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EMI測定分野における「EMINT」への期待と共同開発・利用の試み

2022年12月時点の内容です

東陽テクニカが開発・販売している、AIとデジタルでEMI対策業務をアシストするソフトウェア「EMINT」。共同開発者でもある富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 国際認証センター 主任エンジニアの原口直也氏にお話を伺いました。

まずは原口氏が所属する国際認証センターの業務内容やEMI測定に関する課題などに触れ、その中で「EMINT」の共同開発のきっかけや活用方法、さらには今後の展望についてもご紹介します。

【インタビュアー】
李 从兵
(株式会社東陽テクニカ ワン・テクノロジーズ・カンパニー インキュベーションユニット 主任)


さまざまな試験をワンストップで提供する国際認証センター

富士フイルムビジネスイノベーションの事業概要について教えてください。

2021年4月1日に、富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションに社名が変わりました。富士フイルムブランドのもとでグループ内の連携を強化することでシナジー効果を創出し、さらなる革新を目指しています。

富士フイルムグループは大きく4つの事業セグメント(ヘルスケア、イメージング、マテリアルズ、ビジネスイノベーション)に分かれており、このうち富士フイルムビジネスイノベーションは主にビジネスイノベーション領域を担っています。「オフィスソリューション事業」「グラフィックコミュニケーション事業」「ビジネスソリューション事業」の3本柱で紙中心のビジネスからの事業構造転換を図っており、クラウドサービスやDXなどのビジネスソリューションを通じてお客様の経営課題の解決、価値創造に取り組んでいます。

原口様の所属部署の業務内容や役割について教えてください。

複合機やプリンターなどを販売するにあたっては各国の法規制に適合する必要があり、私が所属する国際認証センターでは規格に基づいた評価ができる環境を構築しています。開発段階の評価から最終の認証試験までをワンストップで提供しており、商品のタイムリーな市場投入に貢献することがミッションです。

国際認証センターでは「EMC(電磁両立性)測定」「無線機器測定」「音響(騒音)測定」「排出化学物質(ケミカルエミッション)測定」「特定有害物質測定」「消費電力測定」「EMF(電磁波人体暴露)評価」「電気・機械的安全性試験」「レーザー安全性試験」の9分野の試験を取り扱っており、その中で私は電波領域(EMC、無線、電磁波人体暴露)を担当しています。各分野にエキスパートの技術者がいるというのが、我々の強みです。また、当社としてEMC分野では2002年にISO/IEC 17025の試験所認定を取得しております。

業務内容としては規格認証のためのEMC試験を行うだけでなく、国内外の標準化団体や工業会を通じた新しい規格の提案・策定にも参加しています。新しい規格に対応すべくインフラ整備や設備投資の計画を立てることも、タイムリーな市場投入には非常に重要な役割と考えています。また、新しい評価技術を導入した場合には第三者機関の認定を取得し、適合性評価結果として外部に提出できるようにしています。

目に見えない電磁波を相手にするEMI測定 -業務の属人化が課題

EMI測定(※1)業務との関わりや現在の課題についてお聞かせください。

私の業務は規格策定や測定法の開発などがメインなので、自社製品のEMI測定業務を実際に行うことはありません。ただし規格策定時に社内外でさまざまな実験を行っており、その中で自社製品に規格を適用するとどうなるかを想定してEMIの実験を行うことはあります。また新しい規格が適用される場合には、開発部隊と協力して商品開発にどのような影響を及ぼすかを検討することもあります。

現在の課題としては、開発、規格策定、規制、評価とさまざまな部門で測定業務を行っていることもあり、部門間でのデータ共有が課題と考えています。

※1)EMCの分野ではノイズ規制としてEMI(エミッション)とEMS(イミュニティ)が規定されている。このうちEMI規制では電子機器が外部へ発するノイズの強さを規制しており、放射性ノイズと伝導性ノイズの2つを測定する必要がある。

EMI測定を行っている製品の特徴について教えてください。

複合機やプリンターがメイン製品となりますが、オフィスで使用する小型プリンターから商業用印刷物の印刷などで使用する大型プリンター(プロダクションプリンター)まで担当しています。これらの製品は、一般的な電子機器と比較してさまざまな動作モードがあることに加えて、機械的な要素も絡んでくるため、EMI測定も非常に複雑になることが特徴です。

EMI測定においてどのような悩みや課題がありますか。

複合機は定常ノイズだけでなく間欠ノイズ(※2)も発生し、複雑なノイズの挙動を示します。そのためEMI測定の難易度が高く、その上でノイズ対策まで必要となると要求される技術レベルがさらに高くなってしまいます。そのため、どうしても業務が属人化してしまいがちという課題があります。業務の属人化については弊社だけでなく、EMC業界全体の課題とも感じています。

また最近はフロントローディング(初期工程で問題点を洗い出して修正をかけること)の一環としてシミュレーションを用いたEMC性能の作り込みが重要視されていますが、複合機全体をシミュレータ上でモデル化することは現実的ではありません。そのため実際には現場での試行錯誤が必要となり、それにより電波暗室を占有することになり、電波暗室不足を招くこともあります(※3)。

※2)複合機における間欠ノイズの例としては、印刷時やメモリの書き込み時にのみ発生するノイズがある。いずれもその瞬間でしかノイズが発生しないため、EMI測定、ノイズ対策の難易度が定常ノイズと比較して高い。
※3)EMI測定では試験対象機器(EUT:Equipment Under Test)の全ての動作モードを評価する必要がある。複合機の動作モードが多岐にわたるため、1機種あたり1.5ヶ月以上の試験期間を要するものもあり、ノイズ対策が不十分で再測定となると更に電波暗室での試験期間が延びることになる。

「EMINT」によるデータ共有がEMI測定のDXを推し進める

「EMINT」の共同開発に至った動機について教えてください。

共同開発の最も大きな動機は、EMI測定やノイズ対策業務の属人化を緩和するためです。これまで多くのEMI測定を行う中でさまざまなデータを蓄積してきましたが、あまり有効に活用できていなかったというのが実情でした。

そんな中で、2018年頃に東陽テクニカ様よりAIを活用した測定データ解析のご提案をいただいたことが共同開発のきっかけです。その当時タイムドメイン機能を使ったEMIレシーバが普及し始めて、測定データの有用性・再現性が高まったことも共同開発に至った要因の一つです(※4)。

もちろん東陽テクニカ様との長年の付き合いの中での信頼があってこそですが、ご提案内容を聞いて測定データの有効活用の現実性が高まってきたなと感じました。

「EMINT」画面イメージ

※4)EMIレシーバは掃引型とタイムドメイン型に分かれる。従来の掃引型EMIレシーバの場合、原理的に間欠的なノイズは取りこぼしが発生する。一方でタイムドメイン型はリアルタイムに一定の周波数帯を測定し続けるためノイズの取りこぼしがほとんど発生せず、信頼性の高い測定データが得られる。

EMI測定において「EMINT」をどのように活用できますか?

続きは「東陽テクニカルマガジン」WEBサイトでお楽しみください。