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さよならMac. ごめんねThinkpad. こんにちはHP.

デジタルに蝕まれた人間だから,何をするにもノートパソコンが必要だ.テレビでYoutubeを見るにも,論文を読むにも,実験をすすめるにも,音楽を聞くにも,もちろん写真を編集するにも.そうなると,毎日使っていて苦ではない,使いやすいパソコンが必要になる.

高校生の頃は主にThinkpadを使った.Thinkpad T430がはじめてのパソコンで,2.1kgの巨体を毎日片道1時間かけて学校に持っていくほど愛情深く接していた.如何にも仕事ができそうな人が使いそうな真っ黒の筐体には打ちやすいキーボードが備え付けられていて,なんと他には見ないトラックポイントまでついてくる.(赤ポチは体に染み付いているから今も難なく使える) . 時代柄故の拡張性も,高校生特有の魔改造趣味に大いに付き合ってくれた.

しかしながら,そんな”いかにも”のノートパソコンを使いつつ,いわゆるスマートなノートパソコンに憧れがあったことも,また事実だ.でも,ひねくれた人間だから,そういうパソコンのことをくさしていた.小学生の時担任の先生が使っていた東芝のUltrabook(死語)や高校生の時後輩が使っていたMacBook,あのたぐいのすっきりしたパソコンを見ると,あんなの落としたら一発で壊れるだろう,コネクタが少なすぎるなどとひどい言葉をぶつけていた.それは結局のところ,これを使ってみたいという欲の裏返しだったはずである.

大学生になってそういう欲に正直になろうと思って,MacBook Airを親に買ってもらった.新しいArmベースのプロセッサーはすごいらしいとか,写真を編集するには画面は綺麗なほうがいいとかいろんな言い訳をしたけれども,結局は,ひねくれずにみんな"いい"と言うモノを使いたいという欲求に負けたのである.
いや,というよりも,私もひねくれていない性格のいい大学生になりたかったのだ.その第一歩として,MacBookを使うことにしたのだ.

そんな性悪な人間のもとに届いたMacは,言わずもがなよいものだった.スペックも使い心地も,前に使っていたThinkpadからは大きくジャンプアップしていて,とっても満足して使っていた,けれども,Macは私を受け入れてくれなかった.

天神の喫茶店で,急に壊れてしまったのだ.たった2年半で.どうやら静置して使っている分には問題ないのだけれども,動かすと画面が急に暗くなってしまう.AppleStoreの人によると,修理代に6万円はかかるらしい.Thinkpadのように自分で修理できるような作りにもなっていないから,本当に困った.

しかしながら,よく考えて、私のようなひねくれた人間がMacを使ったのが悪いのだと納得した.Macは多分私のような人間に使われたくなかったのである.

そんなわけでパソコンを買い替える羽目になった.しかし,想像以上にMacbookの完成度が高く,ふさわしいパソコンを選ぶのにはとても苦労した.Microsoft謹製なのに意外とバグが多いSurface Pro 7+,画面とタッチパッドが小さすぎるLet'snote,作りが甘くてボディがたわむDell Latitude.どれも満足はできなくて,いろんなパソコンを中古で買っては売ってを繰り返した.しまいにはDellのワークステーション,Precision5540まで使ったけれど、BIOSが不安定で嫌気がさした。

その中でも,日本橋のPCコンフルで3万円で買った2019年モデルのX1 Carbonは気に入った.もうバイト先のおっちゃんに売ってしまったが,今もバイト先で使っている.T430と同じ雰囲気ながらスマートになった筐体も,あのとき男友達の前で乳首と呼んでいたトラックポイントも,どれも肌に馴染むのである.やはり高校時代を彩ってくれたThinkpadに,もう一度来てもらうのが良いと思うようになった.
しかし,価格が可愛くなかった.WSLを動かしながら3Dモデルを見て,同時並行でネットを使って,下手すりゃIDEも開いてとなると,RAMは32GBはほしい.そんなわけでスペックを盛るとMacBookAirより二周りくらい高くなってしまう.X1シリーズは中古価格もあまり落ちないようだ.それでも,Thinkpadには重めの愛情があるので是非お迎えしたかったが,intelのUプロセッサーを搭載したモデルに20万払うのは抵抗があった.
Eシリーズに行けばいいではないかと言われるかもしれないが,それは違う.あれはThinkpadとは思えない.T430の正統進化版であるT14も良かったが,X1 Carbonというフラッグシップが存在する以上,比べると手抜きを感じてしまった.

それでもMacBookに戻るわけにはいかない.また壊すのはゴメンだ.それで最後に行き着いたのがHPだった.

HPは割と信用しているメーカーだ.理系大学生が研究室に配属されると,お高い実験装置をいっぱい使わせてもらう,いや使わざるを得ないのだが,そこで使われているワークステーションはだいたいHP製なのだ.NMRやらクロマトグラフィーやらをちゃんと動かすには,きっと信頼性の高いワークステーションが必要だろう.GEヘルスケアもJEOLも信用しているメーカーなら安心だろうという根拠の元,HPを使うことにした.

購入したのはHPのZBook Firefly G10A.PCワンズという日本橋のお店の展示品で11万円だった.PCワンズに日本橋に行くたびに立ち寄った思い出があったというのも,これに決めた要素であった.

いまのところ,ZBookは気に入って使っている.Macとは違う剛健さをひしひしと感じる筐体は,一緒に修羅を駆け抜けていこうという意気込みさえ感じる.スペックも十分で多分M1より速いと思う.心配していたポインティングデバイスも,タッチパッドが想像よりも使いやすくて助かった.なんとタッチパネルまでついている."macOSはUnixベースで使いやすくて~"というのは事実そうであったが,WSLでXが動いてしまう以上,brewするにもインストールが要るmacよりもいいかもとさえ思ってしまう.

もちろん,不満もある.Windows11は10よりもずっとましだが,macほど洗練はされていないように感じる.設定方法だとか,フォントの綺麗さを見ると.あとはタイプ音がちょっとうるさいか.しかしながら,MacBookにも不満がなかったわけではないので,これくらいなら目を瞑れる.

しかしながら,はじめてThinkpad T430が来たときのようなワクワク感はない.大学1年の4月に引っ越しを手伝いに来てくれたおかんと弟が帰って30分後に届いたMacBookを開封したときの,あの高揚にも及ばない.
それは多分ZBookが無理して使うようなパソコンではないからであろう.Thinkpad T430は確かに高校1年生の私には明らかに不釣りあいだったけれども,それにふさわしいくらいには成長できたのである.きっと.それに比べて,Macは明らかに無理して使っていたのだ.ちょっと高嶺の花すぎた.MacBookはあまりに社会に認められすぎていて私には早かった.MacBookをシアトル系の喫茶店に持っていって,カタカタターンできるほどには容姿も人間性も実績も,今の私には伴っていないのである.ZBookくらいがちょうどよくて,使っていて苦でないのだ.
でも,残念ながらそういう星のもとに生まれてしまったから仕方ないのである.MacBookをかっこよく使えるような人間にはなれなかったけれど,ださい凡人にもそれなりの生き方がある.それをこいつと見つけて,証明しなければならない.そう信じて,パソコンを閉じる.

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