若者が緩和ケアに携わっても良いですか?
緩和ケアに興味がある。緩和ケアとは,大まかにいえば
「がんの終末期などで全身状態が悪くなった患者さんに対し,(全人的)苦痛の緩和および心理的・社会的サポートなどを施すこと」
を指す。医師や看護師はもちろんのこと,薬剤師・栄養士・MSW(メディカル・ソーシャルワーカー)・臨床/公認心理士など様々な職種が関与する。私は将来医師として医療に従事する予定であるが,緩和ケアは医師人生の序盤を捧げる分野として適切なのか。
この疑問を持ったのは,多くの緩和ケア病棟や緩和ケアチームにおける実習で出会った医療従事者の方々の平均年齢が,他の病棟やチームと比べて高いことである。医師であれば他の(より過酷な労働が求められる)診療科を経て緩和ケア専属となっていたり,看護師であれば既に一般病棟で数十年勤続しているベテランが勤務していたりする。もちろん残された時間が短いと宣告された患者さんやその家族にとって,より心強いのは人生経験の豊富なスタッフかもしれない。しかし実際にチームの方々にお話を伺ってよく耳にするのは,「若いころと考え方が変わった」という意見である。
たとえば医師A,かつては外科医としてバリバリ手術をこなしており,手術こそが正義であると考えていた。しかし術後疼痛に苦しむ人々とその家族を多く見たことや時代の潮流の変化を感じたことから,緩和ケアに携わると決意したとのこと。
また看護・介護の業界において,一般的に「緩和ケア病棟」の離職率は非常に高いらしい。やはり自分が誠心誠意尽くした患者さんたちが毎日のように亡くなっていく現場は,心理的に消耗するのだろう。
弁明しておきたいのだが,私がそういった感情を持っていない(いわゆる「サイコパス」な)わけではない。祖父を亡くした後は,楽しかった記憶を何年も思い出して涙した。実習で配属されたチームの患者さんが治療の甲斐なく亡くなった際は,自分は全く治療に関わっていなかったにも関わらず一週間落ち込んだ。逆にこんな人間に緩和ケアの業務が勤まるのかと自分でも思うが,それに強く惹かれるのには理由がある。
まず「死」だけは全ての人間に訪れるということ。「脳卒中」「悪性腫瘍」「狭心症」「精神疾患」「糖尿病(耐糖能異常)」「慢性腎臓病」……,この世にはかなりの割合の人間が罹患し,場合によっては大ダメージを与える疾患は多く存在する。しかし全人類がこれらに罹患するかと言えばそうではない。しかし「死」という現象および「死期・死が近づいている状況」は全人類が経験する。だからこそ,せっかく医療者になるのであれば「死」にまつわる事象は勉強しておきたいのだ。
むろん他の領域でバリバリ働いて,医師人生の中盤以降で緩和ケアに従事するのも良いだろう。実際,現在緩和ケアに従事する医師の多くはそういった経歴をたどってきているはずだ。それでは,適切なタイミングとはいつなのか。私にとっても死はいつ訪れるか分からないものだ。緩和ケアを志しておきながらそのタイミングを逃し自分が緩和ケアチームのお世話になる,といった可能性も十分にある。
そう考えると私は医師免許を獲得して臨床研修を終えたらなるべく早く,緩和ケアを経験したい。
もし自分の家族や自分自身に緩和ケアの必要性が生じた際,若手の医師が担当となったらイヤだろうか。自分の場合はそう感じない(と思う,実際その状況になってみないと分からないが)が,あなたはどうだろうか。
できるだけ多くの人に聞いてみたい。そして自分の意志が社会的なモラルに反しないものであると分かれば,このまま進みたい。もし間違っているのであれば早めに軌道修正したい。
RPGでも人生でも,引き返すのは早ければ早いほどいいから。