Moment Factoryのものづくりについて
7月末にMoment FactoryのMontreal本社見学に行ってきました。
Moment Factoryとは?
Moment FactoryはMultimedia Entertainment Studioです。屋外での体験型ナイトウォークプロジェクト『Lumina』シリーズを展開しており、去年長崎にて開演した『ISLAND LUMINA』を皮切りにTokyo Officeを開設。大阪城を舞台にした『SAKUYA LUMINA』、北海道で開催されている『KAMUI LUMINA』など、日本全国で展開しています。
また、Luminaシリーズ以外にも安室奈美恵やNine Inch Nailsのライブ演出、スーパーボウルのハーフタイムショー、シルク・ドゥ・ソレイユの演出など様々な分野にて演出を行なっています。
Moment Factoryは何処にあるのか?
カナダの東側、モントリオールにあります。市街地人口が350万程度なので横浜市ぐらいの感じ。ただし土地は広いので家や道路の感覚はゆったりしてて、高層ビルの立ち並ぶエリアはそれほど広くありません。都市部の写真は撮り忘れました・・・。
Moment Factoryのコア
Moment Factoryにおいては、大きくR&D(Research and Development)とR&C(Research and Creation)と呼ばれるジャンルに対して研究投資/開発を行なっています。
プロジェクトのライフサイクル
下の図がプロジェクトのライフサイクルを示す図となります。TEAM MU/BU/CCは非制作メンバ(Business Unitなど)、TEAM R&D/R&Cは制作メンバを表します。TEAMが最初、アイデアを出し、AXIS(R&DやR&Cのテーマそのままですね)を使って企画を膨らませ、WORKSHOP(工房)で物を作ってテストを行いますそのテストモックでGO/NOGOを判断。GOとなるといよいよローンチに向けて本格的に動き出します。
面白いのはGOかけた後、まずはFunctional Prototypeを開発し、そこからインテグレーションすることを織り込んでいる点でしょうか。インテグレーションを何度か回したのちにProductとしてのクォリティに達する、あるいは達しないと言う判断をしてProductに落とさない、と言う場合もあると予想されます。通常のライブエンターテイメント業界や広告業界ではこの境目は非常に曖昧だと思います。
R&DおよびR&Cの個別テーマについて
次にプロジェクトの軸となるR&D、R&Cの個別のテーマについて説明していきます。以下は文章のみなので英語の文章の抜き出しと翻訳を併記していきます。
CONNECT
Connect explores the ways in which the audience connects
and interacts with MF's interactive experience.
Connect will take the form of a software solution that
will support interactive experiences to centralize
user-generated data and facilitate their use in multiple contexts,
whether in real time or not.
Connectは観客がMFのインタラクティブな体験と接続し、対話する方法を探ります。Connectは、リアルタイムであるかどうかに関係なく、ユーザーが生成したデータを一元化し、複数のコンテキストでの使用を促進するインタラクティブな体験をサポートするソフトウェアソリューションの形をとります。
リアルタイムかどうか、インタラクティブかどうかに関わらず、ユーザの生成したデータ(あるいはユーザから取得したデータ)をコンテンツで利用します。Luminaシリーズの客の流れをGPSで計測してGoogleMapにオーバレイして分析している事例を例として見せていました。
OBJECT / CONNECT OBJECT
Our goal is to support project teams in the
creation of connected objects and enhanced
scenography whether for prototyping or for client project delivery.
私たちの目標は、プロトタイピングでもクライアントプロジェクトの提供でも、接続されたオブジェクトと拡張されたシーンの作成でプロジェクトチームをサポートすることです。
シーンを拡張するオブジェクト、あるいはネットワークに接続し、ユーザのデータをポストできるようなオブジェクト(ハードウェア)を開発しています。
TRACK
Exploring new techniques and technologies to track
the presence and movement(X,Y,Z) of people and objects in a given environment.
