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【フィンランド研修レポート|都市編】自然と都市との共生とは?

こんにちは、トレイルヘッズの永島です。

2022年9月、実に3年ぶりに社員一同でフィンランドを訪れました。

フィンランドは、実はトレイルヘッズのカルチャーやサービスに大きな影響を与えている国です。メンバーはそれぞれテーマを持って各地を訪れ、新たな発見を持ち帰りました。その中には我々が掲げる「働く、暮らす、遊ぶ」のあり方を見つめ直すきっかけになるものも多くありました。

これからフィンランド編Note記事として、我々がフィンランドで何を見て、何を学んできたのか、皆様に少しでもおすそ分けできればと思います。

第3回目の今回は、ヨーロッパNo.1のグリーンな都市に選ばれた、Lahti(ラハティ)視察のレポートです。

環境先進都市 LAHTI

「印象の薄い街だなー。」

これがラハティという都市に到着した時の、申し訳ないのだけど、正直な感想。でも今思い返すと、実のところ我々の誰もが、あまりこのラハティという街のことを知らずに訪れていました。

事前情報といえば、2021年のGreen Capital of Europe(ヨーロッパグリーンキャピタル)として、全ヨーロッパで最もクリーンな都市に選出されたこと、そしていくつかの企業や民間の活動で環境改善・保全に取り組んでいるということくらい。

トレイルヘッズは、会社として環境への取り組みを一層強化していきたいと思っていたところで、何か学ぶことはできないかと、このラハティを訪れたのでした。一方、一見街の景色からは、そのような輝かしい実績が容易に見て取れず、”一体何を得ることができるのだろう?”と、この町のポテンシャルは全くの未知数でした。

この日はVISIT LAHTI(https://visitlahti.fi/ja/)に所属するANU(アヌ)さんという方が、ラハティの案内人。少々余談なのだけど、今回のフィンランド旅に登場してくる現地の方、ほとんどが女性。それだけ女性の社会進出が進んでいるのだなあと感銘を受けます。

今回は地元出身のガイド、アヌさん(写真右)にラハティの案内していただいた。

LAHTI (ラハティ)とは

ラハティは①湖を中心とした、環境改善の歴史、そして②現在進行形で進む、サステイナブルなまちづくりを大きな特徴としています。

ヴェシヤルヴィ湖という大きな湖の湖畔に位置する都市で、(実際フィンランドの多くの都市が湖畔にあります)、戦後の経済成長の波を受けて大きく発展したラハティ。しかしその反動として、環境汚染は著しく進んだそう。

その後、1970年代からの市民活動により環境は改善。浄水設備の整備や市民を巻き込んだ水質改善活動を経て、いまではもっとも美しい湖と呼ばれるまでになったとのこと。

そして環境への意識や活動はそこで止まることなく、現在ではゴミの99パーセントを再利用しているという、驚きの環境先進都市なんです。また市民の移動距離の50%をサステイナブルな移動手段ー自転車や公共交通機関ーに置き換えるための活動も推し進めており、道路整備にも出資を惜しみません。
Green Capitalへのアクションの一環ということもあり、民間の不動産事業者からブルワリーまで様々な企業が環境改善のためのアクションに名を挙げているのだとか。

ラハティのみならず、フィンランドの各都市にはこのようなレンタサイクルやスクーターが点在している。

Lanupuisto公園

まず我々は近隣の公園へ足を進めます。木々に囲われた遊歩道が、小高い丘に続いていきます。ガイドのアヌさんは肩で息をしていて、フィンランド人といえど、全員が自然でのハイクに慣れているわけではないみたい。一方でアヌさん曰く、

「すべてのフィンランド人が生えている木の種類を見分けられるくらい自然に精通しているんですよ」

とのこと。とにかく、フィンランド人の日常のとても近くに自然があるのは間違いないみたい。

さて、この公園は丘を中心として、市街地に近くありつつも、人工的な音が届かないすばらしい自然環境で、人もそれほど多くない。都心に住む僕からしたら羨ましい限り。

「この公園には12の彫刻作品が展示されています。しかしこの彫刻に乗った苔や、木の葉などを取り払うことは許されていません。自然との共生をテーマにしているため、時間の経過とともに変化していく様子も含めて作品としているんです。」

「公園内に新たな階段の増設計画がありました。それに対して、本来の自然の姿に反すると、市民からは反対の声が上がったんです。結局行政の判断で建設は進むことになってしまったんですが。」

さすがラハティ市民。公園内の自然を、可能な限りありのまま残すことに強いこだわりを持っていたよう。やはり都市と自然との距離感がとても近いんだなあ。

彫刻からは、苔はおろか落ち葉さえも取り払ってはいけないという。

VIITA WORKSTATION

VIITA WORKSTATIONと呼ばれる、木の幹に設置することのできるスタンディングデスクは、この公園を含め、LAHTI周辺にいくつか点在するらしい。Green Captialへの選出に合わせて、芸術学校や民間のデザインファーム、ラハティ地元の家具メーカーが協業して、未来のリモートワークをコンセプトに形にしたツールが、このVIITA WORKSTATION。自然環境と仕事環境とを近づけることでのWell-Beingも目的とされていて、ラハティの都市と自然との距離感を象徴するよう。

「残念ながら、心無い市民の手で一度壊されてしまったんです。でも再度作り直し、今ここにあります。落書きがしてありますけどね。コロナのロックダウン中は使う人がいたみたいですよ」

