不妊治療はやはりセンシティブである
基本的に私は、不妊治療については家族とごく一部の友人、鍼灸や整体の方にしか話しておらず、
あとは不妊治療に特化し投稿ルール等も管理されている匿名のコミュニティを利用していた。
それはやはり不妊治療がかなりセンシティブな治療であること、治療の成功は妊娠となるため治療者同士でもお互いに気を遣うからである。
ただ、たまたまとある対面サービスの担当の方も人工授精を始めたタイミングが同じであったことがわかり、
あまり話に踏み込まないよう留意しつつ進捗などは話していた。
1~2ヶ月空けばどのような状況になっているかわからないので、毎回その場所に足を向ける時はそれなりに気持ちを引き締めていた。
お互いに治療の経過はいろいろとあり、結果的に現時点で私は妊娠しているのだが、この状況もやはり気は遣う。
前回に比べてつわりも落ち着いた先日、いつものように進捗を聞かれたためあともう少しで安定期という話はした。
ただ、やはり出産まで何があるかわからないため不安は続くことを前面に、マタハイとは対極のようなテンションで控えめに話したつもりだ。
先方は秋に体外受精に移行し、採卵数・凍結結果ともによかったようだ。
私は素直によかったと思いながら話を聞いていた。
正直私は自分の凍結結果については他人に触れられたくない。
なぜかというと、グレードがよい胚盤胞が少なく施設の凍結基準が高かったこともあって、採卵数の割にという結果だったからだ。
先生にも聞いたが原因もよくわからない。次回採卵があれば培養の方を工夫すると言われた。
不妊治療をしていて最も落ち込み、何週間も悩んだ。
今なら体外受精はそんなものだよと思えるけれど、当時は移植を前に心の余裕が持てなかった。きっとまた採卵だなと落胆した。
できれば第二子のために今の年齢で複数胚残せたらという希望も難しくなった。移植ではなく貯卵ができればよいのにと何度も思った。
とはいえ凍結できた胚はあったので比較的ポジティブに受け止めた夫とも気持ちのすれ違いがあった。
友人や鍼灸の方に寄り添ってもらって、あえて治療を休憩したりして、なんとか移植に向けて前向きに整えた。
貴重な胚の一つを移植し、まずはここまでこれて、少しずつ安堵感も生まれ、ようやく少し傷が癒え始めたような状況だった。
が、その傷をえぐられてしまった。まさか、である。
話の流れで私はどうだったのかと聞かれた。〇個中〇個の凍結と事実をそのまま答えた。凍結基準に到達できず破棄となった胚盤胞もあったことも伝えた。
それも含めると正直あまり先方とも数は変わらない印象だ。
にもかかわらず、何度もたった〇個ですか?!と驚きをもって言及された。
正直キツイ。それは当時私も思ったし、私が一番なぜか知りたい、今でも。
それを他人に言われるとは。それを言っていいのは私だけだろう。
そしてそのうちの1個は順調に目の前のお腹の中で成長しているにも関わらず、失礼ではないだろうか。
心臓の拍数が上がるのを感じた。
年齢こそほとんど一緒だが、クリニックも違う、卵巣刺激法や培養技術も違うだろう。先方は全例顕微・良好胚以外も凍結、私はSplit・良好胚のみ凍結。それも違う。
数やグレードだけ比較しても何も意味がない世界。そもそも染色体異常の有無はグレードではわからない。
仮にたった1つしか胚盤胞がなくても、無事に出生につながればそれ以上のことはないのだ。
私は当時誰かと比べて落ち込んだのではない。採卵数の割には凍結ができなかった事実に落ち込んでいた。
比べていたとしたら統計として出ている採卵数に対する平均凍結数だろう。
しかし今回初めて他人の結果と比べられた。それも今になって。
仮にも客として利用しているサービスで、このような不快な思いをするとは思ってもいなかった。
だから私は対面では不妊治療の話をしたくなかったのに。
よくよく話を聞いていると、先方は保険診療での移植回数が決められていることも、
なぜ自分が全例顕微になったかも、知らない様子だった。
私は仕事が医療関係ということもあり、不妊治療をするにあたり治療内容については自分なりに相当勉強した。時には学会抄録や医学論文も読んだ。
それでも治療の中で一喜一憂することがあったし、知らないこともたくさんあった。
そういった治療経験を元に、あくまでこちらは聞かれたことを淡々と事実ベースで答えていただけである。
何か癪に障ったんだろうか?とも思った。
でも今の状況で可能な限り気を遣っていたつもりで、これ以上私もどうしようもない。
やはり不妊治療はセンシティブなのだ。そう痛感した。
そしてもう二度と、治療の話を家族や友人以外に話したくないと思った。
そもそも私は、不妊治療のしんどさや仕事との両立の難しさを経験し、この経験を一過性のものにしたくないと感じ、
子ども家庭庁主催の不妊症・不育症ピアサポーター等の養成研修の受講を進めている。
治療をしたからこそわかる辛さに寄り添いたいという気持ちが強い。
そういったこともあり、今回の経験は衝撃的だった。きっとたくさんの人がこういった経験をし、傷付いているんだと思う。
子どもが無事に産まれたあとも、発育は子どもによって違うし比べても仕方ない。
けれどこれからもこういうことはあるだろう。意図しないタイミングで。
でも私は誰かを傷付けることも自分が傷付けられることも経験したくない。
どうか挙児を希望する全ての方の願いが一つでも多く叶って欲しい。
そして治療中は他者と比べることなく、心身の健やかさを大切に過ごして欲しい。
もし不安や辛さを感じているのであれば、安心して心の内を話せる場所が見つかって欲しい。そう願って止まない。
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