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65歩の距離は

我が家のとなりの隣には、母の家があります。

90歳の母は、そこに一人で住んでいます。


社交的で、明るい母です。
女手一つで、男を3人育てましたので、芯も強い人です。
母の母、つまり私の祖母に似て気丈でもあります。


母の家

実は、私には、「長男だから母の面倒をみる」という感覚が無いのです。

いえ、放ったらかしにするということではありません。

私にとって母は、祖父・祖母の娘なのです。

祖父・祖母には、長女がいました。その長女は、小学校1年生になる直前に亡くなりました。ですから、次女である私の母が繰り上げ長女となり、大切に育てられました。

祖母は、母のことを「愛子さん」と呼んでいました。
母が、「もう子どももいるので『お母さん』と呼んで欲しい」と嗜めている場面をなんだか覚えているのです。

祖父と祖母は、実家のあった土地を懸命に守り、母のために残してきました。
大切に大切に育てた「愛子さん」のそばには、いつも祖父と祖母がいるように思えてならないのです。特に、私もおばあちゃんっ子ですから、祖母の大切な娘「愛子さん」なのです。

母の変化が表面化してきました。

私の家族には迷惑をかけまいと、なんでも母は一人でやってきました。

買い物は、共同購入で届けてもらっていました。
算盤で計算しながら、注文表を書いていました。
たまに、バスに乗ってデパートに買い物も行っていました。
ゴミ出しもきちんとできていました。

ところが…

2022年2月頃、「髪の毛が汚れている」と、私の妻が気づいてくれました。
「風呂に入っとるか?」と尋ねても、「毎日じゃないけど入っとる」と言います。どうやら嘘のようでした。

年金を受け取っている銀行を解約していました。
なぜ解約したのか尋ねると「あの銀行は遠いので、自分で行かれんので郵便局にした」と。銀行には、私が連れて行っていたのですが、それが申し訳ないと感じていたようです。郵便局も自分では行けないくらい足が弱り、母は少し後悔していたようです。

ゴミ出しをする時に「こけた…」と半ベソをか来ながら、我が家に来たことがありました。市の指定のゴミ袋もだんだんサイズが小さくなっていきました。

母の家の中で何が起こっているのか、65歩の距離しかないのに、私は無関心すぎました。

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