見出し画像

現代のUIデザイナーが、100年前に始まるモダニズムから学ぶこと

夙川(兵庫県西宮市)にある大谷記念美術館で「戦後西ドイツのグラフィックデザイン」が開催されている。同時に四条烏丸(京都市)のdddギャラリーでは「アイデンティティシステム 1945年以降 西ドイツのリブランディング」が開催されている。この2つの展覧会はドイツを拠点とするA5コレクション デュッセルドルフの企画・作品提供によるもので、テーマや時代背景が近接している双子の展覧会です。(上記展覧会ポスターの共通性参照)
私はデザインを学ぶ学生に、ぜひこの2つの展覧会を観に行って欲しいので紹介します。

この展覧会のちょっとややこしい構造を先に簡単に説明します。
モダニズムという100年くらい前のデザインムーブメントが、80年~50年前に再度復興したという2重の構造になっています。戦後、1945年以降、というのは同じ意味です。第二次世界大戦の終戦が1945年ですからね。従って、2つの展覧会は「戦後の西ドイツのグラフィックデザインを回顧する中で、戦前のドイツにルーツのあるモダニズム運動の価値を再考する」という共通の仕組みがあります。


この2重構造というのがポイントです。そして私はこれを「3重構造に拡張することが可能」だから見に行く価値が高いと考えています。


説明します。
まずだいたい100年くらい前にモダニズムという芸術デザイン活動が20世紀の初頭にヨーロッパで起こりました。急速な機会工業化が急速に進む社会の中で、大量生産される製品が手工業で作られていたものと変わらないくらいに機能的であり、同時に生活の中で人間にとって好ましい美しさを持つことを目指した活動でした。伝統的な手工業による過度な装飾を廃する視点もあり「形式は機能に従う」(Form follows function)といった理念を掲げていたことも象徴的です。

この"機能"というものを考えるとき、誰にとっての機能かという問いが生まれ、結果的にユーザーという存在を抜きにしては考えることができません。今日の人間中心主義のデザインのルーツを考えるときに、モダニズムは重要なキーワードになります。

さて、2010年前後以降、世界はスマートフォンの爆発的な普及によって人間社会のデジタル化が急速に進みました。これは100年前の機械工業社会化と同じかそれ以上の大きな変化です。この変化の中で従来の物質的なデザインがデジタルなデザインへ急速に大きく変わりました。わかりやすく表面的に言うとポスターがサイネージになったりとかですが、本質はもっと内部の情報構造に関わっています。そして現在は生成AIの普及という追加のできごとがあり、さらに社会が大きく変化して行く渦中となります。

MacLifeより引用(https://www.maclife.de/news/infografik-evolution-ios-ios-1-bis-ios-8-10058343.html)

ここでAppleが2013年にiOS7でに導入したスキューモフィズムからフラットデザインへの変化を思い出してみましょう。スキューモフィズムはアプリが実現するサービスの具体的な外観を模したアイコンが使われていました。時計は立体的な時計。メモ帳はメモ帳そのもの。ボタンは立体的で押せそうな表現。しかしフラットデザインによってこれらはアブストラクト(抽象的な)な図形とシンプルなフォント、グリッドに沿ったデザインへ大きく変わったのです。そしてこの“フラットデザイン”は、モダニズムの影響を直接的に受けて成立したスイススタイル(1940~1950)に強い影響を受けていると言われています。

私が本展覧会を鑑賞する視点を3重構造に拡張しては、と思ったきっかけはこのようにフラットデザインのルーツもまたモダニズムにある点からなのです。戦後30年間の高度成長期に再びモダニズムが花開いたように、デジタル革命の今でも、モダニズムの視点は普遍的な価値を有しているのではないかと私は考えます。


いいなと思ったら応援しよう!