モバイルインターネットを支える高速イーサネット技術
2014年9月時点の内容です
モバイルIPトラフィックの増加
個人ユーザや企業が使用するIPトラフィックはこれまで順調に増加し、近年では、クラウドやスマートフォンの登場によって、さらにトラフィックが増えることが予想されています。IPトラフィックのトレンドについては様々な機関等から統計データや予測が公開されていますが、ここでは2014 年6月にシスコシステムズから公開されたレポート(*1)を元に、世界のIPトラフィックがどのような状況であるかを紹介していきます。
図1:全世界の IP トラフィック予測
*1 Cisco Visual Networking Index(参照URL http://www.cisco.com/web/JP/solution/isp/ipngn/connlife/vni.html)
図1は2013年から2018年の、1ヶ月あたりに流れるIPトラフィック総量の予測です。2018年には1ヶ月あたり約132エクサバイト(=10の18 乗バイト、テラバイトの百万倍)に達し、2013年から比べると約2.5 倍、年平均成長率(CAGR)は21%になると見込まれます。
図2:全世界の IP トラフィック予測(有線と無線)
2018 年時点のIPトラフィックをアクセス回線種別ごとに分析したところ(図2)、Wi-Fi デバイスが49%、モバイルネットワークからのアクセス割合は12%を占めると予想されます。一方で有線ネットワークからのアクセスは39%にとどまると見込まれ、IPトラフィックについては有線ネットワークよりも無線ネットワークからのアクセスが上回ることになります。特にモバイルネットワークからのアクセスは2013 年から2018年の6年間で11倍に増加する予想となり、モバイルが今後のIPトラフィック増加の主要な要因となることが分かります。
モバイルデバイスは端末上のメモリやストレージに制限があります。そのためデータを端末で保存するのではなく、iCloudなどのクラウドアプリケーションやサービスを大いに活用することとなります。2018 年までにはクラウドアプリケーションがモバイルデータトラフィックの90%を占める見込みです。また2018 年のモバイルネットワークからのIPトラフィックは月間 15.9 エクサバイトに達しますが、そのうち11エクサバイトがビデオトラフィックになるとも予想されています。
進化を続けるイーサネット
モバイルを主として増え続けているIPトラフィックを、情報通信ネットワークはどうやって支えているのでしょうか?その中心となるテクノロジーが「イーサネット(*2)」です。
本来イーサネットはLAN(Local Area Network)向けの技術でしたが、近年ではWAN(Wide Area Network)でも中心となっており適用領域をどんどん広げています。これはイーサネットが多機能化や高速化した規格を追加し、常に進化し続けてきたことが理由に挙げられます。モバイルネットワークも例外ではなく、3G/LTEの無線基地局やWi-Fiアクセスポイントから、通信事業者の中枢ネットワークまでは、イーサネットなど広帯域の有線ネットワークで接続されています。
図3:主なイーサネット規格の標準化時期
図3は主なイーサネット規格が標準化された時期と転送速度を示しています。図のうち青で示したものはツイストペアケーブル(より対線: Twisted Pair Cable)を使用する規格です。ツイストペアケーブルは取り扱いが簡単で、イーサネットの普及に大きく貢献しました。現在でも「LANケーブル」として家電店などに流通している製品の大部分はツイストペアケーブルです。イーサネットではツイストペアケーブルや光ファイバなどの様々メディアを使って、10Mbpsの転送速度を持つ10メガイーサから100メガイーサ、そしてギガイーサや10ギガイーサと進化してきました。
2010年6月には、さらに高速な40ギガイーサおよび100ギガイーサが標準化されました。100ギガイーサを使ったネットワークではブルーレイディスク1 枚分に相当する25ギガバイト(1バイト = 8ビット)のデータを2 秒で転送することが可能になります。これらの高速イーサネットでは、長くイーサネットの発展を支えてきたツイストペアケーブルの利用については規格化されていません。極めて近距離(1m、7m)の場合を除いて光ファイバを使用することとなります。
また、光ファイバでもこれまでイーサネットでは用いられていなかった複芯ファイバを使用する規格があります。これは40ギガイーサ/100ギガイーサで取り入れられたマルチレーン分配(MLD: Multi LaneDistribution)という技術が大きく関係します。例えば100ギガイーサの場合、短距離伝送規格の100GBASE-SR10では複芯光ファイバを用い、複数ある光コアのうち送信側で10コア、受信側で10コアを使用して、それぞれ10Gbpsで転送が行われます。一方同じ100ギガイーサの長距離伝送規格である100GBASELR4では、単芯光ファイバを用います。この場合は4つの光波長を用いる光波長多重方式(WDM: Wavelength Division Multiplex)を用いて、転送が行われます。
このように100ギガイーサは4または10という異なるレーン数を持つメディアを扱うため、中間となるPCS(Physical Coding Sublayer)レイヤではあらかじめ各メディアの最小公倍数となる20レーンに分配し、均等にマルチレーン分配を行えるような仕組みをとっています。
*2 イーサネットは、富士ゼロックス(株)の登録商標です。
100ギガイーサネットの普及
モバイルの中枢ネットワークをはじめとして、高速イーサネットの実ネットワークへの適用が着々と進んでいます。日本国内においては、IPトラフィックの急増に対応するため、10ギガイーサから100ギガイーサに移行することで高速化する事例が多いようです。100ギガイーサ導入の追い風となっているのが、光ファイバとネットワーク装置を接続するためのトランシーバの技術革新です。100ギガイーサが標準化された当初はCFP( Centum Form-factor Pluggable,Centumはラテン語で100の意)のトランシーバが主流でした。
