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夫の借金29,035,436円と私⑬

第13話  令和2年11月 最初の借金

初めて夫の借金が発覚したのは、令和2年11月5日でした。

出勤前の朝、突然夫から「1600万円の借金がある」
と告げられたのです。
夫はそれだけ言うと、私に責められることを恐れたのか、あっという間に家を出ました。

「・・・・・」
私はしばし、椅子に座って呆然としていましたが
事の重大さが私の分厚い大脳皮質に浸透するまで、さして時間はかかりませんでした。

その日は、仕事終わりに姉と軽井沢旅行に行く予定を立てており、楽しみにしていました。

当然パニックになってしまい、旅行どころではありません。

でも、せっかくの旅行を当日辞めるのは姉に対して悪いと思い、表面上は平静を装いながら、旅行に行きました。
当然うわの空で、少しも楽しむことはできませんでした。

姉と別れ、家に帰ったのは夜8時頃でした。

夫は家に帰っていました。

私は帰ってくるなり
「どういうことなのか、説明して!!」と迫りました。

「カードローンの返済が追い付かなくなった」
「買い物や、飲み食いに使った」
というような説明をされました。

そして、テーブルの上に30枚ほどのクレジットカードを、バラっと並べて見せたのです。

Yahoo!カード、楽天カード、dカード、エポスカード、住信SBIカード・・・

私はそれまで、消費者金融とは無縁の生活を送ってきました。
「カードローン」とはどういうものなのか、どうやってお金を借りるのか、それすらもわからなかったのです。
それは私にとって量子物理学と同じくらいまったく必要のない知識のはずでした。

「借金1600万」の言葉を聞いた私の頭の中には
「暴力団」「取り立て」の文字が浮かびました。
「闇金ウシジマくん」の世界に自分が飲み込まれそうな気がしたのです。

父が昔から「サラ金に手を出したら、人生終わりだよ」と良く言っていました。

私はありとあらゆる暴言を夫に浴びせました。
でも、決して我を忘れたわけではありません。
頭の片隅には、どうやって借金を返済するか、夫との和解のラインはどこにするか、冷静に考えていました。

夫を責めるより先に、まず目の前の借金をなんとかしなければ・・・

まずは、ノートに各カード会社の返済額を書き出しました。
借金総額17,684,043円・・・
私はめまいを起こしそうになりました。

それまで私たち夫婦はお財布を分けており、家賃や光熱費などは夫、食費や日用品などは私、という具合に大まかに支出していました。
私は夫が毎月、給料をいくらもらっているのかすら知らなかったのです。
夫には多少浪費癖はあるものの、基本的に信頼していました。

マンションを購入する時、夫が銀行の審査に問題なく通った事や、購入時の登記や手続きなどすべてやってもらったので、夫に任せていれば大丈夫、という思いがありました。

私はその年の1月に、同い年の従妹をがんで亡くしていました。
従妹は結婚しており、彼の妻が遺されたのです。
葬儀に出席した時に見た彼女は憔悴しきっており、見るだけで胸が痛みました。

私は「もしこれが彼女なら、1600万円払えば夫が生き返ると言われたら喜んで払うだろう」と、思ったのです。

私は夫に「あなたが死ぬよりましだと思って、今回は私が払う。でもこれが最後だよ。」
と言ってしまったのです。

借金残額 令和23年1月時点 8,856,557円(概算)



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