暗示
最近、健康診断の結果が芳しくないために保健師さんのカウンセリングとダイエットのサポートを受けた。
経過報告の連絡を挟みながら3ヶ月間サポートをしてくれるらしい。
俺はそんなに不健康体なのか?
最近はなるべくウォーキングをしているし、無理のない範囲でジョギングもしている。おかげでヒザが痛くなることはなくなった。調子のいい時はジャンプだってしちゃうもんね。
確かに若い頃に比べておなかが出ているように見える。労せず揉めるくらいにおっぱいも出ている。それにしてもそんなにか?監視されなければならないほど不健康体なのか?
なんだかだんだん気分が悪くなってきた気がする。
最近、立て続けに健康面を不安視するような指摘をされるのだが、こう続くと暗示にかけられているのではないかと思えてくる。俺が太ってるの健康保険センターのせいじゃないの?
たぶんこれは健康保険センターの作戦だ。周りが口頭で注意するだけじゃビクともしないだらしねぇ肥満生命体に向けた「これでダメなら次はもっと面倒臭い目に合わせるぞ?」という牽制なのだろう。
僕は決めた。保健師さんにも宣言した。甘い飲み物を絶って平日の間食は一切とらない、と。
「だ、大丈夫なんですか?いきなりそんなハードルを上げて」
保健師さんの驚いた表情が忘れられないね。大丈夫。僕、やるときはやる男の子だから。母親も言っていた。アンタはやればできると。
そして迎えた平日の夕食後。まだ物足りない僕はサバ缶を開けた。
「えっ?間食しないんじゃないの?」
妻が言う。
「お菓子じゃないんだからサバ缶は夕食の延長に違いない。」
そもそももうフタ開けちゃってるし。
妻は何も言わなかった。心が悲しくなる視線を向けられた気がするが、サバ缶は美味かった。格別だった。
そう。やればできるのだ。
工夫次第で抜け道は編み出すことができるのだ。
僕は自分自身を奮い立たせながらサバ缶をつまんだ。だけど背中越しに聞こえた妻の乾いた溜め息が、なぜか頭から離れない。