の /o/ で代用したくなりますが、phone も only もいずれも二重母音の /oʊ/ であることに注意する必要があります。

/oʊ/の解説動画(ショート)はこちらから。

/aʊ/

now, power, however などに対応する音です。開始点にアとエの中間 /æ/ を使用して /æʊ/ としても問題ないです。たとえば、now を /næʊ/ と発音してもOKです。

/aʊ/の解説動画(ショート)はこちらから。

/ɑr/

後舌母音の /ɑ/ に /r/ がくっついたもので、arの綴りに対応することがほとんどです。is, am, are の are の音(/ɑr/)そのもので、後舌母音の /ɑ/ からR音性母音に連続的に動かします。/ɑr/ の発音の開始点は /ɑ/ であり、これは、前舌母音の /a/ を開始点とする /aʊ/ とは異なります。

/ɑr/の解説動画(ショート)はこちらから。

/er/ または /ɛr/

空気の air(/ɛr/)の音そのものです。/e/ または /ɛ/ から、R音性母音に連続的にスライドさせます。

/ɔr/

more, or, detour などの音で、-ore, -or, -our などの綴りに対応することがほとんどですが、sensor /sensər/ など、-or とつづられていてもこの音素に対応していない例外もあります。and / or の or の音もこれですが、実際に運用される or は弱化して /ər/ になることがほとんどです。

/ɔɪ/

alloy, enjoy, oyster など、oy でつづられる単語に対応することが多いです。この二重母音の登場頻度は、比較的少ないです。

/eɪ/

say, play, okay などで登場する音です。

/eɪ/の解説動画(ショート)はこちらから。

英語の子音

以下は英語の子音の説明です。無声音と有声音のペアでまとめて説明する場合は、見出しで無声音を前に、有声音を後に書いています。

think と sink、she と sea、right と light のように、日本語では音的、意味的区別がないが英語では区別が存在する、というパターンがいくつかりあります。

/t/ と /d/

日本語の「たちつてと」、「だぢづでど」の子音と同じと考えてよいです。ただ、英語の場合、気音化や閉鎖音化が頻繁に発生するため、複数の異音について理解しこれを習得する必要があります。気音化と閉鎖音化については、ほか2つの破裂音のペアである /k/ と /g/、および/p/ と /b/でも同じです。

気音化、閉鎖音化については以下の記事も参考にしてください:

/s/ と /z/

摩擦音です。摩擦を発生させる位置が異なる /ʃ/ と /ʒ/ のペアとは明確な区別があり、取り違えると意味上の取り違えが生じます。日本語の「さすせそ」の子音と同じですが、気流が日本語の「さすせそ」よりもずっと顕著になる傾向があります。

/ʃ/ と /ʒ/

摩擦音です。前述のように同じ摩擦音の /s/ と /z/ のペアとは意味上の明確な区別があり、たとえば、seeとsheは明確に区別されます。さしすせその「し」の子音 /ɕ/ で代用しても通じますが、代用している感は残ります。中国語のそり舌音の /ʂ/ に似ていて、これで代用することも多分可能です。

対処療法的な教え方ですが、さしすせその「し」の子音 /ɕ/ の型をまず作り、そこから口をすぼませて「キス」の形にすると、この音を出せます。その形で声を介在させれば、有声音の /ʒ/ になります。

/tʃ/ と /dʒ/

破裂を伴う摩擦音で、破擦音といいます。/tʃ/ と /dʒ/ の記号からもわかるように、上記の摩擦音に破裂音 /t/ と /d/ がそれぞれくっついたものです。破裂を出した後その破裂で出てくるブレスをそのまま連続的に使用して摩擦を出します。

/tʃ/ を /ʃ/ にしてもほとんどの場合でokで、問題なく伝わります。たとえば、actually の tu のところ /ʃ/ にしても意味の伝達に影響しません。これは代用ではなく単なる個性なので、好きな方を使ってください。

/θ/ と /ð/

摩擦音です。/s/ と /z/ のペアや /ʃ/ と /ʒ/ のペアと同じ仲間であり、意味上の明確な区別があります。たとえば、sinkとthinkでは意味上の区別があります。

/k/ と /g/

かきくけこ、がぎぐげごの子音と同じと考えてOKです。ただし、前述のように、日本語にはない /k/ と /g/ の異音について理解しこれを習得する必要があります。

/p/ と /b/

日本語のぱ行とば行の子音をそのまま使用してOKですが、こちらも他の気音と同様に、異音について理解しこれを習得する必要があります。音声変化させずに /p/ や /b/ を使用することが間違いというわけではありませんが、文の中で発音するのがしんどくなります。

/f/ と /v/

前歯で下唇をかるく噛み、間に息を通してその摩擦で音を出す摩擦音です。「はひふへほ」の「ふ」の子音 /ɸ/ で /f/ を代用する日本語訛りがよくありますが、/ɸ/ の音素は日本語には存在しないため、これを持ち込まないようにしてください。

/h/

摩擦音です。寒い朝に手を暖めるときに「は~っ」と息をかけると思いますが、それが /h/ です。/h/ は気道の中のもっとも狭い箇所である声門でブレスが擦れる音なのですが、その先から口元までの間に変な力が入っていると、何か別の摩擦音になります。日本語のはへほの子音 /h/ をそのまま使う形で OK なのですが、日本語の「ひ」と「ふ」の子音とは明確に異なるので注意してください。heal を「ヒー」の音で出してしまうと、日本語訛りが介在します。

/ŋ/

ing系のngのところに対応する音です。まず注意してほしいこととして、これは2音ではなく1音です。プレイング、リーディングのように、カタカナから入ってしまうとどうしても、「ング」のイメージがこびりついてしまい、あたかも異なる2音がくっついた音であるかのように感じてしまうのですが、これは単なる鼻音で、/m/ や /n/ の仲間になります。

/m/

日本語の「まみむめも」の子音と同じです。鼻から出す音である鼻音の仲間のひとつで、唇をべったり閉じた状態で声を出すことで発音します。/m/ の音は、「あぱん」の「ん」と同じです。音声変化することはないですが、後続の音が /f/ または /v/ の場合、たとえば comfort などの場合で、/f/ につなげやすい /ɱ/ が使用されることがあります。

/m/ の動画解説はこちらから。

/n/

日本語の「なぬねの」の子音と同じです。/m/ と同じく、単体で発音されるとおそらく「ん」と認識されます。/n/ の音は、「あない(案内)」の「ん」と同じです。

ひとつ注意すべきこととして、日本語のにの子音は /ɲ/ であり、/n/ と音的にとても近しいですが音色は異なります。needs(ニーズ)など、日本語の「に」で言いたくなるような音を /ɲ/ で行ってしまうと、日本語訛りが介在することになります。

/r/

read, realize, reason など、rでつづられる箇所に対応する音です。日本語のラ行子音とは音色が明確に異なるため、ラ行で代用することはできません。中国語のそり舌音のrとかなり似ていて、これで代用しても多分大丈夫です。

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