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リーダー論 絜矩の道(大学伝十章)

毎朝、協会の有志者と共に大学を読んでいる。
最後の伝十章は、リーダー達に向けて倫理の根本が知るされている、
今から2500年前に書かれたこの理論。
今読んでも新鮮であり、決して色あせたものではない。

ご存じの通り、儒教は春秋戦国時代に孔子が提唱した哲理だ。
つまり、平和期に誕生したものではなく、明日どうなるか分からない時代に提唱された哲理だ。

同じような令和の大激動期の今だからこそ、
古の人達がいかにして人間社会を考え、
どう唱えたのか、
そのリーダー論を大学伝十章を通して考えてみたいと思う。

リーダーとしての基本概念 絜矩の道

大学 伝十章
所謂 天下を平かにするは其の國を治むるに在りとは、上老を老として民孝に興り、上長を長として民弟に興り、上孤を恤(あわれ)みて民倍(そむ)かず。是を以て君子には絜矩(けっく)の道有るなり。
上に惡む所、以て下を使う毋かれ。下に惡む所、以て上に事うる毋かれ。前に惡む所、以て後に先だつ毋かれ。後に惡む所、以て前に從毋かれ。右に惡む所、以て左に交わる毋かれ。左に惡む所、以て右に交わる毋かれ。此を之れ絜矩の道と謂う。

トップに立つ人間が、高齢者を敬えば、
それに従う人たちも、自然に親孝行をするようになる。

目上の者を敬う姿勢をみせれば、
彼らもそれを見習い、
目上である、
リーダーであるあなたを、
敬うようになるだろう。
親のない子を大事にすれば、
思いやりの文化が構築される。

リーダーに必要なのは「他人を思いやる」気持ちを持つこと。
それを、絜矩の道という。


絜矩の道とは


上司のやることに不満を感じたら、
なぜそれが不満なのか、自分の気持ちを反芻し、
部下が同じ気持ちにならないように、
意識することが大切だ。

部下のやることに不満を感じたら、
なぜそれが不満なのか、自分の気持ちを解析し、
同じやり方で上司に仕えてはならない。

前任者のやり方にストレスを感じたら、
その原因は何かと考察し、
そのストレスを後任者に感じさせてはならない。

後継者のやることに不満を感じたら、
自分の前任者もさぞかし、自分に対し、
不満を感じたのではないかと推し量り、
その行動を改めなければならない。

右隣の同僚にストレスを感じたら、
なぜストレスに感じたのか推し量り、
それと同じことを左隣の同僚にしてはいけない。

この人にされたことを、
自分の気持ちを通して推し量り、
相手の気持ちを考えること、
それが「絜矩の道」だ。

絜矩とは、物を測る定規のこと。
つまり、相手にされたことの原因を計測し、
自分の心の道徳的規範を作り、
冷静な行動規範を持つことが大切なのだ。
一時の感情で歪曲してはならない。


詩に云う、樂しき君子は、民の父母、と。民の好む所は之を好み、民の惡む所は之を惡む。此を之れ民の父母と謂う。詩に云う、節たる彼の南山は、維れ石巖巖たり。赫赫たる師尹は、民具に爾を瞻る、と。國を有つ者は、以て愼まざる可からず。辟れば則ち天下の僇と爲る。詩に云う、殷の未だ師を喪わざりしや、克く上帝に配す。儀しく殷に監るべし、峻命は易からず、と。衆を得るれば則ち國を得、衆を失えば則ち國を失うを道う。是の故に君子は先ず德を愼む。德有れば此に人有り。人有れば此に土有り。土有れば此に財有り。財有れば此に用有り。德は本なり、財は末なり。本を外にし末を內にすれば、民を爭わしめて奪を施く。是の故に財聚まれば、則ち民散ず。財散ずれば、則ち民聚まる。是の故に言悖りて出ずる者は、亦悖りて入る。貨悖りて入る者は、亦悖りて出ず。

組織論

政治は、利益を目的としたものではなく、
民の幸せを維持することを目的としている。
そのため、国民が何を望んでいるのか、
そして何に苦しんでいるのかを把握して、
国民の願いに沿った施策を展開することが大切である。

人は他者と結合することで、組織形成が始まる。
そして、人は組織の生き物であり、
単独で生きていくことが出来ないほど、
弱い生き物であるのだ。
幾ら便利な世の中になっても…。

そういう意味では、夫婦は集団の最小単位であり、
家族、地域、組織、国と規模が大きくなるに従い、
複雑化されるように見えるが、
基本概念はひとつ、絜矩の道である。

組織が大きくなり、
高い権力を手にすればする程、
社員と経営陣の間には距離が生じ、
社員はトップが何を考えているのか、
仰ぎ見るしかない。
だからこそ、逆に、
経営陣が社員の気持ちに敏感になることは大切であり、
必要でもあるのだ。

