狙われた獲物【3分ショートショート】
その狩人は双眼鏡で山を見ていた。
彼は資産家でもあり、この山の地主でもあった。
獲物を横取りする狩人を、こうして自宅から監視しているのだ。
「来やがったな……」
双眼鏡が捉えたのは、全身黒ずくめで、フードのついた服、マスクをした男だった。
狩人は猟銃を持って、男の背後に立ち銃を構えた。
「狩ならほかでやってくれ。この山はおれのものだ」
男は振り向くと、両手をあげ後退りした。
「狩なんてとんでもない。宿を探しているうちにここに迷い込んでしまったんだよ」
「……そうだったのか。それならうちに泊まるがいい。もう日が暮れるからな」
その男は、吸血鬼だった。吸血鬼には、都合がよかった。獲物が向こうから来たのだから——
吸血鬼は、銃から離れた隙に狩人を襲うことにした。
狩人は男を自宅に招くと、夕食を作って男をもてなした。
「今朝、仕留めたイノシシだ。うめぇぞ」
「こりゃ、うまそうだ(おまえもな)」
男は吸血鬼だとバレないように、牙を隠しながら料理を食べ始めた。
そこへ狩人の息子と娘が二階から降りてきた。
「パパ。おじさんの料理おいしそう!」
「早く食べたいよう」
「こら!おまえたち、まだ出てくるなって言っただろ。お客様が先だ」
「じゃあ、楽しみに待ってるね!」
「おじさん。いっぱい食べてね」
息子たちは、子供部屋へ戻っていった。
「いっしょに食べればいいのに」
「いや。二人には、ほかに食べさせるものがあるんだ」
吸血鬼は一瞬ニヤけた。(獲物が増えたぜ。こいつらが寝静まったころに襲ってやるか……)
朝。狩人は顔を洗って、朝ごはんの支度を始めた。
「おーい!朝ごはんだ。顔洗って来なさい」
「はーい」と子供たちが、二階から降りてきた。
吸血鬼は、まだゲストルームのベッドの上で眠っているようだ。
息子と娘は、その部屋にやって来た。
「パパ。おじさんの料理おいしそう!」
「そうだろ。赤い肉汁たっぷりだぞ」
人間のメイクを落としたゾンビたちは、薬で眠らせた獲物(吸血鬼)を貪り始めた。(了)