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「社会課題に取り組むってどんなの?②」〜外国出身のママさんたちと共に歩む起業家、奥尚子さんに聞いてみた!~ とよなか地域創生塾2024 DAY6 B:目の前の人からはじめる課題解決コース

みなさんこんにちは!

こちらの記事では、2024年12月3日(火)に開催された「とよなか地域創生塾2024・DAY6 B:課題解決コース『社会課題に取り組むってどんなの?②』」の様子をご紹介します。

今期で8期目となる「とよなか地域創生塾」。

11月9日(土)に開催されたDAY5では、塾生の皆さんが自身の取り組む活動内容を決め、プロジェクトチームを発足させました。DAY6では再び「A:『わたし』からはじめるまちづくりコース(以下、まちづくりコース)」と「B:目の前の人からはじめる課題解決コース(以下、課題解決コース)」に別れて、ゲスト講師から具体的な事業のお話を聞き、自身の活動のヒントを探します(これまでの「A:まちづくりコース」と「B:課題解決コース」の様子はそれぞれのリンク先でお読みいただけます)。

今回、課題解決コース2日目は、「Empowerment Of All People(全ての人々のエンパワーメント)」をビジョンに、神戸・元町で外国出身のママさんたちと「神戸アジアン食堂バル SALA」を営む社会起業家・奥尚子(おく・なおこ)さんを講師にお迎えしました。

“今までラベルを貼られることなく、見過ごされることが多かった”「外国出身のママさん」という具体的な社会課題に、ビジネスという形式で取り組んでいる奥さん。本記事では、奥さんのお話の中から「自身が解決に取り組むべき(取り組みたい)社会課題をどのように見つけ、向き合っていくのか」、「社会課題に対してビジネスで取り組むとは、どういうことなのか」、「具体的に事業を運営する中で、どのような困難や工夫があるのか」、といった話題をピックアップし、当日の講座の様子ととともにご紹介していきます!

ゲスト:奥尚子(おく・なおこ)氏
アジアン食堂SALA

聞き手:藤本遼(ふじもと・りょう)氏
株式会社ここにある(以下:ここにある) 代表取締役

文:増田ひろ(ますだ・ひろ)

とよなか地域創生塾とは、豊中市が主催する事業で、とよなかの「地域」を「創」り「生」かしていくための考え方と仲間が得られる連続講座(ゼミナール)です。


「だらだらするだら?」でシャキッと! ヒーローインタビューで、話し手力・聞き手力をアップ?!

公民館といった公の施設だけでなく、まちの様々な場に出向いて学びを深めていくことも一つの特徴である、とよなか地域創生塾。DAY6(Bコース)の会場は、現役大学生が運営し、人気Youtube番組・令和の虎にも取り上げられたカレーサンド屋「だらだらするだら?」です。

会場である「だらだらするだら?」。木材を基調としたインテリアの温かな雰囲気が特徴です。

実はこの「だらだらするだら?」、火曜日から土曜日の日中はタイムシェアとして、豊中市が取り組む「高校生世代のひきこもりの未然防止事業・できるカンパニー」の活動場所にもなっています。

講座の冒頭で「できるカンパニー」の活動について説明してくれた「とよなかTACT」の垣花(かきのはな)さん。

そんな、社会課題の解決に取り組むもう一つの事例紹介を聞いたあとは、いつも通り、塾生有志によるアイスブレイクのコーナーです。

今回のアイスブレイク担当は、「会社でもらった」というサンタ帽をかぶった古木(ふるき)さん。ゲームのルールが書かれたレジュメを全員に配り、アイスブレイクがスタートします。

アイスブレイクのために前面に出てきたかと思えば、急にサンタ帽を被りだした古木さん。

アイスブレイクの内容は「ヒーローインタビュー」。
まず、同じ血液型の人とペアとなり、一人がインタビュアー、もう一人がインタビューを受けるヒーローとなって、「これまでにあった成功体験」について3分間のインタビューセッションを行います。それが終わると、次は役割を交代して、もう一度インタビューを行います。

「インタビューする側はオーバーリアクションで、できるだけ相手の話を引き出してください。話をする方も、試合後にヒーローインタビューを受けるスポーツ選手になりきる気持ちでお願いします!」と古木さん。

