旧態依然とした旅館業界にDXを導入した革命児‐神奈川県鶴巻温泉 陣屋


1.神奈川県秦野市の老舗旅館「元湯 陣屋」は、バブル崩壊以降の売り上げ減少で、危機的状況にひんしていた。
そこで、古くからの慣習が残る旅館経営に、現代の価値観とIT技術を採用。老舗の良さも生かしつつ、徹底した情報共有を行うことで、スタッフの働き方も含めた改革を行い、見事に経営を再建させた。

2.2009年に先代の父が急逝。そんな中で跡を継ぐことになったのは息子夫婦である宮崎富夫さん・知子さん夫妻だった。富夫さんは、自動車会社のエンジニア、知子さんはリース会社に勤めており、旅館を継ぐ気はなかったが、母までも体調を崩し、一念発起して継ぐことを決めた。当時の借金が10億円。年間の赤字額が六千万円という存続の危機に直面していた。

3.跡を継いで最初に手を付けたのが、現場を回り現状の把握。そこで気づいたのが、情報が見えないことだった。原価管理はどんぶり勘定で、スタッフは予算や実績も知らず、現状の危機感もなかった。

4.そんな中で夫妻が取り組んだのが”情報の見える化と活用””既存の施設と人材の活用”でした。前者には、業界のスタンダードのシステムでは飽き足らず自社でクラウド型の情報管理システム「陣屋コネクト」(さすが、エンジニア!)を開発。これは、予約情報や顧客情報、客室ごとのタイムテーブルといった旅館の運営に必要な情報を一元管理し、タブレットやスマートフォンを通じて、それらの情報をスタッフ間で瞬時に共有できるシステムだ。

一方、既存のリソースを生かすという面では、宿泊と日帰りに続く第三の柱として、施設を活用したブライダル事業を開始。これを機に、新たな女性客の獲得を狙った。

5.二つの施策は効果てきめんだった。「陣屋コネクト」で全員が同じ情報を共有できるようになると、スタッフの指示待ちが激減。バックヤードでの業務も効率化され、接客に時間を割けるようになり、宿泊客への細やかなおもてなしが顧客満足度の向上へとつながった。

また、情報共有の徹底は効率化以外の効果ももたらした。従来の旅館では情報がフロントに集約され、そこから指示が出るため、接客、清掃という順にヒエラルキーが形成され、最初に情報を得る者が優越的な立場になる上下関係が生まれていた。しかし、誰もが同じ情報を同時に得られると、次第に組織がフラット化されていった。するとフロントが布団敷きや清掃も自然に行えるようになり、スタッフのマルチタスク化も加速した。

跡を継いで3年目の2011年には年間の収支は黒字に転換。7年後には人員も3分の1で賄えるようになった。ほとんどは定年などによる自然減。

6.一般企業の価値観と「陣屋コネクト」を駆使した改革の結果、陣屋の売り上げは10年間で倍増した。この成功を受け、陣屋では「陣屋コネクト」の外販を2018年より開始。現在は500社以上で導入されている。

7.働き方改革で、週休2日からスタートし現在は週休3日。副業も認め、賃金が低く、従業員の定着率が低い旅館業界で、旅館をあこがれの仕事にしようと奔走している。

こちらを読んで興味を持った方は、下記の日経新聞の記事もご覧ください。
専業主婦から女将へ、老舗旅館の復活劇 週3日休みに - 日本経済新聞 (nikkei.com)






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