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#7 計画運休のジレンマ

数年前、ある週末の晩。台風が接近している中、赴任先の東京から自宅のある京都まで東海道新幹線で帰りました。相当の遅れを覚悟して乗りましたが、やはり名古屋手前でホーム入線待ちの車列が詰まって滞留。深夜にはなりましたが、3時間遅れで無事到着できました。下車後、改札前で駅員さんが利用客に頭を下げて、きっぷの払戻などに対応している姿を見ると、何だか申し訳ない気持ちに。足早にIC改札を抜け、タクシー乗り場へと向かいました。たとえ悪天候でも、安全が確保できる限り、輸送サービスを提供しようと努めてくれる皆さんの献身的な仕事ぶりには頭が下がります。一方で、現場の方々に無理をさせているのではないか、と心配にもなりました。

近年、自然災害の激甚化、多発化が著しく、台風も従来と異なる規模、ルートで日本を脅かしています。比較的、悪天候に強かった陸上交通も、局地的な豪雨をはじめとする想定外の気象現象には「強靭化」が十分でありません。2014年10月、台風19号上陸に備えて、JR西日本は京阪神全線の運休を前日に予告する、大規模な「計画運休」を実施しました。想定されるリスクを鑑みて、利用者に翌日の行動変更を促すのが狙いでしたが、他社線が通常運転したこともあり、批判の声が上がりました。幾度か回を重ね、関西で社会の認識が変わったといえるのは、2018年9月の台風21号あたりからでしょうか。経験のない関東ではまだ、他人事でした。

それからひと月経たず、台風24号の直撃が見込まれて、JR東日本は国鉄時代を含めて記録がない首都圏全線の計画運休を決断します。適切な措置でしたが、半日前という事前告知のタイミングや翌朝再開時の混乱など課題も浮き彫りになりました。国交省の検証では、利用客の行動判断をサポートする情報提供のあり方が焦点となり、各鉄道事業者には、訪日客に対する多言語での対応や、可能性の段階から告知を始めるなどタイムラインの策定が求められました。必要性は認識されましたが、判断の基準は明確にできず、各社に委ねられています。レール幅の広さ、路盤の強さ、地下区間など路線の特性によって、社によって安全に運行できる限界が異なるためです。

リモートワークの普及などで「移動できない」ことに、以前ほどの反発はなくなっていると思います。ましてや災害が想定されるような場面です。無理を強要しない社会になりつつあり、公共サービスも例外ではありません。ですが、交通事業者の「動かせるのなら動かす」という使命感は、これからも本質的に変わらないでしょう。必要以上に社会影響を配慮してリスクを冒すのではなく、純粋に安全確保の視点から計画運休を判断してもらいたいです。被災回避を目的に車両を避難させる「疎開」に伴う早期運休もあり得ます。防災、減災を実現するには利用者の理解、協力が不可欠です。計画運休による社会影響は甚大ですが、すべての責任を事業者に負わせるような時代ではないとも考えます。


(余滴)西より東の方が難しい

「たとえ空振りに終わったとしてもやるべきだ」
JR西、東の両首脳は、計画運休を振り返った時、このように発言して、安全を最優先に実現するためにも計画運休を活用していく決意を示しています。「空振り」する可能性が高いのは、圧倒的に東です。日本列島を東に行くほど台風の進路や勢力は読みづらくなります。関東を直撃するような台風もこれまでは少なく、被害予測も精緻ではありません。JR東は2020年3月、前日昼前の運休計画発表を基本ルールとしましたが、天気予報をにらみながら、悩ましい判断が求められることになりそうです。


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