身振り手振りをつけながら話すことも推奨されていたため、満員の会場がシャキッと盛り上がっていました。

終了後、本日の聞き手・ここにあるの藤本さんからは「なぜヒーローインタビューをしようと思ったんですか?」と、アイスブレイクの狙いについて質問がありました。古木さんからは「深い自己開示をしてもらいたかったんです」と種明かしが。

藤本さんから更に「サンタ帽をかぶった意図は?」と問われると、「そっちは特に何もありません(笑)」と。そんなオチがついたところで、本題へと入っていきます。

目の前の人の課題に気付くって?~ラベルを貼られていなかった「外国出身のママさん」たちの困りごと~

活動のはじまり~外国出身ママさんとの出会い~

それでは、ここからはゲストである奥尚子さんのお話に入っていきます。まずは、奥さんの自己紹介と、活動についてのご紹介がありました。

奥尚子(おく・なおこ)氏:神戸市出身。関西学院大学人間福祉学部在学中に、日本の社会に馴染めないアジア人女性達と料理を通じて交流を深める。卒業後、リクルートライフスタイルで3年間勤務した後、2016年7月「神戸アジアン食堂バルSALA」2022年5月に「SALA cloud 神戸旧居留地キッチン」をOPEN。

奥さんは、関西学院大学社会起業学科の一期生として、学生時代から様々な社会課題に関わってきました。授業や活動の一環でNPOやNGOについて学び、様々な活動の現場にも足を運ばれたそうです。

そんなある日、NPOに相談に来ていた外国出身のママさん(日本に移住して、あるいは結婚して日本に来て子どもを生み、育てているママさんたち)と出会います。

奥さんの大学時代には、「ホームレス」や「貧困問題」、「母子支援」といった他の社会課題に比べ、「外国出身のママさん」の困りごとには充分なラベル付けがされておらず、社会からの関心も低かったといいます。

授業などで触れるものとは異なる課題・困りごとに出会い、「どうしてこういう困りごとが起こっているんだろう?」と疑問を持った奥さんは、出会ったママさんと交流する中で、その原因を探っていきました。

「ホームレス問題など、現場を見て心に残っている課題や、客観的に見て『もっと困っている人が多い』とか『ソーシャルインパクトが大きい』と思う分野もあります。ただ、私にとっては『外国出身のママさん』たちの困りごとが、目の前で出会った中で、最も違和感を感じ、取り組みたいと思った課題だったんです」と奥さん。

外国出身のママさんたちは、日本に来ても日本の言葉や文化が充分にわからず(あるいは、日々の生活の中でそれを習得する時間をとることも難しく)、これらの要因が様々な困りごとを生んでいきます。

プライベートでは、「友達がいない」、「電車の乗り方がわからない」。お仕事の面では、言語の壁によって働く場が限られるため、「不安定な仕事にしか就くことができない」、「キャリアアップを見込むことが難しい」、「文化の違い(例えば「ヒジャーブ(イスラム教徒の女性が頭髪を隠すためのスカーフのようなもの)」)のせいで雇用を断られてしまう」といった困りごとが挙げられます。

また、家庭内でも、日本で生まれ育った子どもの方が、外国から移り住んできたママさんよりも日本語が上手なことも多く、子どもからバカにされてしまう、学校とのやりとりが上手にできない、微妙なニュアンスの会話が難しいため、親子のコミュニケーションが限られてしまう、といった問題が生まれます。

母国で暮らしていれば、あるいは、母語を使えば簡単にできることが、日本という異国に移り住むことで難しくなってしまう――外国出身のママさんたちは、こういった経験の積み重ねによって追い詰められ、身も心も引きこもっていってしまうそうです。

SALAのはじまり~お互いの得意を、パズルのように組み合わせていく~

こうして、外国出身のママさんの課題に関心を持ち、交流を持ち続けていた奥さん。そんなある日、仲良くなったママさんに手料理を振る舞ってもらう機会がありました。ママさんが作った母国料理の、今まで食べたことのない味わいに感動した奥さんは「なにこれ!」と衝撃を受けたといいます。

また、奥さんのリアクションを見たママさんも、普段の寡黙な様子とは打って変わって、饒舌に、楽しそうにお料理の話をし始めました。

ママさんの活き活きとした様子から閃きを得た奥さんは、学生の仲間と共に、外国出身のママさんたちが母国の料理を振る舞う、というイベントを開催し、好評を博しました。ママさんたちは料理を、奥さんたちはイベントの運営を、それぞれの得意を組み合わせることで成功したイベントを見て、奥さんは「私はこういう社会で生きたい!」と強く思ったそうです。

