音響レンズの技術紹介

2018年1月時点の内容です

音響レンズとは、一般的にはソーナーと呼ばれる、水中において超音波を使用して画像(音響画像)を得る装置における一つの方式です。夜間や濁水中などの視界ゼロの環境でも対象物を図1のように、高解像度な音響画像として捉えることができます。水中での反射強度を濃淡で表し画像を作成するため、海中の構造物、チムニー(※1)やオイル流出なども判別可能になります。また、非常に高解像度であるため、海中生物の観察や機雷捜索などにも活用されています。

※1)熱水噴出孔より噴出された金属や硫化水素などにより形成される構造物

画像1

図1:水中でソーナーが捉えたダイバーの手の平


開発経緯

音響レンズは、1992年に米国海軍研究所 爆発物処理研究部隊とワシントン大学、Ultra-Acoustics社が、視界の悪い濁水中および夜間においても、ダイバーが接触することなく機雷を探知できる技術として開発を始めました。

ダイバーが携行するため、開発するソーナーには小型軽量・省電力性が要求されました。開発チームはいくつかの方法を検討・検証した結果、1MHz以上の周波数を使用し1度以下の分解能の音響レンズを使用したソーナーの開発に成功しました。音響レンズを使用することにより、既存の技術「ビームフォーミング方式(信号処理によりビームを作成する方式)」に比べて飛躍的に高分解能なビームを低電力にて作成できるようになりました。開発直後は米海軍および関連機関のみで運用されていましたが、現在では海軍だけではなく、研究機関や民間にもその技術は開放され、今後もさまざまなアプリケーションへの展開が期待されています。

音響レンズ方式について

これまで水中にて音響画像を得る方式で一般的であったビームフォーミング方式は、複数のトランスデューサ(音響素子)を直線状に並べ、それぞれのトランスデューサで受信した信号を処理して統合することにより、角度方向に分解能を持つ1つのビームを作成しています。

これに対して音響レンズ方式によりビームを作成する場合、一定方向から到達した音波を3つのレンズを使用して屈折させそれぞれのトランスデューサに集約するため、トランスデューサに音波が到達した段階で既に角度方向の情報を持っています。このため、単一のトランスデューサで受信した信号をそのまま使用することができます。例えば図2では、30度方向からソーナーに到達した音波を、レンズを使用してトランスデューサRx1に集約しています。Rx2では30度-α方向からの音波を受信します。

このように、トランスデューサへの負荷および信号処理に要する計算量が、音響レンズ方式はビームフォーミング方式に比べて飛躍的に小さいため、音響レンズ方式を使用したソーナーは小型化・省電力が可能になります。また、通常のカメラと同様にレンズ間の距離を調整して焦点を合わせることができるため、角度方向の高分解能化が可能です。

画像2

図2:「音響レンズ」原理のイメージ図

まとめ

近年では、音響レンズを使用した「音響レンズ式水中イメージングソーナー」は、水中での物や遭難者の捜索、海中生物の観察・生態調査、海中構造物・パイプラインなどの調査・監視など幅広い分野で使用されています。コンパクト性、省電力、高分解能性が評価され、伊勢志摩サミット、洞爺湖サミット、APECなどで採用され、海中での不審物探査において大きな成果を上げています。多くのアプリケーションに対応可能であることから、今後も、音響レンズ技術を使用した音響レンズ式水中イメージングソーナーの発展が期待されます。

画像3

図3:伊勢志摩サミットでも活躍した
「音響レンズ式水中イメージングソーナー」

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部 柴田 耕治