従来のギガ/10ギガイーサネットでは、幅14mmのSFP(Small Form-factor Pluggable)/SFP+トランシーバがよく用いられますが、CFPトランシーバは幅82mmで、SFPトランシーバに比べて大型です。これはWDMなどの複雑な機構をトランシーバ内に実装していることが主な理由です。また、発売当時のCFPトランシーバはSFPトランシーバと比較して単価が10倍を超えることもあり、非常に割高でした。
昨今では、より小型の回路でWDMを実現できるようになり、CFP より小型な100ギガイーサ用のトランシーバが開発されています。図4の左はCFP、中央は「CFP2」と呼ばれるトランシーバです。どちらも100ギガイーサ対応ですが、CFP2は幅が41mmとCFPの半分になり、スマートフォンより一回り小さいサイズです。併せて単価や消費電力も低減されました。さらに世代が進んだ「CFP4」では、幅21mmとさらに小型化されています。これら以外にも、100mの短距離伝送で使用する「QSFP28」、一部ベンダのネットワーク機器のみでサポートする「CPAK」といった100ギガイーサ用トランシーバが開発されています。
CFP2トランシーバは2013年3月にCFPMSA(*3)により仕様化が完了しており、同年には製品化されました。2014年にはCFP2対応のネットワーク機器が販売されました。CFP対応の従来機器より高密度で100ギガイーサを実現しています。CFP4トランシーバは、2014年3月に仕様化が完了しましたが、本原稿の執筆時点(*4)ではまだ製品化されていません。近い将来に販売されますと、100ギガイーサの普及がさらに進むものと見込まれています。
*3 Centum Form-factor Pluggable Multi Source Agreementの略。IEEEではトランシーバの仕様の詳細を規定していないため、トランシーバのベンダが共通仕様を定義して製品を作る。
*4 2014年7月時点
図4:100ギガイーサ用トランシーバの小型化
400ギガイーサネットへの挑戦
100ギガイーサを中心とした高速通信の製品化、運用検討と並行して、さらに先を見据えた活動が既に始まっています。2014 年5月に、IEEE(*5)で「802.3bs400Gbps Ethernet Task Force」が立ち上がりました。100ギガよりさらに高速な400ギガイーサネットの標準化が目的で、2017年初頭を標準化の完了目標としています(図5)。
*5 米国電気電子学会 (The Institute of Electrical and Electronics Engineers)
図5:802.3bs 400Gbps Ethernet Task Forceの標準化スケジュール
出典: John D'Ambrosia, “The 400 GbE Project: An Overview,” IEEE P802.3bs 400GbE Task Force, May 2014
400ギガイーサのテクノロジーも、従来の10ギガ、40ギガ、100ギガイーサの技術を拡張して実現される予定です。100ギガイーサの場合と同様に短距離伝送規格では複芯光ファイバが、長距離伝送規格では単芯光ファイバの利用が検討されています。各メディアのレーン数の組み合わせは4/8/16が候補になっており、PCSレイヤでは16レーンでのマルチレーン分配となる事が有力ですが、本原稿の執筆時点で、まさに議論がなされているところです。
標準化活動が始まったばかりの400ギガイーサですが、高い技術力を持つベンダを中心に装置開発や相互接続試験への取り組みがどんどん進んでいます。2014 年6月には米国Spirent Communications社、中国Huawei 社、米国Xilinx社が共同で400ギガイーサ対応コアルータの相互接続試験を公開しました(図6)。
図6:400ギガイーサ対応コアルータの相互接続試験
出典: http://www.spirent.com/go/400G
高速イーサネット時代のパフォーマンステスト
先に述べたように、ネットワーク装置への高速イーサネットの実装は、増加の一途をたどっています。高速イーサネット装置に対しての要求はさらにシビアになり、今まで以上にテストの重要性が増していますが、これには以下のような理由が挙げられます。
• 新しいテクノロジーの動作を確認するため
• パフォーマンスやスケーラビリティが投資に見合うかどうか確認するため
• Q o S(サービス品質: Q u a l i t y o fService)が担保できるか確認するため
• ネットワークの運用時に必要な情報を収集するため
• 高速イーサネット装置の機種選定を効率的に行うため
テストにも目的に応じて様々なタイプがあり、今最も必要とされているのがパフォーマンステストです。折角新しいテクノロジーを導入して構築したネットワークも、どこか一つの装置でも不十分なパフォーマンスであれば、ボトルネックが発生し、全体のネットワーク品質を下げる原因となってしまいます。100ギガイーサネットの普及が進んでいるとはいえ、まだまだ高価な製品であり、費用対効果の正確な見極めが必要です。パフォーマンステストを通じてネットワークの品質向上へのポイントを把握し、投資をより最適化することが可能です。
当社では米国Spirent Communications社の次世代IPパフォーマンステスタ「Spirent TestCenter」を用いて国内のパフォーマンステストを長年リードしてきました( 図7)。40ギガイーサ/100ギガイーサにおいては、標準化前の2010年2月に市場へ投入し大きな注目を集めました。2013 年8月には、CFP2トランシーバ対応の100ギガイーサテストモジュールを世界で初めて発表し、2014年6月には、1 枚で100ギガイーサ4ポート、計400Gbpsのパフォーマンステストが可能な、CFP2トランシーバ対応の高密度100ギガイーサテストモジュールの販売を開始しました。このモジュールはCFP4トランシーバにも対応しており、トランシーバベンダと共同のライブデモンストレーションに成功しています(図8)。
モバイルインターネットの台頭により、今後より一層加速していく日本の情報通信ネットワークの大容量化、高機能化そして高品質化に対して、当社も貢献してまいります。
図7:次世代IPパフォーマンステスタ「Spirent TestCenter」
図8:Spirent TestCenterにCFP2/CFP4トランシーバを接続して性能測定