奥さんは困りごとに対する「支援」について、「『“社会的に立場の弱い人”をスーパーマンのような人が一方的に支援する』という形もあると思いますが、誰にだって得意なこと、できることがあります。そのママさんの料理を食べたときに『パズルのように、お互いのできること、できないことを補い合う』そんな形で共生することができればいいな、と思ったんです」と語ってくれました。

こうした気付きが形になったのが、奥さんが経営し、外国出身のママさんたちが得意の料理を振る舞うレストラン「神戸アジアン食堂バル SALA」です。

SALAの店内。(SALAのHPより引用)

SALAの起業と、社会的な価値・事業的な価値を両立すること~価値を生み、保ち続けるための生存戦略~

ここからは、SALAの起業にいたるまでのお話と、SALAを経営し続けるうえでの困難や工夫についてをご紹介していきます。

このままではいけない?!~起業までの準備・修行期間~

外国出身のママさんと協力した料理イベントが成功したことを受け、奥さんは在学中に学生団体を組織し、イベントを続けて開催していきました。また、この「外国出身ママさんが料理を振る舞うレストラン」を事業として実現するべく、ソーシャルビジネスのアイデアを競うコンテストに出場して賞金を獲得するなど、起業への道を歩んでいきます。

しかし、卒業間際にふと「本当にこのままお店を開いて大丈夫なのか」と、立ち止まる瞬間があったそうです。ビジネスプランコンテストなど、社会課題に関心がある・感度の高い人たちに対しては、奥さんのビジョンが伝わり「ちやほやされることもあった」といいます。しかし、長くビジネスの世界を経験してきた奥さんのお父さんから「このままではいけない」と反対の声が上がったり、学生という立場ではお店を借りることができなかったりと、いくつかの壁にぶち当たりました。

たまに開催されるイベントなどには、「学生たちが頑張っているから」、「外国出身のママさんたちが大変そうだから、かわいそうだから」と、関心や感度の高いお客さんが訪れてくれます。しかし、常設のお店としてオープンしてしまえば、世の中にたくさんある飲食店と横並びでの競争になります。

「そうした環境では、社会課題に興味・関心がないお客さんにも届かないと、お店を続けることは難しいのではないか」と考えた奥さんは、将来的な起業を前提に、飲食や、その広報に関わる分野に就職をしました。

数年間の社会人経験で、飲食店の経営や広報についての知見を得た奥さんは、ビジネス面でのアドバイザーとしてお父さんをパートナーに迎え、SALAを起業します。

お店を経営するということ~その困難と工夫~

「それでも、開業当初は上手くいかないことも多かったです」と奥さん。

なんと、最初のお店を借りる際には、信頼していた知人から詐欺の被害に合い、お金を騙し取られたこともあるそうです。

例えば開業当初は、SALAの持つ「社会的な意味≒外国出身のママさんたちが活躍できる居場所や仕事を作っていること」を前面に出す、一人ひとりのママさんの個性やバックグラウンドを活かすため、そのママさんにしか作れない料理を売りにする、といった方針を打ち出していました。

しかしそれでは、興味・関心のないお客さんが寄り付きにくくなったり、人気メニューを作れるママさんが休んだり、辞めたりした場合、安定してお客さんに喜んでもらうことが難しくなったりしてしまいます。

そのためまずは、「美味しくて、いつ行っても同じメニューが食べられる」という、飲食店としての安定した経営を目指すことにしました。その努力もあって現在、SALAでは3種類のベースメニューと1種類の日替わりがメニューとして常設され、誰がキッチンに立っても同じ味・クオリティの料理が提供できるようになっています。

「まずは興味を持ってもらい、その上で『実は私たちのお店は、こういった背景を持ってやっているんです!』と伝えていく」――この順番を大切にすることで、料理目当てにSALAに来たお客さんが「めっちゃ美味しかった! しかも、外国出身ママさんの活躍の場所でもあるんやって!」と、SNSや口コミでシェアしてくれることも増えたそうです。

また、コロナ禍も「ビジネスとしてのSALA」を見つめ直す大きなきっかけとなった、といいます。

SALAは店内に22席を備えたお店で、スタッフは、SALAの経営規模で雇用可能な最大数を雇っているそうです。つまり、お店の経営に必要な支出と、上げることのできる売上の上限は決まっています。

