医師の読影を支援 AIを用いた画像処理技術とは
2024年8月時点の内容です
はじめに
日本人のがんによる死亡者数は2022年に約38万人で、部位別では肺がんが約77,000人と最も多く、その数は年々増えています(※1)。肺がんは病気の度合い(ステージ)が第1~4期まで分かれており、第1期に発見することができれば5年生存率は約8割(※2)と言われています。早期発見して適切な対応を取ることが重要な病気ですが、早期はほぼ自覚症状がなく、発見が遅れる原因となっています。
病気を早期発見する方法の一つに「画像診断」があります。これは体の内部を「目に見える画像」という形で表示し、それを見て病気かどうかを判断する、という診断方法です。肺がんの画像診断に用いられるものに、胸部X線画像と胸部CT画像があります。医師が画像を読み解き、診断する行為を「読影(どくえい)」と言います。
近年、その画像診断を行う医師への支援システムとして、AI技術が用いられています。本稿では、画像診断に使用される胸部X線検査と胸部CT検査の概要と、胸部画像診断(読影)を支援するシステム「ClearRead」シリーズ、そしてそのシステムに用いられるAI技術についてご紹介します。
(※1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
(※2) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計報告書」「5年生存率集計報告書 2014-2015年」
定期健診などで一般的に使用される胸部X線検査とは
胸部X線検査は我々にとってとても身近なものです。検査によって得られるのが胸部X線画像、いわゆるレントゲン写真で、医師がこれを見てさまざまな病気を発見することができます。胸部X線画像は元々結核の予防のために撮影されてきましたが、現在では定期健康診断のほか、特定の病気を調べる検診などで一般的に使用されています。その例の一つが「肺がん検診」で、胸部X線撮影は必須とされています。
胸部X線画像の読影。限られた情報量から病変を見つける知識と経験が必要
胸部X線検査はほかと比較して検査時間が短く、さらに低被ばくという特徴があります。しかしその簡便性とは裏腹にCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴撮影)に比べてX線画像から得られる情報量は限られています。画像の情報の中から病気と思われる箇所(病変)を探す作業、「読影」は専門性が求められる作業であり、豊富な知識と経験が必要となります。
その一方で、胸部X線画像から病変を読み取ることを専門とする放射線専門医や呼吸器専門医の数は年々減少しています。また、胸部X線は先述の通りあらゆる場面で撮影されるため、院内のさまざまな分野の医師がかかわります。多くの医師に対して診断を支援する画像や技術が提供されれば、日々の診療に大きく貢献できることになります。
医師の胸部X線読影を支援する「ClearRead XR」
このような状況の中で、どうすれば診療に携わる医師の支援ができるでしょうか。解決策の一つとして当社が展開しているのが、Riverain Technologies社製の胸部読影支援システム「ClearRead」シリーズの、「ClearRead XR」です。胸部X線読影支援システム「ClearRead XR」(※3)は、日々の診療現場において撮影される胸部X線画像に対して、画像処理技術を行うことにより、医師の業務を支援しようというものです。
(※3) 医療機器販売名:胸部X線骨組織透過処理システム ClearRead XR 医療機器認証番号:303ADBZX00013000
AI技術で骨組織を透過させて隠れていた影を見つける
「ClearRead XR」において最も基本となる技術が、骨組織を透過させる技術である「Bone Suppression(BS)」です。 このBS は、胸部X線画像における肋骨、鎖骨といった骨組織を画像処理によって透過させることにより、その骨組織に重なって見えづらかった異常陰影(病気と思われる部分)を見えやすくする技術です。
BSの技術にはAI技術の機械学習の手法の一つであるディープラーニング技術が用いられています。この処理は専用の画像処理サーバにて全自動で実施され、診療に携わる方々の手を煩わせることがありません。また受診者に特別な負担を強いることもなく、普段の運用そのままで、読影を補助する画像を生成することが可能です。これにより異常陰影の発見に貢献することが期待でき、多くの胸部X線画像を限られた人数で読影している施設を支援します。
さらなる画像処理で過去からの変化を見る
