DECORATOR CRAB | 飯川 雄大
デコレータークラブ – 擬態する蟹
現代美術作家、飯川雄大の作品にはデコレータークラブという名前が、いつの頃からつけられていていた。何を意味するのか長い間わからなかったのだけど、昨日大阪のGallery Nomartまで作品を実際に観に行って色々とわかった事がある。デコレータークラブとは小さなカニで、身体の周りに周囲の環境にある粒を貼り付けることで捕食者の認識を阻害するらしい。なんか光学迷彩のようだよね。飯川くんはこの存在をあいまいにする存在「デコレータークラブ」というコンセプトを繰り返し用いて、観客の美術鑑賞のあり方を揺さぶったり再定義しているんだなと自分なりに納得して観ると、作品がどれも非常に興味深く思えてきた。
今から飯川くんと私の出会いや彼の作品について、ダラダラ書きたい気分なんだが、重要なことを先に書いておこう。今おれは教員で、だからHALと大芸の学生のために重要なことは先に書く。
完成できるかわからない不安に耐えて完成させる
「5000mのロープを実際に巻き取ることができるのかやってみるまで不安で・・・」みたいな話をしていて、やっぱり同じなんだなと思った。作家活動や研究は、基本的にだれもやったことがない事を計画し完成させる必要がある。だから、絶対にできますという保証はない。けどまわりにはできますけど、って顔をして、内心は不安だったりして、それでも作業をたゆまず続けないといけない。だれもやってないから先例がない。似たことはあっても全く同じでないから、結局はやってみなければわからない。そのやってみるをタイミングよくしっかり踏み込むのがたぶん大切。これって教えるのがすごく難しいからいつも悩んでいる。せっかくだしもうちょっと不安なくらい高いレベルにできないのかなとか、なぜ今踏み込まないのかな、とか。そういう感じ。
飯川くんの作品は、先例がないことを高いレベルで計画しやりきっているので、実際に見て感じて欲しいと思う。けっこう彼は自分にできるギリギリのことをいつも計画して、なんとか実行している気がする。
展覧会の期間中、作家は会場にいるべき
飯川くんが会場にずっといて、観に来ているひとと対話を続けているのを見てすごいなと思ったんで書いておく。作家自身にとって、作品の意図や背景を説明することで気づくことがたくさんある。何よりも見たひとからのフィードバックで意図が正しく伝わったのか確認し次の作品づくりに活かせることが多い。私も先月の学会では対話デモを行い多くの研究者の方と対話ができて大いに刺激になった。もちろん、参加者にとって展示会場で実際に作家と対話し、対話を通じて作品の理解を深めるのも大切だと思う。
これは私の失敗でもあって、大学の4回の頃にやった展覧会では会場に全くおらずに先生にあとで怒られたんだよな。
だからゼミの学生には、会期中は絶対会場にいて自分の作品について対話しろって言っている。ちなみにHALは出席を取るから絶対参加になる。
そんな飯川くんの展覧会もあと一週間です。
展覧会名 DECORATOR CRAB 飯川 雄大
会 場 Gallery Nomart
会 期 ~2024.10.19 今週の土曜日まで
学生のみなさんは、現代美術作家、飯川雄大のデコレータークラブという作品の展覧会を観ることで自身の作品づくりへの取り組みが必ず変わってくると、その意義を私は感じています。
ぜひ彼の作品に触れてみてください。あと、「猫の小林さん」と私は無関係です。一応念の為。
以下は忘備録
Gallery Nomart
ギャラリーノマルは大阪城の東側、JRの放出駅と深江橋駅の間くらいにある。飯川くんとは、2000年代なかばの頃に知人の谷さんの紹介でフリーの映像作家として知り合った。(と思っていたら、飯川くんから、実はその数年前、しかもこのギャラリーノマルで開催されたイベントで初めて出会っていたことを突然告白された。え~っ、知らんかった。憶えていない。多分この頃かなぁ。)
BEMANI時代