コロナ禍当時、飲食店の営業自粛や、営業時間短縮要請が出た際は、「22席の規模だったから、支援金なども含めてぎりぎりお店を維持できました。ただ、これ以上の規模だったら潰れていたと思います」と、奥さん。

そんな、お店にお客さんを呼べないときに力を入れたのが、「SNS」と「他事業への展開」でした。

SNSでは、大学生のアルバイトが中心になってInstagramの発信を行い、お店にお客さんが来られない間もSALAのことを知ってもらう窓口、SALAのことを忘れないためのきっかけとして、たくさんのフォロワーを獲得していきました。ここで培ったSNSによる発信力は、現在でもSALAを支える大きな力になっているといいます。

「私はInstagramのことはあまり分からなかったので、ここでは大学生の得意が、私のできないことを補ってくれました」(そんなSALAのInstagramはこちら

また、他事業への展開については、コロナ禍のような予測できない事態が起こったとき、「『店内での飲食だけ』など、一本の柱では不安定」になってしまうことを防ぐため、デリバリーや通販、SNSなど、事業の柱を増やしていきました。

最新の挑戦としては、「セントラルキッチン」という調理専門の施設がオープンしました。もともとはSALAの二号店をオープンすることを考えていたそうですが、コロナ禍の経験などを踏まえ、リスクの分散や安定した経営を心がけ、調理とテイクアウト専門に絞ったセントラルキッチンのオープンを先行させたそうです。

現在のSALAの活動・事業の全体図です。ママさんたちのサポートについても、生活相談などは専門のNPOと連携することで賄っています。

奥さんは最後に「メディアでは、SALAの持つ『社会的な価値』を取り上げてもらうことが多いですが、特にコロナ渦を経て『事業的な価値』の大切さを思い知りました。社会的な価値を守り続けるためにも、事業の価値をもっと上げないといけないと思い、日々挑戦しています」と締めくくってくれました。

DAY6 B まとめ~「問題」と「課題」の違いって?~

この日の最後は、これから塾生の皆さんが取り組んでいくプロジェクトについての解像度を上げるワークに取り組みました。

まずは、本日の聞き手であるここにあるの藤本さんから、「皆さん『問題』と『課題』って、どう違うと思いますか?」との問いかけが。

それに対して会場からは、

・問題は起こっているもの、課題は設定するもの
・理想と現実のギャップを考えたときに、解決策があるのが課題
・「問題」はあると思えば存在するもの、「課題」は自分が設定しなくてもあるもの

など、様々な回答が飛び出しました。

「問題」と「課題」の違いについて考え、考えを共有する塾生の皆さん。

「問題」と「課題」について、塾生の皆さんが一通り自分たちの頭で考えたうえで、一応の定義を確認します。

「問題」
理想と現実のギャップ、障害、妨げられている状態

「課題」
問題を解決するために、具体的に取り組むタスク、ギャップを埋めるためにやるべきこと

昨期・とよなか地域創生塾7期でも「言葉にこだわることは大切」と語っていた、ここにあるの藤本さん。

言葉の定義を確認したあとは、DAY5で決定したプロジェクトチームごとに分かれ、それぞれのプロジェクトが取り組むべき「問題」と「課題」について、チーム内で意見をすり合わせる時間をとりました。

今後、チームでスムーズにプロジェクトを進めるためにも、軸となる共通認識を持っておくことが大切だ、という狙いです。

プロジェクトチームごとに取り組むべき「問題」と「課題」のすり合わせを行う皆さん。チームによって「最初からバッチリ合っていました!」から「なかなか細かいところが一致しなかったです」まで、事情は様々でした。

これで、コースB:課題解決コースの皆さんは、年内の講座は終了となります。
今後はチームごとに分かれて講座外での打ち合わせや活動を行い、年内、あるいは年明けには、スモールステップとして何かしらのアウトプットが生まれていく、という予定になっています。

そんな「とよなか地域創生塾2024」と、生まれつつあるプロジェクトについて、今後もぜひご注目ください。

それでは、最後までお読みくださりありがとうございました!

こちらのnoteでは引き続き「とよなか地域創生塾2024」の様子を発信していきます。また、有志の塾生からなるレポート部も活動中です! 次回以降もぜひ、レポート部によるnoteも併せて、お読みいただけたら嬉しいです。


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