理工系大学というトランスジェンダーFTMの保護施設

「自分は可愛い女の子。できる!やれる!キュルルン!!!(謎)」

僕はずっと昔、子供だった自分自身に対して、こんな感じの自己暗示をかけていたようだ。

僕はトランスジェンダーの特性を持って生まれた。

7歳の時に、僕は人格が2つになってしまった。7歳の時に人間をやめた、もう一人の自分が僕のために残してくれた魔法だろう。

「せめて暗示魔法をかけてあげるから、あとは頑張ってね。オレには女の子をやるのは無理ポだわ。あとよろしくー。」。。。
きっともう一人の僕である「あいつ」は、そう言い残して、人間をやめて半ログアウトしてしまった。僕にすべてを押し付けて。

この魔法にだいぶ守られて来たが、僕がとある一つのお願いごとをしたら、ある日突然魔法がずるりっと溶け落ちてしまった。強い願いで、自己暗示がとけたのだ。

僕の心を守っていた自己暗示の魔法が解けてしまった後は、もちろん、とんでもない大惨事である。僕のメンタルは人生3回目の大破となった。

僕は、何をどう頑張っても、自分の心が男であると、はっきりと気付いてしまった。本物の女の子には、もうなれないと悟り、毎日泣いて暮らすようになってしまったのだ。

最近思うのは、魔法が解けるタイミングがもう少し早かったら良かったのに。そしたら僕は、意外とナチュラルに世の中で暮らせていたかもしれない。

僕の場合、理工系大学在学中に自己暗示がとけたら一番ベストだった、と思う。

僕は大学生の時は、ダサいが安心感の半端ない、理工系大学特有の制服で学校へ通っていた。

学校ほぼ、男の子だらけだ。僕が素の状態でいても、意外と違和感がなかったのではないかと思う。ほぼ男の子しかいない学部に入学する女の子の心が男であるのも無理ないね。普段の様子からも、やっぱりそうだったのね、と。

女の子の数が少なさ過ぎるので、女の子扱いも面倒事の一つのようだ。少し中途半端な僕の存在を、大半をしめている男性の方に、四捨五入して処理してもらえたら。
その方が僕は、楽だったかも。

だが、いかんせん、魔法がとけずに女の子にならなきゃと僕は思っていた。だから僕は、「近い対人関係」がとっても苦手だった。近い対人関係では、自己開示が必要になる。

僕は、心が男という前提条件を隠して人と付き合わなくてはならない。だから本音も言えないし、会話の主語もない。曖昧なやり取りしかできないのである。

だから僕にとって、4年時の研究室が完全に無理ポ案件だった。みんな狭いお部屋でずっと一緒にいるのだ。近い対人関係には、僕のバ美肉おじさん(しかも未完成版)はまったく通用しない。

バ美肉おじさんが使うキャラクターは、「設定」の範囲中でしか会話ができない存在なのだ。結果、僕は、全然喋れなくなり失語症みたいな状態になってしまった。

そして、僕は「これではダメだ。僕は会社になんか行けない。。。毎日、同じ人とは合わない生活が良い」と思うようになった。

僕は自分の人生を、死ぬまで魔法で心を守って逃げ切ることはできなかった。僕は、中途半端なタイミングで魔法切れを起こしてしまった。「僕は女の子であることを頑張れる」という暗示が消えてしまった。

もし、暗示が解けた状態、つまり僕が素でいられる状態で理工系大学に残っていたら。
そのまま進学して、ポスドクを目指して、担当の先生に実験アシスタント奴隷として飼ってもらうのが、一番幸せだったかもしれない。大学内部で残るのは、かなり努力が必要だけれど。

自己開示ができれば、男村のような理工系大学は居心地が良い場所だと思う。

僕のような個体は、普通の会社に入るのはとっても大変だから、研究室にいさせてもらうのも一つの手だった。

「僕はお外じゃ暮らせないよ(涙)いっぱいお手伝いするから、僕を飼ってよ!!」
先生に泣きつくぐらいのことは、頑張っても良かった。担当教官の専攻コースで受験許可もらうぐらいのチャレンジはしても良かったかな。大学院進学希望の場合、受験前にどの研究室で面倒を見てもらうのかが、決まってないといけないからね。

まぁ、でも僕には担当教官の専攻コースで内部進学できるほどの成績もないし、ずっと研究室に残れるほどのスペックもない。
それに先生も実験アシスタントを必要としていなさそうだった。だから、内部進学しなかった今の選択は、間違ってはないのだけれど。

どんな場所でも、基本的な人間関係ありきなのが居心地の良さの前提だとは思う。周りの人との相性、恋愛トラブルなどを回避するなど、うまくやっていく部分はもちろん、必要だとは思う。

だけれど、僕のような人間でも、きっと素の状態で自然に普通にしているだけで、みんなの中に紛れ込める理工系の偏った世界はFTMの知られざる保護施設だったのかもしれない。

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