かの殷王朝ですら、
たった一人のトップが民の気持ちを無視して、
自分勝手な政治を行ったことで、
500年も続いた王朝を滅ぼしてしまった。

故に、リーダーにとって最も必要なことは、
絜矩の道を実践できる人間になることだ。
つまり、徳を積むことが基本中の基本になる。

人徳者は、社員の支持を得ることができる。
人の気持ちを把握できれば、
人を動かすことができるのだ。

それにより、安定した組織力を用いた、
新規事業を展開することも可能になり、
自然に財政も安定する。
財政基盤が安定すれば、
社員の能力や技術の向上を図ることが可能になり、
収益率も良くなり、安定した組織運営を創出するという、
エコシステムが確立する。

事業を活性化するには、
まずは収益を上げなければ…と思うかもしれないが、

この基本的項目を無視して、
利益獲得ばかりに眼を向けると、
社員はお互いをライバル視し、奪い合い、
顧客の気持ちを無視した営業を行い、
そして、顧客から背を向けられる。

リーダーが収益性ばかりに眼を向け、
利益を独占すれば、
社員の生活は成り立たなくなり、
心が離れ、離散する。

逆に、リーダーが社員のためにと財を投じれば、
そこに自然に人材は集まってくる。

しかし、せっかく集めた人材に、
徳を欠いた発言を1回でもしようものなら、
一瞬の内に忠誠心は離散する。

上に立つ者が人徳の欠いた発言をすると、
社員からも同じような言葉しか返ってこない。

上に立つ者が、利益追求型の仕事をすれば、
下の者も同じような方法で行い、
いずれは上の者の収益も奪おうとするだろう。

康誥に曰く、惟れ命は常に于てせず、と。善なれば則ち之を得、不善なれば則ち之を失うを道う。
楚書に曰く、楚國は以て寶と爲す無きも、惟善以て寶と爲す、と。舅犯曰く、亡人は以て寶と爲す無きも、親しきを仁しむを以て寶と爲す、と。
秦誓に曰く、若し一个の臣有り、斷斷兮として他技無きも、其の心は休休焉として、其れ容るる有るが如し。人の技有るは、己之を有するが若く、人の彥聖なるは、其の心之を好む。啻に其の口より出すが若きのみにあらず、寔に能く之を容れ、以て能く我が子孫を保んじ、黎民も尚亦利有らんかな。人の技有るは、媢疾して以て之を惡み、人の彥聖なるは、之に違いて通ぜざら俾む。寔に容るる能わず、以て我が子孫を保んずる能わず、黎民も亦曰に殆いかな、と。
唯仁人は之を放流し、諸を四夷に迸け、與に中國を同じくせず。此を唯仁人のみ能く人を愛し能く人を惡むことを爲すと謂う。

眞に優秀な人材とは

「楚書」にはこんな言葉がある。

我が国にとっての財とは、徳のある優れた人物だ。

ITの進化による大激動期、
来年は何が起こるか分からない。
今、あなたの生活を支えている仕事に、
イノベーションが起きると、
明日にはあなたが永年培った技術が
必要でなくなってしまう場合もあるだろう。

このような時代、確かな財とは人徳しかない。

例えばここに、ある部下がいる。
彼は、まじめに仕事をする以外に何の取り柄もないが、
心が寛容であり、多くの事を受け入れる包容力がある。
同僚が高く評価されると、自分の事のように喜び、
自分より優れた能力のある者を、
心の底から祝福できる。
しかも単に、「凄い!」と口に出していうだけでなく、
その能力を引き立てて、
会社全体の業績をあげようとする。
このような人物こそが、国(会社)を
安泰に導いてくる逸材なのである。

逆に、ある部下は学歴も優秀で能力も高いが、
自分より能力の高い同僚や部下を妬んで遠ざけ、
自分より良い仕事をする者の足を引っ張り、
事業の妨げをする了見の狭い人間である。

いくら本人が優秀であっても、
それは国(会社)全体にとって有害な存在であるのだ。

なぜかというと、
我々の社会活動は必ず他者との共存による繁栄という
システムの上で成り立っているからだ。

故に、如何に個が優れていても、
他者との関係構築が優れていないと、逸材とは評せない。
逸材とは何か。
それは絜矩の道の実践者だ。

しかし、この二者を判断し、
登用するか左遷するかを決められるのは、
リーダー自身が有徳者でなければ出来ない。

つまり、リーダー自身に人徳がない限り、
この二者を、見分けることも、
コントロールすることも出来ないのだ。

賢を見て舉ぐる能わず、舉げて先んずる能わざるは、命(おこたり)なり。不善を見て退くる能わず、退けて遠ざくる能わざるは、過なり。人の惡む所を好み、人の好む所を惡むは、是を人の性に拂うと謂う。菑必ず夫の身に逮ぶ。是の故に君子に大道有り。必ず忠信以て之を得、驕泰以て之を失う。

