“現金バラマキ”に、広告は負けるの?
昨年のPayPay100億円キャンペーンに続いて、ZOZO前澤社長の1億円バラマキ企画が話題になったことで、「広告を出すより、ユーザーに直接現金を配ったほうが効率いいんじゃない?」という話を、あちらこちらで見かけるようになりました。
この件、皆さんはどう思いますか?
なんだかモヤモヤするので、自分の頭の中を整理するためにも、noteにまとめてみることにしました。
■モヤモヤの原因
現金バラマキ施策によって得られる効果としては、以下の3つが考えられます。
①バズる(知名度が上がる)
②人が動く(来店や購入)
③フォロワーが増える
で、この3つをごちゃ混ぜにしたままいろんな人が議論しているために、なんだか議論が噛み合わないし、モヤモヤするのです。
ここでは、この3つを分けながら、順番に考えたいと思います。
■「現金バラマキは、バズる」の本質
まずは、「バズる」について。
「現金バラマキは、バズる。だから広告より現金バラマキがいい!」みたいな意見もありますが、この話の本質って、「SNSの登場で、“話題性があれば” 広告を使わずとも、情報が拡散しやすくなった」ということにあるのではないでしょうか。
そして、この “話題性” の作り方のひとつとして、「現金をばらまく(大金をばらまく)」という手法があるだけの話だと思います。
そう考えると、「SNS時代にどうやって世の中の話題を喚起するか」みたいな話は、もう何年も前から広告業界で議論されていることなので、特に目新しい議題ではないのです。
一昔前にバズムービーのようなものがもてはやされた時代もありましたが、今の広告業界はむしろ、「バズったらそれでいいの? 話題になったら商品が売れるの? ファンが増えるの?」ということのほうに関心があるように思えます。
だから、「広告よりも現金バラマキのほうがバズる」と言われても、「で?」っていう状態なのだと思います。
たとえば “炎上” という手段でも知名度は上がるわけなので、単に知名度を上げるのではなく、どういうイメージとともに知名度を上げるかが重要なのです。
「お金配りますよー、だからフォローしてください」で、ブランドイメージが傷つかないかどうかは、冷静に見極める必要があると思います。
それと、もうひとつ。
現金をばらまけば必ずバズるわけじゃありません。
前澤社長は、もともと50万人ほどのフォロワーがいて、メディアも何かと注目している人物で、バスキアや月旅行など、普通の人の想像を超えるお金の使い方をしていて、今度は個人のお金を1億円もばらまいた。そういう文脈があってこそ、あそこまでバズったのだと思います。
PayPayにしても、「総額100億円」というとんでもない金額を用意できたからこそバズったわけで、あれが「総額1億円」だったら、あれほどバズらなかったでしょう。
このハードルを超えられる企業って限られますよね。
■LTVという視点
続いて、「人が動く」について。
来店や商品の購入を促進するために現金をばらまこうとすると、景表法が絡んできます。
景品表示法上、商品・サービスの利用者や、来店者を対象として金品等を提供する場合は、「取引に付随」して提供するものとみなされ、景品規制の適用対象となります。
http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/
景品規制の適用対象になると、当然ですが、それほどインパクトのある大金をばらまくことはできません。
じゃあどうするかというと、PayPayのように「値引き」という手段を取ることになります。
つまり、今話題になっている「現金バラマキ」は、突き詰めれば、前澤社長が行ったような、いわゆる「オープン懸賞」にするか、PayPayのように「値引き」にするか、という話になります。
どちらも、特に新しい手法ではありません。その金額にインパクトがあった、ということなのです。
そうなると、人を動かすためには「値引き」が有効か、「広告」が有効かという話になります。「値引きの是非」は、もう何十年も議論されていると思いますが…。
値引きの是非を議論するためには、瞬間的に人が動くかどうかではなく、LTV(ライフタイムバリュー)という視点が欠かせんません。
つまり、「値引き」で購入してくれた客が、次に通常価格でもリピートしてくれるかどうかということです。
「一度でも商品を試してもらえれば、その良さを必ず実感してもらえる」という商品力があるのであれば、「値引き」という手段も有効です。しかし、値引き期間が終了した途端にユーザーが離れてしまうようでは、意味がありません。
「広告を出すより値引きしたほうが人が動く」というのはある意味正しいのですが、このLTVという視点を持たずにそう言ってのけるのは、商売としてあまりに危険だと思います。
■フォロワーの数に意味はあるのか?
最後に、「フォロワーが増える」についてですが、「現金をばらまくのと、広告を出すの、どっちがフォロワー増える?」とかって、議論する意味がありますかね。。
前澤社長がフォロワーを増やすためにあれをやったのかどうかはわからないので、あのバラマキ企画の是非をここで議論するつもりはありません。
ただ、現金を目当てにフォローしたユーザーと、広告のメッセージに共感してフォローしたユーザーの性質の違いを無視して、獲得単価で比較するなど、あまりにナンセンスだと思います。
■さいごに
もちろん、広告が万能なわけではありません。
「これなら現金をばらまいたほうがいいのでは…」と思ってしまう広告があるのも事実でしょう。
結局、大切なのは、どんな課題を解決したいかです。
課題解決の手段として広告のほうが適していることもあれば、現金バラマキのほうが適していることもあります。
ただし、もし現金バラマキを選択するのであれば、それにどのようなリスクが伴うのかを理解し、瞬間的な「数」だけでなく、中長期的な「質」にも目を向けるべきでしょう。
広告を選ぶにしても、本当にそれが課題解決の手段として現金バラマキより効果的なのかは考える必要があります。それに、課題解決の手段は、「広告か現金バラマキか」の二択ではないことも忘れちゃいけません。
いずれにしても、こういう議論なしに、「広告を出すなら現金ばらまいたほうがいい」とか「広告は終わった」みたいな意見が蔓延するのは、少し怖いなぁという気がしてなりません。