#4 閑散線区の存廃問題
ローカル線の存廃は本質的に地域の問題だと思います。国や鉄道会社に責任を押し付けず、将来どのような地域を作っていくのかを、住民が主体となって議論し、最適な交通を選んで再構築していくことが望ましいと考えます。自治体ごとの「地域公共交通計画」策定を通じて、より便利な移動手段の確保、改善を目指すことが理想です。大切なのは線路を残すことではなく、交通を守ること。輸送モードの転換は今や、かつてのような“善後策”ではなく、経済性・利便性ともに“最善策”にもなり得ます。利用者の減少は地域住民の出した鉄道への評価です。たとえ廃線が過疎化を加速させると分かっていても、活用していないものを「残せ」と言うのは、無茶な話でしょう。
大規模災害による不通を機に、廃止の議論を始めるのが間違いとは思いません。復旧の費用対効果を見つめ、将来に必要かを考える好機です。2017年の九州北部豪雨でJR九州の日田彦山線が被災しました。私も現地を訪れましたが、代行バスの利用者は便によってゼロ。普段、鉄道を使わない人たちが感情論を振りかざし、従来通りの復旧を求めました。地元から出た利用促進策も、おざなり。JR九州は丁寧な対話の末、相当な譲歩の上にBRTでの復旧を合意しました。一方、2018年の西日本豪雨では、JR西日本の芸備線など多くの路線が甚大な被害を受けましたが、復旧初期にトップの不用意な発言もあって、条件なしに全線復旧を進める形になりました。
現状、ローカル線の多くは高校生の通学利用がメーンであり、いわゆる「交通弱者」の移動手段となっています。地方では、人口減少とともにモータリゼーションが進み、幹線道路の充実が、公共交通離れに拍車をかけました。自家用車の便利さに慣れてしまった人に鉄道利用を促すのは、簡単なことではありません。それでも、鉄道会社の現場社員らは、なんとかして自分たちの提供する輸送サービスを続けられないか、知恵を絞っています。駅に人が集まるようにしたり、自転車と乗車できるようにしたりなど、アイデアを出して挑戦しています。社員なら当然と言われるかも知れません。誰よりも、迫りくる廃線の足音に気付いているのは、確かでしょう。
線路は一度剥がしてしまうと、再び敷くのは非常に難しいものです。将来に向けて鉄道を残す決断をするのであれば、地域に、これを持続可能にする“行動”が伴わなければなりません。上下分離や3セク化など、誰が赤字の責任を負うかの議論でなく、どう鉄道を生かすかが重要です。今日まで鉄道が残ったのは幸運なこと。地域の資産として潜在力を引き出してあげなければ、もったいないでしょう。線路がつながっていれば、観光誘客に有利であることは間違いありません。地域に、何かしら人を呼べる仕掛けが作れれば、訪れる人が増え、地域の活性化が期待できます。まずは沿線地域が連携して、チャレンジしてみることが大事なのではないでしょうか。
(用語)地域公共交通計画
自治体の公共交通政策におけるマスタープラン。地域の移動ニーズを把握して将来の公共交通のあるべき姿を構想する。地域における移動手段の確保は、まちづくりや行政サービス、観光などと密接に連携する。地域が主体的に交通をデザインすべきとの考えの下、2020年の地域公共交通活性化再生法改正により、同計画を再定義し、策定を努力義務として課した。