「ClearRead XR」はBSだけでなく、さらなる画像処理を加えることができます。それが経時差分処理技術である「Compare」 です。これは、同じ受診者の現在と過去の画像を重ね合わせ、その差をとることにより時間経過によって変化した部分をわかりやすくする、という技術です。
例えば1年前は画像上から何も発見できなかった場合でも、その1年後に病変が発見されることがあります。また、既にある病変が時間経過により悪化したり、逆に良くなったり、といった経時変化が発生することもあります。この変化した箇所を強調する画像を、画像処理によって生成します。医師は変化した部分に気づきやすくなりますので、今回撮影した1枚の画像だけを確認するよりもさらに精度よく病変を確認し、その変化を把握できます。
この技術は、数多くの受診者の画像を限られた時間で読影する必要がある健診業務において、特に貢献します。
より小さながんも発見、胸部CT検査とは
CT検査は、X線を用いて体を輪切りの状態にした画像を撮影するものです。CT検査では5mm以下の小さながんも明瞭に表示されるため、比較的早期の肺がんを発見することができ、その結果治療できたというケースも多く報告されています。そのため、通常の健康診断(胸部X線検査)よりもさらに細かく検査を行う、CT検査を用いた肺がん検診の取り組みが近年活発化しています。
胸部CT画像の読影。画像枚数が多く医師の負担が大きい
CT画像の読影には豊富な解剖学的知識と経験を持つ放射線専門医および呼吸器専門医の力が必要です。これらの専門医師の数も年々減少しており、特定の医師に過剰な負担がかかっています。また、1検査あたり100~150枚におよぶ膨大な枚数の画像を読影して診断するため、見落としや読影時の心的負担も課題となっています。
医師の胸部CT読影を支援する「ClearRead CT」
医師の負担軽減のため、当社では「ClearRead」シリーズの、胸部CT画像読影支援システム「ClearRead CT」(※4)を展開しています。胸部CT画像はその大部分が血管です。ディープラーニング技術を用いてその血管を透過し、血管部と重なって見えづらい異常陰影などの関心領域(ROI)の視認性、その発見率の向上に寄与する読影補助画像を生成します。この処理も専用の画像処理サーバにて全自動で実施されるため、診療に携わる方々、受診者の手を煩わせることがありません。また、単純、造影、低線量CT画像に対応し、さまざまなケースで撮影された検査の読影を支援します。
(※4) 医療機器販売名:胸部CT読影支援システム ClearRead CT+DC 医療機器認証番号:303ADBZX00098000
AI技術で肺血管を透過処理して影を発見する
胸部CT画像では異常陰影が明瞭に表示されますが、CTであっても見落としやすい部分があると言われています。一つは気管支内の異常陰影、もう一つは血管と同程度の径の異常陰影です。血管は薄いスライスで切るとドット状に見えるため非常に見づらく、見落としやすくなるのです。これらも肺血管が透過されることで発見が容易になります。
また、結節(肺がんや肺結核などの病気が疑われる円形の陰影のこと)の描出に大きな効果を発揮します。例えば検診において結節というのは6mm以上のものを主に検出します。それに対して一般診療では、例えばがんの転移検索においては5mm 以下の結節も見つける必要があります。そのような小さい結節も、肺血管が透過された画像上ではその視認性が向上します。このように、肺血管透過処理技術は精密検査、がんの転移確認、経過観察などにおいて、読影スピード、読影精度の維持向上に寄与します。
さらなる画像処理で陰影の体積を自動計算、過去との比較も
「ClearRead CT」も追加の画像処理を行うことにより、さらに読影を支援します。
一つ目は発見した異常陰影などの関心領域の辺縁を抽出し、その径や体積を自動計測する処理です。異常陰影の大きさは医師の判断に必要です。CTは体を輪切りにした画像のため、該当する陰影の体積を確認するには複数のスライスを改めて確認する必要がありますが、画像処理によりその計測を自動で行います。
二つ目は経時差分処理です。過去の検査で発見された異常陰影と同一と思われる関心領域をマッチングし、過去から現在における体積変化、想定される倍加時間などの比較情報を自動計算します。これらの情報はレポートとして自動出力され、比較情報を容易に確認でき、医師の判断を助けます。
おわりに
今回ご紹介した「ClearRead」シリーズは、医療機関において限られた数の医師が膨大な枚数の撮影画像を読影する必要がある、という背景のもとで、病気の早期発見、病変の検出、関心領域確認を支援する技術です。今後もこれまでにない新しい製品、技術を通じて国内の医療に貢献してまいります。
【筆者紹介】
株式会社東陽テクニカ ライフサイエンス・ソリューション 係長
青木 実花咲
現在、医療関連製品のアプリケーション、技術サポートに従事。