イベント感想[METACITY]

1月18日、19日と幕張メッセで開催されているMETACITYに行ってきた。
METACITYのコンセプトや概要などは公式サイトにあるのでそちらを参照してもらいたいのだが、アートとしてのコンテクストや建築としてのコンテクストを重要視してインスタレーションを作っていそうな印象を受け、興味を持った次第だ。
個人としてはメインのゲストであるOuchhhについては事前には全く知らず、METACITYのサイトを拝見して知ったほぼ初見の人間である。
時間調整がつかず、カンファレンスを全く聴講せずに、Ouchhhのインスタレーションのみ拝見した。

結論から言うと『意外と面白くなかった』の一言で集約されてしまう内容だった。
勿論1個人の感想なので『よかった!』という人を否定する気はさらさらなく、1個人の感想・受け取り方を整理したメモとして理解して欲しい。

AVA/V2

ハーフドームへのプロジェクションマッピングを用いたコンテンツ。METACITYにはこんな風に紹介されている。

バックミンスターフラーのアイコン的なドーム建造物にインスパイアされて作られ、主たるインスピレーションは、素粒子物理学に着目した実験から生みだされた作品。
巨大なドームの内側ではなく、外側360度に対し6台のプロジェクターで全体を包む様にプロジェクションマッピングされた特殊なインスタレーションで、世界各国で様々な賞を受賞しているほか、アルスエレクトロニカやTEDx CERNなど世界的なクリエイティブシーンで展示され話題になっている作品。

インスパイアされたと書いてあるバックミンスターフラーというのはwikipediaによるとドーム建築の先駆け的な建築家のようだ。思想も独特のものを持っていたようで、どのようにそれを作品に落とし込んでいるのかと期待した。

が、結論としては『音と同期したモノクロの格好良く抽象的な映像が直径5mのハーフドームに3分程度映される』という以上の感想を持ちようがない作品だった。

アートとして

説明文を読む限りドーム建築からのコンテクストと素粒子物理学からのコンテクスト、2つの読み取りが可能な作品である、という風に解釈できる。

ドーム建築部分だが、まぁこの作品はハーフドームにプロジェクションしている。『ドーム建築からインスパイアされたんでハーフドームなんです!』と言われれば全く持って筋は通るんだがなんかこう・・・直球すぎないだろうか。捻りというか独自解釈というか、そう言うものが欲しくなるのが人というものではないだろうか。少なくとも自分は欲しかった。

素粒子物理学の話もパーティクルが素粒子をモチーフにしているのかもしれない。が、同様にこちらもまんますぎないだろうか・・・。

どちらも実際はもっと深いコンテクストや洞察があるのかもしれないが、モリオカは読み取れず、作品の説明にもそれは記述されていなかった。アーティストトークがカンファレンスの中の一部にあったので、それを聞けば『なるほど!』と思ったのかもしれないが生憎都合がつかず見ることは叶わなかった。

エンタテイメント/デザインとして

アートとしては良く判らない感じだったが単純に楽しい体験ならば全然OKだ。が、それも正直、あんまりなかった。

ハーフドームの外側へのプロジェクションを今回初めて見たのだが、通常のプロジェクションマッピング対象と違ってハーフドームという極めてシンプルな造形なため、『3Dプロジェクションマッピング』と呼ばれる建物の凹凸などを利用した複雑な演出はできず、抽象的な映像をひたすら流している形になっている。

また、これは体験していて気づいたのだが、ハーフドームは一度に視界に入る面積が非常に少ない。半分は常に見えない。残りの3台のうち2台もかなり偏ったプロジェクションになってしまう。そのため『大型プロジェクタを6台使って普通のプロジェクションマッピングほどもない小さいエリアをマッピングするコンテンツ』になってしまっていた。要するに体験に対する投資効率が悪い、と感じた。同じプロジェクタの台数でもRyoji Ikedaのthe radarのほうが圧倒的な体験性、没入感を与えているように感じた。

