夫の借金29,035,436円と私⑮

第十15話 心と体はつながっている

令和4年11月末に、夫の借金11,351,393円が発覚してからおよそ2か月が過ぎました。

私は「年齢より若く見える」などの知人からのお世辞を真に受け、いい気になっていたものです。

ある日私は毛染めをするために、最近節約のためあまりしなくなったコンタクトレンズを装着しました。
視力1.2に矯正された目で鏡を見た私は驚愕したのです。

血走って鋭い眼光、眉間に刻まれた深いシワ、やつれて頬骨が浮き上がり、常に歯を食いしばっていたためか口元はへの字に歪み、その周りを溝のように囲むほうれい線・・・
その顔はまさに、借金取りから逃げ回り崖っぷちまで追い詰められた多重債務者のそれだったのです。

たったの2か月で10歳は老けたように見えます。
50代に入り密かに目指していた「美魔女」とはまったく逆方向の進化を遂げていたのです。

以前テレビで有名なヨガのインストラクターが「心と体は、常につながっている」という話をしていた事を思い出しました。
どんなに外見を飾っても、荒んだ心は外見に必ず表れる、ということでしょうか。

ふとソファーで寝ている夫に目をやると、隠していた借金のプレッシャーから解放されたためか、5歳くらい若返ったように見えます。
デブだった夫は今回の一件でさすがに反省したのか少食になり、8キロほど痩せたのです。
加害者の夫は5歳若返り、被害者の私は10歳老けるなんて・・・
運命のいたずらか、事態はますます奇妙な様相を呈しているように思えます。


40代後半までは、私は自分の老いというものを意識したことはありませんでした。「自分はもしかしたら、80歳くらいまでこの調子でいけるんじゃないか」と思ったりもしました。

自分の体の老化を一番最初に痛感したのはです。
私は虫歯こそ何本かあったものの、基本的に歯は丈夫な方だと思っていて、歯医者にもほとんど行っていませんでした。
ところが、50歳を過ぎてから食べ物が激しく歯の間に挟まるようになったのです。
思い返すと40代の前半まではそんなことは無かったように思います。
今では外出時に必ずデンタルフロスを持ち歩かなければならないようになりました。

ある日私は歯の詰め物が取れ、約10年ぶりに歯医者に行きました。
そこで歯科医から告げられた悲しい現実・・・
「歯茎がかなり下がっていますね。食べ物もかなり挟まりやすくなっているのではありませんか?」
歯科医はピンセットで私の前から2番目の歯をつまみ、「歯がぐらついていますね。部分入れ歯にならないようにしっかり現状維持しましょう」
前歯に違和感は感じていたものの、歯がぐらついているとは思いませんでした。
歯科医は「奥歯がすり減っていますね。寝ている間の歯ぎしりが原因でしょう。マウスピースをお勧めします」
私は歯を失わないため、寝る前にしっかりと歯間ブラシとブラッシング、マウスウォッシュをし、マウスピースを噛んで寝るようになりました。
「人は歯から衰える」と昔の人は良く言いましたよね。

次はです。
私は40代前半までほぼ毎日コンタクトをしており、アイメイクも毎日しっかりしていました。
でも、40代半ばごろからコンタクトをした目では手元が見づらくなってきたのです。特に仕事中、パソコンの画面や書類などがぼやけるようになりました。
コンタクトを着けた上に、老眼鏡をかけるのがうっとうしくなり、あきらめて現在では遠近両用メガネを作り、ほぼ毎日それで過ごしています。

次につらいのが、更年期障害です。
40代から症状はあったものの、50代に入ってからよりひどくなった感があります。
一番ひどいのが「ホットフラッシュ」と呼ばれるのぼせのような現象です。
ちょっとしたストレスや外気温の差で、首から上がカーっと熱くなり、次に滝のような大汗をかいてしまいます。
それは尋常な量では無く、サッカーで45分間ピッチを駆け回った後に匹敵するくらいの量の汗なのです。
一日の内に何度も汗で服がびっしょりになったり、乾いたりを繰り返すのは実に気分の悪いものです。

現在は更年期障害に効果があるという漢方薬の「桂枝茯苓丸」と大塚製薬の「エクエル」を服用しています。
漢方薬は心療内科で処方してもらっているのですが、「エクエル」は自費で購入しなければなりません。
1か月分4,400円と決して安くはありませんが、骨粗しょう症や脱毛、関節の強張りにも効果があるという事なので、これだけは何があっても継続して服用したいと思っています。

その他、腰痛や膝の痛みなどは日常的にあり、テレビの「皇潤」などのCМを真剣に見るようになってしまいました。

まったく、年を取ればとるほど、医療費にお金が飛んでいきますね。
年を取ればとるほど収入は減り、身体のメンテナンス費はどんどん増額していくのです。


私は夫に借金された仕返しに、シニア用マッチングアプリに登録し浮気をしてやろうかと思った事もありました。
でも恋人とレストランで食事をしても、歯間に食べ物が挟まりまくったり、突然滝のような大汗をかいてしまっては、ロマンチックなデートなんて望めませんね。
涼しい顔で「ちょっと失礼。メイクを直してくるわ」といって席を立ち、トイレの個室で必死の形相でデンタルフロスをしまくる自分を想像すると、あまりに滑稽で恋愛などできないと悟ってしまうのです。

マッチングアプリを諦めた私は、吉沢亮似のイケメンとデートすることを想像しながら、ひとりニヤけるのでした。

借金残額 令和23年1月時点 8,856,557円(概算)





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