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越後正志『観測地点』

2020年9月14日
越後 正志

◉インスタレーションとは?
豊岡演劇祭2020のフリンジに参加している現代美術家の越後です。
フリンジの演目内容をチェックすると私のジャンルは「インスタレーション」と書かれています。「インスタレーション」は、現代美術の世界では当たり前のように使われている言葉ですが、演劇祭に来てくださった方には馴染みのない言葉かもしれません。そもそも「インスタレーション」の言葉の定義も美術家によって様々です。私が「インスタレーション」を説明するのであれば、「その場所(空間・人)でしか成立しない展示」が最も近いように思えます。簡単に言えば、今回の演劇祭では江原スペシャルな作品を目指し、取り組みました。

◉江原スペシャルとは?
豊岡演劇祭2020では「観測地点」というタイトルで3箇所の展示を行っています。それぞれ私が取り上げた江原スペシャルな要素が込められた作品です。その一つ、サンロード商店街の展示について話してみたいと思います。この作品のきっかけは豊岡高校の高校生(木下栞さん・衣川萌々香さん)と共に行った協働ワークショップでした。2人に「江原」について家族や身近な人から話を聞いて欲しいと宿題を出したところ、聞き取ってくれた話の中にサンロード商店街周辺にある地域の人に愛されているお店や個性あふれる店主がいるお店の話がありました。さらにサンロード商店街に空き店舗を借り、商店街の中の人間関係を築いていた渡辺瑞帆さんを通して私も人情味ある店主の方々の顔を伺う機会がありました。通りがかっただけでは見えない店の中の様子や店主の顔、これらが街の個性と言えるスペシャルな部分だろうと私は思いました。店の中の様子や店主の顔を扱うことは決めたものの、次の課題はそれらを扱ってどんな展示にするのか?でした。

図1

(店内の撮影の様子)

◉どんな展示にするのか?
展示にあたってサンロード商店街ならではの要素を使いたいと考えました。それは商店街の通路です。商店街の通路は両端から人が自由に入ることができ、端から端への人の導線が作られています。さらに通路の天井には梁が等間隔に並んでいます。これを使わない手はない!と思いました。作品はサンロード商店街の中と周辺のお店に協力を頂き、店内で木下さん・衣川さんの2人が入ってもらった写真の撮影を行いました。写真は半透明の素材に印刷し、商店街の梁から吊るしました。半透明を選んだのは、通路の空間を完全に遮断することなく、歩きながら見てもらえるような展示にしたかったからです。半透明の素材を扱った印刷は簡単ではないのですが、衣川さんのお父さんが勤めている会社が実現してくださりました。店舗の撮影ではイガキフォトスタジオさんが撮影をしてくださり、場所とそこに住む人、そこに豊岡演劇祭に関わる人が様々な形でつながり合った結果、作品が生まれました。

◉最後に
形こそ違えども、その他2箇所の展示も同様に江原スペシャルな部分が込められています。今年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で気軽に人と会ったり、話したりすることが難しい状況にありました。本来であれば、もっと大勢の江原の街の様々な人たちと出会い、話を聞き、街の中で眠っているスペシャルな要素を掘り起こせられたらと思っていました。ただ豊岡演劇祭の素晴らしいところはこれから毎年開かれる予定だという点です。これから演劇はもちろん、大道芸や紙芝居など様々な表現を通して、豊岡のスペシャルな部分の掘り起こしが生まれることを期待しています。
最後になりましたが、この文章を通して「インスタレーション」という言葉を知っていただけかと思います。次はぜひ豊岡演劇祭2020に足を運んでもらい、場所・人との関わりから生まれたスペシャルな作品「インスタレーション」を実際に体感してもらえたらと思います。

図2©igaki photo studio

図3©igaki photo studio

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『観測地点』 9/9〜22
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越後正志
1982年富山生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。
 越後正志は、これまで「移動」をテーマに国内外において様々なアート・プロジェクトを行ってきました。プロジェクトは「他者のモノを移動する」ことによってその人の記憶を顕在化することが目的です。例を挙げると2016年にアメリカのポートランド州に住む女性が数十年前に住んでいた家に植えた「バラ」を、女性が今住んでいる家へと共に運ぶというプロジェクトを行いました。2018年には修理の必要な中国製のシャツやジーンズ、靴を中国・北京に運び、現地で縫製業を営む夫妻に直してもらいました。こうしたプロジェクトにおける要素である「移動」は、社会を構成する一個人の埋もれた記憶を掘り起こすという意味を持つだけではなく、「日本で購入できる洋服が安価であることが中国を頼っている」社会的側面にも光をあてるものです。豊岡演劇祭2020では、江原駅周辺の複数会場において現地のリサーチ(観測)を行った土地の断片を組みあわせた作品展示を行います。

「現在進行形で日本を含む全世界に広がりを続けている新型コロナウイルスは、私たちの移動に多くの制限を生みました。この状況は今後もどのくらいの間、続くのか想像することはできません。そして新型コロナウイルスの拡散を防ぐために世界各地で行われている「ステイ・ホーム」「ソーシャル・ディスタンス」と呼びかけられた他者との接触自粛は、私たちの心理に不特定の他者との出会いに対する戸惑い・恐れを引き起こしています。また以前のように気軽に県から県への移動も慎重に考え、行動せざるえなくなりました。」
「今回の展示では、新型コロナウイルスによって生まれた様々な制限がある状況でも自分に出来ることがあるはずだと、商店街のアーケード、使われなくなった酒蔵、夜の河川敷、場所場所で足を止めて耳を澄まし、観測を行いました。すると商店街のあちこちから聞こえてくる音、酒蔵の空間に満ちた香り、そして夜の河川敷に現れた動物など様々な景色が見えてきました。今回は豊岡高校の木下栞さんと衣川萌々香さんとともに行ったワークショップを作品に取り入れました。展示を通して、地元の方でも知らなかったような景色の掘り起こしができました。異なる会場でそれぞれ空間に合わせた展示を行います。
 公演の開演前や公演後にお時間を作っていただき、ぜひ足を運んでください。」越後正志(2020. 8. 15)

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