最初、彼に音楽ゲームのムービーを手伝ってもらった。今思い出すと、デコレータークラブの萌芽を感じさせるような風景映像だった気がする。しかしゲームっぽいとはいえない作品で、ゲームっぽく見せるために編集で少し苦労したかもしれない。けどこういうのもギタドラにはイイかなと思ってコナミへの中途入社を誘ったところ、彼は少し戸惑いながらも応じてくれた。
当時はまだ、スタッフがニックネームでクレジットされていた時代で、彼は”おししいチャイ”という名前で活躍してくれた。ミーティングルームのテーブルを卓球台にしたり、一般的なゲーム会社のスタッフとはちょっと違う発想が評価はされていたんだけど、やがて作家活動に注力したいという思いが強まってきて退社を決意したと記憶している。それ以来会っていないのだから、今回会うのはだいたい15年ぶりになった。
ピンクの猫の小林さん
辞めてから数年が経った2016年、六甲山で発表されたデコレータークラブの作品で、初めて「猫の小林さん」が立体物のモチーフとして使われた。私はわりかし六甲山の近所に住んでいるので、どこかでこの広告を見てこのときピンクの蛍光色がとても印象的だったのを憶えています。(飯川くんは広告でこういう取り上げられ方は本意ではなく、偶然出会って驚いてほしいという意図で制作していると今回始めて知った。)
その後、この猫の小林さんというインスタレーション的な建築的な構造物による展示は各地で行われ、空色だったり蛍光イエローだったりしたが、結局蛍光ピンクに落ち着いているようだ。
彼の話からは、仙台の森に超巨大な「猫の小林さん」を展示する計画に何年も携わっていたが、公共での巨大なアートを展示することについてはまだ制約が大きく今回はその実現には至らなかったとか。代わりに、自身の作品集が完成したとのことでした。写真がその顛末の報告書的を兼ねた画集。
今回、実際に彼の作品を見て、コンセプトをある程度理解し、その上で再度作品に触れてみることで私なりにそのクオリティの高さに感銘を受けた。15年前に一緒に働いていた頃がちょうどこのデコレータークラブが始まった頃だったことを今回初めて知った。当時は彼の作家活動にあまり興味を示すことができず、その後もあまり熱心な観客でもなかった。それが何の偶然か今回しっかりと観ることができて本当に良かったと思う。
今回の展覧会て思ったのは、やはりプロの作家の作品の質を学生たちに見て欲しいということです。思考や構想を練ることはもちろん重要だが、作品として完成させる精度や気迫を実感して欲しいと強く感じました。やっぱ全然違いますね。
もっと飯川雄大の作品が見たい
飯川くんの作品は展示会場が重要で、ギャラリーノマルは今回の作品も会場を活かしておりとても良いギャラリーですが、デコレータークラブの全容を示すには少し狭いと感じました。そろそろ彼の主要な作品をまとめた展覧会がどこかで開催されるのではないかと期待しています。それは日本ではなく、アジアのどこかかもしれません。
あと、会場について思うこととして、私の知り合いで現代美術作家って他には落合くんしかいないんですが、彼も展示場所との共創に力を入れた作品が多いと思うんですよね。なんか日本各地に定期的な展示場所があるようなのでこういうのは参考になるんじゃないかなと一瞬思いました。
必ずしも多くのひとに見てもらうことを目指しているわけではないのもわかるんですが、デコレータークラブの作品をまるっと全部いっぺんに見る機会があるとすごいんじゃないかなと思っています。というか画集を見ていて現物観てーなって思ってます。
蛇足シンクロニシティ
あと、たまたま午前中、ゲームビジュアルの授業で学生に色彩の基礎を教えていた際、教えることで自身の中に湧き上がっていた蛍光ピンクへの熱い思いがあって、家に帰ってChatGPTにエッセイをまとめてもらったことが、飯川くんの作品に使用されている蛍光ピンクの色について考えるきっかけに偶然なったのでまとめておきました。
表面的にそれっぽいことを書くだけなら十分使えるんだよな。AIって。