学歴だけで人材を選んでも、
それは優秀な人材を獲得したとは言えない。

本当に優秀な人間とは、「絜矩の道」を実践できる人物だ。

しかし、経営者自身が「絜矩の道」を実践できる人物でない限り、
相手を見抜くことができない。

例え採用できても、永続きさせることが出来ない。
これはリーダー自身が人間性を磨いていないからだ。

社内の人望がなくても、
自分とはウマが合うから、業績を上げる人物だからといって登用する。

業績が低いという理由で、人望のある者を遠ざけると、
一時期は良いように見えても、
その影響はいつの日か、経営に影響をしてくるものだ。

故に、無用論というのがあり、
華やかな業績がなく、パッとしない人物であっても、
社員に慕われる人徳者であれば、
無用な人材のように見えるが、有用な人材なのである。

しかし、そのことは、社長自身が有徳者でない限り、
気づきにくい事でもある。

リーダーの守るべき原則


リーダーには守るべき原則がある。
社員の希望や意向を無視し、
自分の好き嫌いで判断することを、「傲慢」という。
一度「傲慢」な気持ちが生じると、
これは社内全体に伝播し、顧客からみても、傲慢な会社だと判断され、世間の支持を失ってしまうのだ。
故に、会社全体が「絜矩の道」の実践を目指し、
企業体質を健全なものにしていく必要があるようだ。

利益を生じる大原則

財を生ずるに大道有り。之を生ずる者衆く、之を食う者寡く、之を爲る者疾く、之を用うる者舒かなれば、則ち財恒に足る。仁者は財を以て身を發し、不仁者は身を以て財を發す。未だ上仁を好みて、下義を好まざる者有らざるなり。未だ義を好みて、其の事終らざる者有らざるなり。未だ府庫の財其の財に非ざる者有らざるなり。孟獻子曰く、馬乘を畜うものは、雞豚を察せず。伐冰の家は、牛羊を畜わず。百乘の家は、聚斂の臣を畜わず。其の聚斂の臣有らんよりは、寧ろ盜臣有れ、と。此は國は利を以て利と爲さず、義を以て利と爲すを謂うなり。國家に長として財用を務むる者は、必ず小人に自る。彼を之を善しと爲して、小人を之れ使いて國家を爲むれば、菑害並びに至り、善者有りと雖も、亦之を如何ともする無し。此は國は利を以て利と爲さず、義を以て利と爲すを謂うなり。

会社の利益収益率をあげるにはどうすれば良いのか。

答えは単純明快だ。つまり、

利益を生み出す社員を、数多く育成し、
余計な経費を圧縮することだ。

それでは、収益の悪い会社は何かというと、
利益を生み出さない社員が多く、
余計な経費が嵩むことだ。

このような場合、
人徳のない経営者は、利益目標をあげ、
収益力を高めようとする。
すると、利益に執着する人たちが残り、
高い給料を出す他社に転職したりと、
いずれは破綻するだろう。

人徳のある経営者は、人材育成に予算を投じ、
社員から支持されながら業績をあげようとする。
その為には、上に立つ者が、
誰が見ていなくても陰徳を積むような人徳者であることが大切で、
そのような指導者の下にいる者は、忠義の気持ちを自然に抱き、
心が離れていかないものである。

安定した業績を維持するには、
高い能力を有した社員を、安定して雇用することであり、
それが出来れば、資産は自然に構築されるのである。
高い能力とは、IT社会の時代、今までの学校教育で培った知識がこれからどの位役に立つか。
今一度、高い能力について考えてみることが大切だ。

国家と企業 官と民は利を争わず

孟献子という賢人は言っている。

「運転手付きのベンツで移動している人は、ワゴンカーでお弁当を売ろうとしている人たちと、利を争ってはならない。」

四頭立ての馬車が持てるような家では、
既にそれだけの財産があるのだから、鶏や豚などを飼う小商いをして、
それで生活をしている人たちと利を争ってはならない。

祭祀に際して、食べ物の保存のための氷が下賜されるような特権階級の人間が、牛や羊を飼った商売をして、
それで生活をしている人たちの利を侵してはならない。

何億円も売り上げのある大企業は、
国民から税金を絞りとる政策を提唱している議員に
政治献金をしてはならない。

つまり、これらの行動は、
相手の気持ちになって考えた行動ではないからだ。

この伝10章は、国を治め天下を安定させる方法だ。

最後に朱子が提唱していることは、
「官」は「民」と争うな。
「大」は「小」と争うな。という事である。

確かに、巨大な力を有するGAFAが小さな商いまで網羅してしまうと、個人の安泰はあるか、そして、国そのものの安泰、世界の安泰はあるだろうか。

巨大な企業が手を出してはいけない分野がある。
そこに手を出してしまうと、
民は貧しくなり、
国全体が貧しくなり、
世界が貧しくなり、
結局は企業そのものの利益には繋がらない。

真の平和とは何か。

「絜矩の道の実践」は、
これからの時代のキーワードだと私は思う。

※以上、大学を今の時代のメッセージの形で訳してみました。

一般社団法人 数理暦学協会
山脇史端


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