設備保全の動向と設備診断用振動センサ

2017年1月時点の内容です

はじめに

昨年10月12日の夕方に起きた東京都の広域停電を覚えている方はまだ多いと思います。本稿執筆時点ではまだ詳細な原因の発表はありませんが、ケーブルの老朽化による絶縁破壊からの火災の可能性が高いようです。
現在、高度成長期からバブル期にかけて建設・敷設された工場や社会インフラがまだ多く使用されています。そのため、設備の老朽化による不具合や事故を防ぎ、延命化のための保全を最適なコストで行うことが大変重要になっています。
また、IT技術の急速な発展により設備保全のあり方は大きく変わろうとしています。今回は、設備保全の現状と将来、および設備を診断するうえで重要な振動センサについて、ご紹介いたします。

設備保全の方式

設備保全にはいくつかの方式があります。
• 事後保全(Breakdown Maintenance)
機器が故障したら直す方式
• 予防保全(Preventive Maintenance)
機器が故障する前にメンテナンスを行い、故障を未然に防ぐ方式

予防保全には下記の2 種類があります。
• 時間基準保全(Time Based Maintenance)
一定の周期でメンテナンスを行う方式
• 状態基準保全(Condition Based Maintenance、予知保全Predictive Maintenanceとも呼ばれている)
設備の動作状態の測定により劣化の程度を把握し、故障を予知することで適切なメンテナンスを行う方式

日本では、状態基準保全は実施するためのコストの問題および欧米との雇用形態の違いからくる保全技術者の高度な設備診断能力のため欧米ほど普及せず、時間基準保全を主体に設備の重要度に応じてそれぞれの方式を組み合わせてきました。

しかし、最近では、オーバーメンテナンスによる無駄、高度な設備診断能力を持つベテラン保全技術者のリタイアが問題になっています。
さらに、設備の老朽化からくる想定外の要因による突発故障に起因する、緊急メンテナンスによるコストの拡大、非定常操作を緊急に行うことによる運転リスクの増加、非計画停止による経済的損失も大きな問題となっています。

そのため時間基準保全から、最適なタイミングで保全計画が立てられる状態基準保全へと移行しつつあり、今年の4月1日に施行される「高圧ガス保安法」の改正もその一例と言えます。
また、前述のケーブル火災事故の報告にも時間基準保全からIoTを活用した状態基準保全などを検討すると言った内容の記述があります。

予知保全の現状と今後

状態基準保全の実施で大変重要なのは設備診断技術です。設備診断には、設備の状態を把握するためのセンサと、設備の故障を予知し異常の原因を分析する技術が必要です。

設備診断に必要な主なデータとしては、振動、音響、圧力、トルク、回転数、潤滑油の成分・混入物、気体・液体の成分、電流、電圧、絶縁抵抗、磁束密度、温度、光学、X 線などがあります。これらのデータの中で特に重要なのが振動データです。日本プラントメンテナンス協会のデータでは、トラブル要因の約40%が振動によるものとされています。

予知保全のシステムは、モーター、コンプレッサー、タービンなどプラントの重要設備を提供しているメーカーをはじめ、プラントエンジニアリング会社などが提供しています。従来のこれらの予知保全システムは、設備診断に必要なデータを独自に取得していましたが、最近では、プラント運転・制御のためのデータを制御システム経由で取込み、より高度な診断ができるようになっています。

一方、計装メーカーからは、プラント運転・制御のための温度、圧力、流量、タンクレベル、バルブの開度などのデータの相関関係を分析し、プラントの異常検知や未来の変動を予測するシステムが出てきています。また、センサの設定データやキャリブレーションデータ、稼働時間などの保守管理情報、センサ自身が行う自己診断結果やオリフィス流量計の導圧管の詰まり、バルブの固着・かじりの予知などの現場の診断情報を従来の2線式配線を変えずに送れるデジタル通信技術の規格化により、設備の状態や現場のセンサ類をオンラインで管理・監視・診断するシステムも出てきています。

さらには、無線計装システムもリリースされ、現在、注目されています。設備診断には振動の情報は非常に有効ですが、配線工事のコスト面から重要設備での導入が一般的でした。しかし、無線式振動センサにより、振動計測が安価で実現しようとしています。プラントを対象にした無線計装は現在、「Wireless HART」と「ISA100 Wireless」の主に二つの規格がありますが、その両方から無線式振動センサはリリースされています。

このように従来、個別に独立していたシステムのデータ(プラント運転・制御用データ、設備診断用データさらには緊急遮断システム用データも含む)を容易に取得、共有、再利用できるようになり、操業状況などの情報と共に多面的に分析することにより、従来では検知できなかった故障や残寿命期間の予測、リスク管理、メンテナンス管理、設備資産管理を一元化するシステムが今後、一般化してくると考えられています。

設備診断用振動センサ

前述のようにプラントの設備診断には、振動を計測するセンサは非常に重要です。当社ではアメリカの振動センサメーカーであるPCB社製のセンサを扱っています。設備診断で使用するセンサは、一般的な仕様と違い、SUS 製ハウジング、溶接密閉構造、ケース絶縁構造、保護等級IP68、国内・国外防爆規格などを有しています。

ここでは、上記仕様以外にも特長があり、設備診断用として広く採用されている2種類のセンサを紹介いたします。

1) 2線式4~20mA出力加速度センサ 640シリーズ
一般にプラントや工場で使用される流量、圧力、タンクレベルなどのセンサ類は、24VDC 駆動の2線式4~20mA出力です。640シリーズはこの仕様を満たしており既設のSCADA、DCS、PLCなどとの親和性に優れています。

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2線式4~20mA出力加速度センサ 640シリーズ

2) 袋ナット一体型小型加速度センサ 607Aシリーズ
センサ本体が小型、設置用の袋ナットが一体化、ケーブルが横取り出しのため、取付け場所の選定や取付け作業が容易です。682B03信号変換器と組み合わせて、24V DC 駆動、4~20mA出力を実現しています。オプションでセンサ部温度を同時に計測可能な仕様もあります。このシリーズは、某電気メーカーの無線式回転機振動監視システムにも採用されています。

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小型加速度センサ607Aシリーズと変換器682B03

この他にも多軸センサ、超高温用、超低温用などのシリーズも揃えています。

おわりに

設備の老朽化とIT技術の発展により、プラントの設備保全・診断のあり方が大きく変わろうとしており、そのため“ 振動を計測する”位置付けも大きく変わろうとしています。また、これらの最新の技術と同時に、設備診断用センサは、苛酷な環境でも耐えられる堅牢性、信頼性、設置の容易性、既設システムとの親和性も併せ持つ必要があります。

当社が提供するPCB社製振動センサは、世界各地で設備診断用として広く採用されており、今後の日本の新しい設備管理システムの一助になると考えています。

筆者紹介
株式会社東陽テクニカ 機械計測センサ部 中林 秀典
2016年入社。プラント・工場向け設備診断用加速度センサを担当。

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