ゴスロリ先生 第1話 「リボンの数と後輩指導」
【あらすじ】
ゴスロリファッションで毎日学校に出勤する「私」は、体育主任に目の敵にされている。派手なファッションが気に入らないのか、服装にリボンの数が多ければ多いほど「後輩指導」という名のもとの、主任のありがたいお話が続く。
自分のファッションを貫く「私」だが、生徒や教師達から理解されたりされなかったりを繰り返し、波瀾万丈な生活を送る。
私は、高校の教師をしている。科目は社会科。
生徒からのあだ名は、「ゴスロリ先生」。
あだ名の通り、毎日ゴスロリファッションで通勤している。
頭には、リボンか、フリルのついたヘッドドレス。スカートは大きく膨らんだふわふわのレース付き。靴もカバンも、レースやフリルでいっぱいだ。
別に目立とうとして始めたファッションでもなく、小さい頃からこういう服が好きだっただけだ。学生時代は、制服のワイシャツにまで自分でレースを塗って、靴下にはリボンを付けていた。
一つ、不幸だったのは、わたしの家庭にはそのファッションで、教師として働くのは難しいと教える人がいなかったことだ。
母は花道の先生で、毎日違った着物を着ていたし、祖母は美容師だったので、オシャレが好きでヒョウ柄とゼブラ柄の服ばかり着ていた。おまけに、祖母の髪は紫とピンクだった。
いわゆる、一般的な「普通」のファッションをしている人は、我が家にはいないのだ。そもそも父は居ないし、一人っ子だ。甘やかされて育ったせいもあり、好きな服を着て注意されたことは無かった。
大学も、もちろんゴスロリで通ったが、服装で注意されたのはこのときがはじめてだった。教育実習の時だ。
教育実習は、どうやら黒ずくめのスーツで行くものらしい。フォーマルなスタイルが求められることは理解していたので、ゴシックな雰囲気の、黒いレースがついたツーピースのゴスロリファッションで実習先の学校に行った。
髪はツインテールにした。
職員室へ行き、名前や出身校を細かく言う前に、教頭先生にこう言われた。
「今すぐ着替えてきてください。黒のドレスは、ハロウィンか何かですか?実習ができるように、スーツです。放課後の部活も見れるように、ジャージも忘れないで下さい。」
そのとき、はじめてTPOに合わせて服装を変えることを知った。自分にとっては、フォーマルでシックなつもりでも、他人から見ればドレスらしい。困った。その後、急いで量販店でスーツを購入し、ついでにジャージを上下買った。
望まない黒スーツを着て、教育実習を乗り越えて、教員採用試験を合格した私は、はれて、高校教師になった。
今の学校は、勤めて3年目になる。赴任した当初は、管理職の校長や教頭、女の先輩教諭に、ゴスロリファッションの服装を変えるように、再三注意されたが、元気よく「はい!」とだけ言って、変えなかった。
望まない黒スーツは、自分を偽っているような気がして窮屈で、私にとっては働きづらかった。
ふりふり、リボン、レース、きらきら!これが私の正装だ。
貫き通したら、三年もすれば、誰も注意しなくなり、保護者からの指摘のクレームも減った。
ただ1人、体育主任の男だけが私を嫌って、毎日「後輩指導」という名目でイヤミを言ってきた。
そうなるきっかけは、夏休みの陸上指導のときだ。
マネージャーの生徒の手伝いを頼まれた私は、いつも通りのふりふりリボン。日傘をさして活動していた。ふりふりリボンが、氷嚢を作ったり、水を渡したり、タイムを計る。たしかに滑稽でふざけて見える。
しかし、そのとき、私はきちんと運動靴を履いていた。TPOをわきまえた。日傘で熱中症対策もして、よく働いてえらいだろう。本気でそう思っていた。
堪忍袋の尾が切れた体育主任は、生徒も見ている前で大声で怒鳴った。
「おまえ!どういうつもりだ!毎日毎日そんな格好で、ばかにしているのか。生徒にも示しがつかないだろう!帰れ。」
そう言われたので、気分を害したなら帰ろうと思い、そのまま帰った。
この一件以来、体育主任には嫌われている。
リボンの数が多ければ多いほど、体育主任は「後輩指導」のための長い長いお話をした。そのたびに、元気よく「はい!そうですか!」と繰り返し、やり過ごしている。
服装で人に嫌われるなんて、社会は生きづらい。なるべく体育主任とは関わらないようにしていた。
第2話 https://note.com/preview/n03b66f83cff7?prev_access_key=f9e46f05d54039d517619f09d0143496
第3話 https://note.com/tracydayo/n/n8f006859f264