ディズニーの教え方物語を読んで
私は、2010年3月より6年間、ディズニーのキャストでした。この本を読んでその時ディズニーから学んだことを思い出しました。また、新しい発見もありました。
まずは、新しい発見から。基本的に全員採用ということ。私も長いこと管理職として人の採用をしておりました。しかしながら、全員採用という視点で、採用面接をしたことは恥ずかしながらありません。物語の主人公である若い女性、由愛(ゆめ)は、ディズニー大好きな少女。でも「クビ王」と言われるほどそれまではどんなアルバイトをしても続かないどうしようもない子でした。
その由愛が、面接でたまたま立ち会ったミッキーの直観と推薦で夢焦がれたディズニーに採用されました。よくよく考えると、ディズニーが好きということ、素直なこと、普通はよくないことだが表情や感情が表に出てしまうこと、実はこの三点が、由愛が採用された点なのだと思います。原石の可能性を普通はだめだめな子に見出す力、どんな人にも長所があるという信念が
必要なのだと思います。
そして、そこで出会った新人トレーナーのミナギに一見地味な仕事であるカストーディアルの基礎を叩き込まれ、お互い悩み、切磋琢磨しながら、成長してゆくストーリーです。ここで、中々、普通の企業ではできないなというのは、研修の過程でおそらくものすごく一人に対して時間と労力をかけて、辛抱強く指導してゆく点です。普通の企業ができないというのは、トレーナーが、通常、普段のルーティン業務をもっていることが多く、新人や後輩の指導に充分時間をかけられないのが現実ではないでしょうか。私の過去の経験も実際はそうでした。でも、振り返ると通常業務を横においてでも、部下や後輩のために時間と労力を使う、悩みながら関係を築いてゆくことの
重要性は切に思います。結果的には、それが自身の仕事を前にすすめることになり、また、部下や後輩の成長につながることになります。それをその上に立つマネージャーは理解し、トレーナーに専念できる体制をつくることも大事なこととです。素晴らしいのは、ディズニーではトレーナーを育てる度量と仕組みができていることです。そして、そのゆとりがあることです。
ここまでの仕組みをつくるのは並大抵なことではありません。だから、ディズニーのマジックは簡単には作れないのです。
もう一つ、思い出したのは、「セーフティーファースト」の理念です。これは、ホスピタリティーや見た目(ディズニーではLookと言います)、企業で一番大事な利益よりも「安全」が優先されることです。その最たる例が、物語にも書かれている東日本大震災の時のエピソードが土台となっていると思われるシーンです。物語では、当日いかに各キャスト(ディズニーはアルバイトを含め従業員のことをキャストといいます)が”自発的”に創意工夫をして、ゲストに安心をしてもらい、安全に避難を誘導するのかが
描かれております。それは、本来、通常の企業で考えるとアルバイトがこんな権限があるのかと疑問視してしまうことも含まれます。ゲストの安全のためにその”自発的”に現場のスタッフが行ったことを、なぜ勝手にやったのかと咎めるのではなく、それを奨励、称賛する度量が社長を含めた経営層にもあります。そのような環境があるから、ディズニーは世間でも高い評価をえられるのだと思います。さらに付け加えると、ディズニーでは、ほぼ毎日、パークの中のどこかで防災などの訓練が行われています。キャスト全員が防災訓練を一同にはできませんので、部門ごとにさまざまなシナリオに応じた訓練をします。結果としてほぼ毎日訓練が行われていることになります。
私がいた部門でも、確か3か月に1回ぐらいは地震、火事、水害などの異なるシナリオごとに訓練がありました。普通の企業だと年1回の防災訓練を行っているぐらいではないでしょうか。
ディズニーの賞賛のようになってしまいましたが、私はかつてディズニーで働いたことを今でも誇りに思っています。残念ながら、その後の私のキャリアの中で、その学びや誇りを生かし切れたかどうかというといささか疑問が
あります。しかしながら、これからの人生、キャリアの中で、少しでも今思い出したことを生かしていければと思います。
本のタイトル:9割がバイトでも最高のスタッフに育つ
ディズニーの教え方の物語
著者 :かみじま柚水(ゆみ)
発行 :平成23年11月15日
発行所 :角川学芸出版