ハーフドームプロジェクションのメリットとしては360度フリーに歩き回って見られる、というのがある。が、これを利用した演出などは特に見受けられなかった。ほぼ全面同じ映像であるし、インタラクションもない。

また、最後のほうの流体シミュレーションっぽい映像はタイリングのできない素材なのか、ぼかして繋いでいた。うーん。終始抽象的な映像でどれにもマストの意味があるように見えなかったのでそれならその映像ボツにして良かったのでは・・・と思ってしまった。

あと風の噂でOuchhhは全部リアルタイムでジェネってる!(動画素材じゃなく、その場で計算して表示してる)と聞いたのだがユーザインタラクションがないので動画と何が違うの判らなかった。繰り返し繰り返し見たら微妙に毎回絵が違ってたのかもしれないが、1回見たら割とお腹いっぱいであった。

あ、絵は単品単品のグラフィックとして見ると綺麗だった。

POETIC_AI

壁面3つを使ったプロジェクションコンテンツ。論文や詩を機械学習させて生成したコンテンツらしい。こちらはサイトには書いてなかったが何故か常設されていて見ることができた。サイトにはコンセプトが書かれていないが、展示スペースの入り口には書かれていた(撮ってくれば良かった・・・)。

アートとして

こちらはさらに良く判らなかった。AIを使った何がアートなのか。普通になんのひねりもなく考えると、論文や詩を読み込ませたのなら文字情報が出力されると思うが、文字情報は映像の中ではほとんど使われておらず、数少ない文字が出てるシーンも潰れていて良く読めなかった。後の映像はAVA/V2と同様に白黒のただただプリミティブで格好良い映像であった。インタラクションによる深掘りなども勿論ない。

エンタテイメント/デザインとして

床面を使ってないのが致命的だと思った。(またリファレンスにRyoji Ikedaを出して恐縮だが)Ryoji Ikedaのtest patternは逆に床面以外のプロジェクションをせず、床面プロジェクションと音のみの静的な(インタラクションのない)映像コンテンツである。

test patternに限らず、静的な映像でも体に浴びたり、体に極めて近いエリアで映像を出すと没入感はかなり上昇する。空間と身体が映像で繋がっているからだと思う。

今回のPOETIC_AIはそれを行なっていなかった(他の場所での事例を探すと床面に射っているパターンもありそうなので、場所の問題だったのかもしれない)ため、『デカイ3面スクリーンの映像を見ている』という体感のプロジェクションマッピングコンテンツになっていた。

まとめの感想

アートとしては兎も角、なんでエンタテイメントとして楽しめなかったのだろう、と考えた。大きくは2つのアプローチが不十分だったように思う。

1. 没入感設計

2. 予定調和の打破・緊張感の生成

先に2.の『予定調和の打破・緊張感の生成』から始める。
クラブイベントなどのVJ映像が面白いのは、DJであっても次にかける曲はオーディオエンスの顔色を見て変えられるし、VJ自身も変えられるため、緊張感や期待感がある程度維持できるかだと思われる。完全に静的な映像と音のループだとこの緊張感は生まれないため、見続けようと言う気にならない。要するにインタラクティブにする、ということだ。

この2. がない場合、経験上、1.の『没入感設計』のハードルが一気に上がる。一瞬の映像で没入させきってさらに映像の作り出す映像について来させ続けなければならない。床にプロジェクションしたりして自己の身体を無理やり空間の一部にしてしまって没入させる、というのは映像部分以外での没入のアプローチとして非常に有効に思う。が、今回はそれをouchhhは行なっていなかった。こう見るとチームラボとかネイキッドとかはこのあたり外さないよなぁ、とも思った。

技巧的にouchhhはかなり技術レベルが高いのが一見して良く判るのだが、デザインもアートもそれだけじゃうまく行かないな、と思った。

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