トレイルヘッズも、森ワークという、自然の中で働くためのサービスを展開しています。自社で運営するHINOKO TOKYOというキャンプ場で、森で働くことをコンセプトに家具やツールを開発し、実装してきました。一方遠く離れたここ、フィンランドにも同じことを考えた人たちがいたみたい。

フィンランド式森ワーク。

廃棄物に新たな可能性を見出すクラフトビール

環境保全とクラフトビールとは、一見するとリンクさせるのが難しそう。それでもトレイルヘッズはクラフトビール大好き。環境に配慮したビールを作っていると聞いて、醸造所に向かわずにはいられなかったのでした。
ブルワリー”Ant Brew”主催のCali Puttonen(カリ・プットネン)氏にとっても、サステイナブルな試みをビール作りにインストールするのは、面白い試みに思えたとのこと。

「ビールづくりは何年もやってます。もとから変わった素材を使ったビールを作っていました。そんな中、ヨーロッパ・グリーン・キャピタルの試みを聞いて。これまでの延長線上で面白いことができそうだと思ったんです。ここで作ったビールはこのパブか、近隣の数店舗にしか卸してないんです。」

彼が素材として使うのは、魚の浮き袋や、ガチョウのフンなど。一見捨てるだけのものを製造工程に使うことでユニークなビールを作っているのが特徴。そのラインナップは、廃棄されるものに新たな可能性を見出すことから”Waste Potential”と名付けられました。"ZEN"など日本をはじめ、世界各国をイメージしたビールや、"Berry Soup"という地元のベリーをふんだんに使ったフルーツビールなど、ユニークなラインナップがたくさん。

試しに数種類飲んでみたけど、美味しさも折り紙付き。全部飲むまで帰りたくない!

醸造所裏のパブにて、Ant Brewの取り組みについて語るPuttnen氏。
営業時間外にも関わらず、快く取材を引き受けてくれた。

木造のオーケストラホールと建築

Sibelius Hall(サイベリアスホール)はラハティの港の中心にある、世界最大級のアコースティックオーケストラホール。木工で有名なラハティの特徴を活かし、この巨大な建築もその基本的な構造は木造で設計されています。その壮大さは圧巻。ホール内は音を反響させたり、遮断したりする工夫も木材の性質をうまく利用しており、ラハティの誇る一大建築です。

余談なのだけど、このコンサートホールには演者や観客が演奏前に"ひとサウナ"浴びれるようにサウナが付帯しているそう。
”サウナのついでにオーケストラ聞いていく?”なんて友達を誘えたら、あなたはもう立派なラハティ市民!

運良くホールが空いていたので、急遽中を見せてもらうことに。
木造のSibelius Hallには、演者や観客が上演前にサウナに入れる施設が付帯している。

また、インテリアを手がけるトレイルヘッズメンバーが驚いたことに、ラハティの街中にはレンゾ・ピアノや隈研吾など、名だたる建築家の作品が相当数点在していたということ。木造建築の文化を伝えるためのギャラリー施設なども中心地にあり、建築に対する積極性が伺え、これもラハティの大きな特徴のひとつといえますね。


時間がなくてあまり回れなかったけど、隈研吾設計のバス停でパシャリ。

グリーンな都市であるということ

一番グリーンな街、ラハティにおいて一番強く印象に残ったものは、意外にも人の営みー建築や芸術、ブルワリーなどの文化的側面などーでした。ここから何が読み取れるのだろう。

そもそも”グリーンな都市”という言葉には根本的な矛盾がある、ということがまずは考えられます。都市というのは人や産業の集積無くして語れないけど、産業の発展の向かう先には、環境の破壊というのは(おおむね)免れない。本当に環境を守りたいのであれば、人間などいてはならない、なんて主張もできちゃいますよね。

一方で、環境を守るということと、産業を育てる、という矛盾を積極的に受け入れ、乗り越えようとする姿勢こそが、ラハティの特徴なのではないでしょうか。人を惹きつけ、文化や産業も育みつつ、同時にその環境的負荷を最小限に抑える。この両立の難しい努力が、高次元で成り立っているのがラハティという街なんだと思います。

そして2つ目に、ラハティは、環境によい活動とは目に見えづらいものだということを教えてくれた気がします。

サステイナブルな商品を買ったり、エコバッグを使ったり、電気自動車を買ってみたりー我々が環境のために取れる選択肢は、SDGsというワードと共に、社会に大きく広がったように感じます。たしかにここラハティだけでなく、サステイナブルな暮らしへの意識はフィンランドの至る所で根付いているようです。

しかし、ラハティをみていると、そういった試みはまだまだ基本的なことで、彼らにとってはもはや強調する必要すらないのでは、と思ってしまうんです。

もちろんそれらが悪いといっているわけではなく。ただ一方で自分の住む街の交通インフラはどうなっているのか。自分達の出したゴミはどのように処理されていくのか。自分達の暮らしに必要なエネルギーはどれくらいの負荷を環境に与えているのか。一見目に見えづらく、意識もしづらいものごとにこそ注意を向ける。市民それぞれが理解をした上で、行政と市民が一体となって街の向かう方向を決めていく。そういったラハティ市民の姿勢から、いかに自分がグリーンウォッシング的な分かりやすいアプローチに注意を向けていたかを感じさせられました。

環境意識と活動が、文化と一体化して根付いている都市、ラハティ。この都市の、ある意味での派手さのない姿が、我々の環境活動に何か示唆を与えてくれるように思います。

Writing: Keita Nagashima (TRAIL HEADS)
Photo:TRAIL HEADS


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