特定の環境での人とオブジェクトの存在と動き(X、Y、Z)を追跡するための新しいテクニックとテクノロジーの調査。
ユーザデータの中でも空間座標を取れるものはTRACKとして別で扱っています。より注力している、という事でしょう。
MIX / XR
A fusion between the real and virtual worlds to create new parallel
environments where the user, reality and coexist and interact in real-time.
ユーザーと現実が共存し、リアルタイムで対話する新しい並列環境を作成するための、実世界と仮想世界の融合。
XR系も当然研究開発分野のうちのひとつのようです。また、VRよりもAR&MRにフォーカスを当てている旨のスライドを挟み込んでいました(ただし、事例を見る限りVR関係の案件も過去にはやっていたようです)。
ARTG
Exploration of new techniques, technologies and production processes
to produce high quality virtual images, in real time, in the context of architectural projection and public installations.
建築物へのプロジェクションや公共スペースでのインスタレーションで、高品質の仮想イメージをリアルタイムで生成するための新しい手法、技術、および生産プロセスの調査。
リアルタイムグラフィックスをはっきりと注力分野のひとつに掲げているのはゲーム会社以外では珍しいのではないでしょうか。CONNECTやTRACKはあくまで入力なので、それをユーザの心動かす形で返していくにはリアルタイムグラフィックスが必ず必須となってきます。
AUDIO
Exploring the world of audio; from the soundtrack, to the intelligent synthesis engine and the spatialization, we open the doors to any potential integrations in the MF pipeline.
オーディオの世界を探る;サウンドトラックから、インテリジェントなサウンド合成エンジン、空間化まで、MFパイプラインの潜在的な統合への扉を開きます。
オーディオもやってますよ、という話。空間インスタレーションに置いてオーディオはクライアントや客が思っている以上に影響が強いので研究投資分野として考えるのも当然かと思います。
HUMAN
We create moments of Human connection with an optimal user satisfaction by practicing human educated design: Knowing and involving our users all along the production cycle.
私たちは、人間に教育されたデザインを実践することにより、最適なユーザー満足度を備えたヒューマンコネクションの瞬間を作り出します。生産サイクル全体にわたってユーザーを知り、関与させます。
人間にフォーカスをして考えるUX的な話、ストーリーテリングなどの人間を引き込む物語の開発も重要なテーマのようです。
PLAY
Innovative, playful & gameful experiences powered by the R&D axis and designed in collaboration with the R&C.
R&D軸によって強化され、R&Cと共同で設計された、革新的で遊び心のあるゲームフルな体験。
R&DとR&Cを融合させたものが革新的でプレイフルなユーザの体験として現れる、ということですね。
その他、PROTO ROOM
Moment Factory Tokyo OfficeにもありますがProto RoomはMontreal本社にもありました。
また、Proto Roomに上げる以前の「作ってみた」を表示しておく社内メンバ共有用のディスプレイもありました(OpenPoseのボーン検出、Face Recognitionを使った社員の年齢推定の動画などが流れていました)。
その他、開発環境
オフィスはかなり広く、まだまだ余裕がありそうな感じでした。
固定の(そしておそらくチームごとの)のオフィススペースと、プロジェクトが立ち上がった時にメンバが集まって作業するためのプロジェクトベースのオフィススペースの2つがありました。
まとめ
非常に自分たちの企画/制作/ワークフローを客観的に捉えて説明しています。まるでテック企業がスポンサーにする会社紹介のようでした。
また、UXやMedia Art、TechnologyおよびTechnology系のバズワードのような、「見えないが故に過大評価も過小評価もされそうな言葉」を極力排除した説明になっていたのも印象的でした。
Moment Factoryは現在380人。そのほとんどがMontreal本社に所属しています。また、本社のほとんどが(一癖も二癖もあるであろう)クリエイタです。社内の380人に同じ方向性を向きつつ、結果としてMoment Factoryらしい仕事をしてもらうにはこの手のアプローチが必須なんだろうな、と感じました。