#6 僕らが旅に出る理由
取材を兼ねて久しぶりに、北海道を訪れました。私の乗った飛行機は往復満席、移動に使った長距離特急の指定席は、いずれも空席がわずかでした。札幌駅が朝夕、混雑していた一方で、歓楽街「すすきの」の人出はコロナ前にまだ遠く、シティホテルでは人気の朝食ビュッフェがスムーズに入場できる状態。ですが、行く先々で伺うと、客足が伸びている手応えがあるとのこと。航空各社は7月から国内線をコロナ前水準に復便する予定ですし、新千歳空港では2年以上運休していた国際線も再開します。北海道へのメーンルートは航空であり、道外からの来訪客数は、航空座席供給数と相関関係がみられます。今年は、短い繁忙期の入込客にも期待が持てそうです。
感染対策を守りながらですが、気兼ねせず、旅に出かけられるようになりつつあります。地域によっては、自治体を通じた宿泊、交通への割引、クーポン配布などの需要喚起策が、観光回復に奏功しているようにも見えます。北海道では、宿泊料金3000円を割引、かつ2000円分のクーポンを提供する札幌市の宿泊割引「サッポロ割」や、道の公共交通利用促進キャンペーンによってJR北海道の在来線特急乗り放題が6日間12000円と破格な周遊パスが人気です。これらは県民割やブロック割のように居住地制限が設けられていません。北海道旅行の動機づけにも大きく貢献しており、繁忙期に向けて推力を補助するブースターの役割を果たしているようです。
円安が進んでいることもあり、インバウンド観光の本格再開を望む声もあります。しかし国内にはまだ、外国からの個人旅行客を、おもてなしできる環境が、十分整っていないように感じています。障害はビザ取得の煩雑さやマスク着用の有無だけでは、ありません。気持ちよく楽しんで帰ってもらえるようになるには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。世界から日本への観光を渇望されているから、と言って中途半端に急いでも、その魅力を十分に提供できなければ、再訪につながりません。まずは日本人の流動回復を優先させて、観光立国再スタートのウォーミングアップとして取り組むのはいかがでしょう。
コロナ禍における働き方改革の加速を経て、多くの日本の給与生活者は、以前と比べて〝休暇〟をとりやすくなったのではないでしょうか。多くの人の休みが集中する超繁忙期にあえて活動せず、旅程を前後にずらせれば、質の良い宿泊、利便性の高い交通を安価に予約できます。旅に出かけるのが人間の本能であるのだとしたら、旅に出る理由を探るのはナンセンス、人それぞれ違っていて当然。ですが、お得に出かけられるというのは、背中を押すきっかけの一つであるのは確かでしょう。繁忙期には黙っていても人が動きます。「GoToトラベル」のような政府主導の需要喚起策などは本来、閑散期に活用されて効果を発揮できるはずなのですが。
(検証)人との交流は人間の本能
2020年6月のインタビューです。同年4-5月に続いたステイホーム期間に、私が、明けたら真っ先に話を聞きたいと願ったのが、当時、日本旅行業協会(JATA)会長を務めていた田川さんでした。観光産業はどうなってしまうのか、光はどこにあるのか。悩みながらも、明快な道筋を提示頂きました。私自身、リアルの交流の尊さを再認識しましたし、きっと記事を通じて観光産業に従事している方々を励ませたのではないでしょうか。